GMの手腕次第でクラブの未来は変わる── 識者3人によるJ1クライマックス座談会【後編】

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“ブースター”を吐き出したか加えたか

夏の加入後、ゴールを量産しているラファエル・エリアス。シーズン中に積極的な補強を敢行し、残留争いから一歩抜け出した京都は、優勝争いをも左右する存在に 【(c)J.LEAGUE】

──では、ここからは残留争いに焦点を当てましょう。京都サンガF.C.、柏レイソル、湘南ベルマーレ、磐田、札幌、鳥栖。京都は抜け出した感がありますね。

池田 残留争いを展望する上でも、シーズン中の補強がポイントになってくる。実際、どこが一番補強したかと言えば、それはここに来て結果が出始めている京都なんです。曺貴裁監督は得点力のある外国籍ストライカーを使うのがうまい監督。だからこそ上に行くには優秀な外国人ストライカーの存在が不可欠だったんですが、クラブとしてそこが全然補強できていなかった。ついにラファエル・エリアスを獲得して、思惑通りにゴールを量産してくれているのが、なによりも大きい。

河治 エリアスは期待した以上の化け物でしたよ。夏に加わると、タイムラグすらなく“オルンガ級”の爆発力を発揮している。あと、パリ五輪で悔しい思いをして帰ってきたボランチの川﨑颯太が素晴らしくて、本当にA代表に推薦したいくらい。怪我人も戻ってきた京都は今、攻守がすごくかみ合っている。最終的に6位くらいにまで浮上する可能性だってあるし、同時にヴィッセル神戸、広島、町田と上位陣との対戦を多く残しているから、優勝争いを左右する存在にもなりそう。

舩木 あの3トップはちょっと止められない。エリアスが加わったことで、マルコ・トゥーリオのパフォーマンスが顕著に上がっているし、彼らに気を取られていると原大智が後ろから飛び込んできますから。加えて、京都が踏ん張れている要因の1つには、本来はサイドバックの宮本優太が、怪我の麻田将吾に代わってセンターバックに入ったこともあると思います。上背はありませんが、スピードを生かしたカバーリングで、鈴木義宜を的確にサポートしていますよ。

池田 鳥栖と磐田も積極的に補強をしましたが、これがどう出るかは正直まだ分かりません。ただ、新戦力を加えたチームは間違いなく活性化するし、最後の最後に勝ち点を伸ばすと僕は見ています。一方で、補強にまったくお金を使っていないレイソルと湘南は、厳しいんじゃないかなと。

河治 鳥栖に関してはあまりにもマイナスの要素が大きくて、それを新戦力で埋めるのは厳しいんじゃないかな。木谷公亮さんの監督としての力量にも疑問符が付くし、もういろんなことが後手に回ってしまった印象がある。タツさんは鳥栖のどのあたりに可能性を感じているの? 夏に名古屋から獲得した久保藤次郎は、確かにいい選手だけど。

池田 久保は間違いなくスーパー補強だし、清武の加入も勝負所で意味を持ってくると思いますね。それに元々いる選手たちもそんなに悪いとは思っていないから。ただ、河原創(川崎)が抜けたのは痛いですね。

河治 手塚康平も古巣のレイソルに復帰したし、ボランチの2枚が抜けた穴は大きいですよ。FC東京から寺山翼を獲ったけど、ポジション柄、そんなに簡単にはチーム戦術にフィットしない。京都や磐田は、戦術構築に関係なく、単純に個の力でどうにかなるポジションに補強をしているから、これは純粋な上積みになると思うけどね。磐田でサプライズは、夏に加わったセンターバックのハッサン・ヒル。空中戦が圧倒的で、想像以上に良い選手でした。ただ、福岡戦で頭部を負傷して、やや無理をおして直近の名古屋戦に出たんですが、後半に投入されたパトリックを封じることができなかった。100パーセントの状態でバトルできなかったのは残念でした。

舩木 ハッサン・ヒルの加入で後ろが安定して、なおかつジャーメイン良という計算できるストライカーがいる。ちょっとペースは落ちていますけど、頑張ればシーズン20得点も不可能ではありません。彼の存在が拠り所となり、あとはしっかり守れば勝てるという状態になってきたので、勝ち点を積み上げるペースは上がってきそうですね。

河治 渡邉りょうが加わったのも大きなプラス材料。「セレッソさん、よくぞ出してくれました」って感じでしょうね(笑)

池田 ジョルディ・クルークスといい、ね。密約があるのかっていうくらい、セレッソが磐田に人材を注ぎ込んでいる(笑)

河治 セレッソは、もしかしたら救世主になったかもしれないアタッカーの2人を、前半戦で見切って出しちゃった。ブースターになるような選手を吐き出したチームと、逆に加えたチームの差が、この終盤戦で現れるかもしれませんね。

残留圏にいる湘南と柏も安心はできない

上昇気配の札幌が、夏の上積みがほぼなかった湘南や柏を逆転し、残留する可能性もゼロではない。功労者ミシャのもとで降格するわけにはいかないだろう 【(c)J.LEAGUE】

──札幌もじわじわと盛り返しています。

舩木 ここも夏の補強の効果が出ています。大﨑玲央とパク・ミンギュの獲得で守備が安定し、ジョルディ・サンチェスやアマドゥ・バカヨコという外国籍アタッカーの補強で、得点力不足という問題への解決策も提示しています。鈴木武蔵も点が取れるようになってきましたし、J1に踏み止まる可能性はまだあると思いますよ。

河治 攻撃的に戦いながら、きっちりリスクマネジメントもできるようになった。ただ、もしここから「よーい、ドン」だったら、けっこう上に行くと思いますが、残念ながら置かれている現状はさすがに厳しい。

舩木 それでも、ミシャ(ペトロヴィッチ監督)のラストシーズンになるかもしれないというモチベーションが、少なからずプラスに働くと思っています。ここまで札幌を強くしてくれたミシャを降格させるわけにはいかないって、チームの全員がそう思っているはずですから。ただ、磐田と札幌が勝ち始めたことで、残留ラインが42~43ポイントくらいまで上がりそうな気がしています。

──湘南、柏は厳しそうですか?

舩木 僕が厳しいと見ているのは、鳥栖、湘南、柏です。タツさんも言っていたように、湘南と柏は夏の上積みがほぼありません。エースの細谷真大を留めた柏ですが、ボランチの高嶺朋樹(コルトレイク)が海外に流出したのは痛手。代わりに手塚を加えましたが、戦力収支的にはマイナスかなと。湘南にしても、FC東京でほとんど使い物にならなかったブラジル人アタッカーのルイス・フェリッピを獲得したくらい。それに、ソン・ボムグンがいるゴールマウスに、新たに上福元直人を加えた意図もよく分かりません。

河治 ACLに出るチームとか、カップ戦で勝ち上がっているチームなら分かるけどね。2人とも良いキーパーだけど、どう使い分けるつもりなのかな。柏もそう。鹿島からセンターフォワードの垣田裕暉を獲得したけど、前線には細谷がいる。テコ入れをするならボランチでしょう。A代表に入ってもおかしくない高嶺を出してしまって、サイドが本職の戸嶋祥郎とかにボランチをやらせている状況なんですから。

──では、そろそろまとめましょうか。

池田 最後にもう一度、GMの重要性について話してもいい?

河治&舩木 どうぞ(笑)。

池田 今シーズンの鳥栖が低迷した最大の原因は、GMの小林祐三さん(役職名はスポーツダイレクター)を切ったことなんです。成績不振の責任を取って、彼は4月に辞任しています。今のサッカーって、僕はとにかくGM次第だと思っているんですが、日本サッカー界の大きな問題は、なかなか優秀なGMが育たないこと。それはGMがプロとしてクラブと契約できず、社長よりも高い給料をもらえない構造があるから。だから良いGMが、いろんなクラブでどんどん辞めていくんです。ここを改善しないことには、優秀なGMは育たないし、ひいては良いチームも作れない。

河治 確かにね。あとはGMとかスポーツディレクターを、いわゆるワンマンにするのか、それともフットボール本部として複数の人間で運営するのか。強化部に対する考え方も、これからJリーグの各クラブが整理していく必要があるでしょうね。その点をしっかり確立できたチームだけが、上に行けるのかなと思います。

舩木 僕がメインで取材しているマリノスは、強化部長やGMと言われる役割を社長が兼任していて、実際に強化の現場で誰が何を見てどう動いているのか、外からでは非常にわかりづらい状況が続いています。マリノスに限らず「強化のプロフェッショナル」が不在であれば他との競争で大きく遅れをとるのは間違いないし、前例のない難しい対応を迫られるシーズン移行の時期も近づいてきているので、優秀なGMの育成は今後の日本サッカーにおける重要テーマの1つになりそうですね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

河治良幸(かわじ・よしゆき)

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カードは1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意としており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

池田タツ(いけだ・たつ)

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

舩木渉(ふなき・わたる)

大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、横浜F・マリノスや日本代表をメインに、海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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