2028年ロス五輪への最初の試練 サッカーU-19日本代表は“猛き羊の夢”を見るか?

川端暁彦

試合会場となるキルギスのドレン・オムルザコフ・スタジアムでトレーニングに臨む日本の選手たち 【撮影:佐藤博之】

中央アジア、シルクロードの旅

 キルギスの首都ビシュケクのホテルで、この原稿を書いている。

 こう言うと、「キルギスってどこ?」と言われてしまうことが多いのだが、とりあえず「中国、カザフスタン、ウズベキスタンの間にある国」と答えることにしている。

 かつてソビエト連邦と呼ばれた大国にあって「キルギスタン」の名称が用いられ、独立直後は同様の呼称を用いていたが、現在は古いペルシア語由来の「スタン(~の土地という意味)」を省き、単に「キルギス」を自称している。

 もっとも、国の呼称に関して基本的に「自称」を重視する日本では律儀にスタンを省いて記述することが割と徹底されているのだが、周辺国を含めて「キルギスタン」と呼ぶことのほうが多いようだ。英語表記も一般的に「Kyrgyzstan(キルギスタン)」と書かれることがまだ多く、スーパーで手に取る商品にも「Made in Kyrgyzstan」と表記されている。

 日本人とよく似た顔の人が多い国として有名だったりもする国なのだが、実際に交流が深いかというとそうでもなく、直行便はもちろん、経由便でもこの国に辿り着くのは一苦労となる。

 9月25日に開幕するキルギス開催のAFC U20アジアカップ予選(I組)に参加するU-19日本代表もこの点は大変だったようだ。結局、いったんこのエリアを通り過ぎてトルコまで行く便を使い、そこから折り返してキルギス入りするというダイナミックな空路を選択。20日朝に成田を出て、21日早朝にキルギスの首都ビシュケクに入る形とした。

 一方、筆者たちは時間も金銭的負担も大きいそうした道を選ぶ気になれず、韓国経由で隣国カザフスタンの旧都アルマトイへ入り。そこから陸路でキルギスを目指すこととした。両国の間には国境を越えてつながれる都市間バスが走っているのだ。

 ちょっとした山越えにもなるという話だったし、シルクロードの旅をなぞるのも悪くない。そんな安易な考えだった。

中央アジアの肉路

目の前でダイナミックに肉を焼いてくれるのが中央アジア式 【撮影:川端暁彦】

 中央アジアの特徴としてまず真っ先に挙げておきたいのは、「安い肉が美味しい」ということではないだろうか。

 南米アルゼンチンこそ至高であるという見解もあるとは思うのだが、両方を旅した経験者としては中央アジアを推したい。

 味付け、香り付け、ほど良い歯応えと柔らかさ、そしてコストパフォーマンスの4点において非常に優れている。写真はカザフスタン・アルマトイで適当に入ったお店で焼いてもらった肉だが、抜群の味だった。

 しかも安い。巨大な鉄串に突き刺した1本が300円くらいだったと記憶している。

【撮影:川端暁彦】

 古くから遊牧が盛んで肉食を好んできた歴史があり、逆に農耕には限界があった乾燥気候の中で育ってきた力強い食文化を持つ。

 遺伝子的には日本に近そうに感じるキルギス人でも手足“ごんぶと”な人が目立つのは、肉食中心の生活の影響もありそうだ。総じてこのエリアのサッカー選手は肉体的に頑健で、タフに戦うことを特長としている選手が多く、そうした個性は代表チームのスタイルにも反映されている。

 なお、旅は至って順調だった。言葉がわからないことで意地悪されるといった海外旅行にありがちなことが起きることもなく、むしろ親切な対応を受けることばかりであった。

【撮影:川端暁彦】

 バスの車窓から見えたのはほとんどがこんな光景である。「荒涼」という言葉は、このためにあったんだなと思ったりもしていた。それが国境の町に来た途端に携帯の電波がいきなり回復し、活気ある光景に一変したのも印象的だった。

 国境手前でいったんバスを降りて、出国の手続きをカザフスタン側で行い、徒歩で国境を越え「川が国境になってたのか」といった地味な感動を経てキルギス側で入国の手続きを行う。係官から英語に聞こえない英語で質問されて困惑するといったイベントをこなしつつ、初めてキルギスの土を踏むこととなった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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