“6バック”をしっかり攻略も、笑顔なし ロス五輪世代の日本代表に見える新時代の視座

川端暁彦

ミャンマーとの第2戦に臨んだU-19日本代表の選手たち 【撮影:佐藤博之】

DFを6枚置くという選択

 冷たい空気と肌寒い風。キルギスの首都ビシュケクの町中に位置するドレン・オムルザコフ・スタジアムの気温は日の入りとともに10度余りまで下がり、コートが欲しくなる天気になっていた。

 20歳以下の世界大会であるFIFA U-20ワールドカップの“アジア1次予選”を兼ねて開催されているAFC U20アジアカップ予選。そのI組に入った日本は、中央アジアのキルギスでの戦いに赴いている。

 この時期のビシュケクは平年の最低気温が一桁になるのだが、現地入りした当初はむしろ温暖な日々が続いていた。それがここに来て本来の姿を取り戻しつつあるらしい。天気予報を信じると、ここからさらに冷え込んでいくようである。

 こうなると用を足しに行きたくなってしまうものだが、このスタジアムの屋外に設置されたトイレはかなり“ハイレベル”なモノである。食事中の方もいるかもしれないので詳細な記述は避けるが、日本から来たサポーターの中に「ハーフタイムでトイレに行くためにホテルへ戻った」という方もおられたのも納得のワンダーランドぶりであった。

 一方、試合の方はワンダーな展開になることなく、シビアに日本が勝ち切る形になった。

 アジア予選らしくミャンマーは本来のスタイルを捨てて“6バック”の布陣で自陣を固めてくる形に。ただ、MF大関友翔(福島)が「たぶん彼らも普段はやっていないことなんだと思います」と喝破し、MF廣井蘭人(筑波大)が「人数はいたんですけど、スペースはあったし、ラインもバラバラだった」と評したように、付け焼き刃の超守備的布陣に勝機を感じることはなかった。

 立ち上がりから試合を支配した日本は、ややプレー精度を欠く場面もあって先制点は前半25分まで待たなければならなかったが、中盤から飛び込んでクロスに合わせた廣井の1点目を皮切りにゴールラッシュに。MF中川育(流通経済大)のハットトリックなどで、6-0の完勝となった。

「誰も満足していない」連勝

2得点2アシストの廣井(中央)も、「まったく納得していない」と厳しい自己評価 【撮影:佐藤博之】

 第1戦から先発6名を入れ替えての大勝だったが、「チーム全員そうですし、監督スタッフ含めて今日の試合もトルクメニスタン戦も満足していないと思う」と大関は言う。

 目指すステージはあくまで世界舞台。それゆえに、アジアの基準で甘めの自己評価をする気はないということのようだった。

 試合を撮っていたカメラマンの佐藤博之氏は「得点しても全然喜んでいないから、笑顔の写真がないんだよ」と嘆いていたが、それも志の高さゆえということだろう。

 船越優蔵監督も「勝てて良かったですけど、誰一人満足できるようなクオリティではなかった」とバッサリ。結果としての大勝に満足するのではなく、「そこは次に向けて上げていかないといけない」と厳しく語った。

 ハットトリックを達成した中川も「今日の相手だからできたところもある」と率直に認め、「世界を相手にすると難しいところもあると思う。僕自身、まだまだだなと思っている」と言う。

 2得点2アシストの大活躍だった廣井も、取材ゾーンで顔を合わせるやいなや「まったく納得していないです」と断言。ボールを失う場面があったことや、パスのミスにフォーカスしていたのは何とも印象的だった。もちろん、得点やアシストといったうまくいったプレーの手応えもあったようだが、「もっと自分に期待しているんで」ともコメント。低いレベルで納得する気はないことを強調してきた。

 過去の年代別日本代表でも、そうした意識の高さや高いレベルのこだわりを感じさせる選手は少なからずいた。例えば、久保建英のことは真っ先に思い出される。

 一方で年代別日本代表では温度感の差があるのも普通のことで、「世界」を意識してプレーしていない選手も当然いるのが当たり前ではあった。それは仕方ない面もあるのだが、近年は大きく変わってきていて、代表経験がそれほどない選手まで、高いレベルへの視座を持っている。

 それはA代表がW杯などで結果を出し、選手たちが欧州のトップレベルの活躍を見せることで、日本サッカーの「当たり前」が更新されてきた結果でもあるのだろう。これもまた、この国のサッカーがベースアップした証だと感じられた。

 もちろん、「納得していない」と言うだけでは不十分で、次の機会にしっかりフィードバックしたものを出してもらいたいところである。

 地元のU-19キルギス代表との試合はかなりのお客さんも来るようで、タフなアウェイマッチの経験を積み上げる良い機会になるだろう。もちろん単に経験するだけでなく、アウェイの厳しさに打ち克つ勝利経験を積み上げる場としないといけない。

 コンビネーションも当然大事だが、個々の精度や強さでまず違いを出してくれることを期待したい。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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