ロス五輪世代が直面する「歴史の力」が生み出す乾いた沼と、「やっぱりアジア」を踏みしめて

川端暁彦

初戦に臨んだU-19日本代表のスターティングラインナップ 【撮影:佐藤博之】

始まる前から勝負あり……?


 ちょっと嫌な予感がしたのは大会前日に行われた記者会見だった。U-19トルクメニスタン代表のアンナエフ監督はこんなことを言っていた。

「このグループで一番強いのは日本だ。われわれは2位を狙う」

 翻訳の問題もあるのでニュアンスは伝わっていないのかもしれない。ただ、試合が始まる前から「どうせ日本が一番強いのはわかり切っている」と言い切ってしまって特に皆が疑問を覚えた様子がないあたりに、アジアサッカー界で“日本”がどう見えているのかが浮かび上がってくる。

 これはA代表ではなくユース年代の代表でもあり、「上の年代では格差があるけど、この年代は違うぜ」と思ってほしいものだが、やはりそうはならないらしい。

 中央アジアのキルギスにて開幕したAFC U20アジアカップ予選I組の第1戦、9月25日に行われたトルクメニスタンとの戦いは、彼ら本来のものではない、超守備的なものだった。

「今まで日本サッカーが積み上げてきた、言うなれば“歴史”によって作られたものだと思う」

 船越優蔵監督はトルクメニスタンの戦いについて、そう振り返る。勝負を捨てたような戦い方は1人のサッカーマンとして残念に思っていたようだが、これもまた「やっぱりアジア」という感覚も同時にあるようだった。

「正直、本来の戦い方で来られたほうが嫌だった」とも船越監督が語ったように、トルクメニスタン本来のパワフルさを押し出した、激しくプレッシャーをかけにいくスタイルの方が勝機はあったはず。だが彼らが選んだのは、2位抜けを狙っていくために、得失点差のダメージを少しでも減らしながら負けることだった。

 試合としては退屈な部分もある戦いだった。ゴール前の中央を特に固めて「カウンターだけを狙っていた」(MF小倉幸成=法政大)相手に対し、日本も不用意にリスクを冒すわけにはいかない。外へ外へと展開する形が自然と増え、クロスボールからの攻撃が主となった。

「後ろを固めてくる可能性は伝えられていたけど、こんな感じなんだな」と苦笑いを浮かべたのは、DF高橋仁胡(C大阪)。相手の戦い方を踏まえ、「ゴールに行くためにはクロスか、セカンド(ボール狙い)でいくしかない感じだった」という言葉どおり、22分には先制アシストとなるクロスを、FW神田奏真(川崎F)の頭に合わせてみせた。

 スペインの名門FCバルセロナで育った彼からすれば、劣悪なピッチコンディションも気になるかなと思ったが、むしろ「自分らは誰もピッチコンディションに文句を言ってへんかった。それは本当にチームとして素晴らしい」と、むしろうれしそうに語ってくれたのは印象的だった。

 先制しても相手は守備的なままで前に出てくることはなく、かといって無理して追加点を狙いにいけば危ない。ストレスも感じる流れだったが、選手たちにネガティブな空気はなかったようである。

 油断なく後半開始早々にもクロスボールから追加点を奪った日本が、2-0と勝利。「難しい」と言われる初戦で、まずは勝点3を確保した。

世界料理の交差点にて

「プロフ」と呼ばれる中央アジアでポピュラーな炊き込みご飯。にんじん、タマネギ、肉など具だくさん 【撮影:川端暁彦】

 選手たちに聞くと、キルギスでの生活について苦労は特にないという答えが返ってくる。彼らが立派な5つ星ホテルに宿泊しているからというのは当然あるが、「湿度がなくて涼しいし、やりやすい」とDF塩川桜道(流通経済大)が語ったように、過ごしやすい気候なのも大きいだろう。

 以前、日本のA代表も泊まったホテルのため、現地のシェフが当時伝授された日本式の料理法や具材について覚えていてくれたのも大きかったそうで、ご飯も美味しく食べられているようだ。

 米も現地調達ながら、こちらもしっかりジャポニカ米を仕入れてくれていたとのこと。元よりこちらの味付けの傾向は明らかに日本人好みなので、問題ないのだろう。上に写真を載せた“プロフ”も、多彩な味わいがあるのだが、大体なにを食べても日本人の舌に「美味しい」と感じられるはずだ。

【撮影:川端暁彦】

 個人的に、こちらへ来てから一番「おいしい」と感じたのは、この鶏肉料理。シンプルに調理されたように見えて、中まで味が染みていて、大変に美味だった。付け合わせのジャガイモの揚げ物も、外はカリカリで中はホクホクに仕上がっており、死角のない味わいである。

【撮影:川端暁彦】

 これはパイ生地にひき肉を詰めてカラッと揚げた料理。200円くらいである。日本でも同種のものは食べたことがあるが、値段は5分の1ながら、こっちで出てくるもののほうが断然うまい。

 中央アジアの人たちはやはり料理上手なのではないかと来るたびに思う。多種多様の中華、チュルク(トルコ)、そしてロシアといった雑多な料理文化が混在することもポジティブに作用しているのかもしれない。

 ただ、ロシア料理の代表格、ビーフストロガノフを頼んだら、これは正直言って美味しくはなかった……。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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