2028年ロス五輪への最初の試練 サッカーU-19日本代表は“猛き羊の夢”を見るか?

川端暁彦

まずは中央アジアの武闘派との初戦へ

練習場で船越監督の指示を聞くU-19日本代表の選手たち 【撮影:川端暁彦】

 旅の話が先行し、そもそも何でキルギスまで来たのかという話が粗雑になっていたかもしれない。

 この地で25日から開幕するAFC U20アジアカップ予選(I組)は、FIFA(国際サッカー連盟)主催の世界大会、U-20ワールドカップの“アジア1次予選”に相当する大会となる。

 そして、2005年生まれ以降の選手たちで構成されたこのU-19代表チームは4年後に“U-23代表”となる。つまり、2028年の五輪において、“五輪代表”の中軸を担うことになる“ロス五輪世代”というわけだ。

 そんな彼らが初めて迎える公式戦。ぜひ見届けてみようじゃないかというわけで、ここまで足を運んでみたという流れである。

「1次予選なんて、どうせ楽勝でしょ」なんて声も聞こえるが、船越優蔵監督の言葉を借りれば「何も知らない人はすぐにそういうことを言う」となる。

 A代表と違って各組1位抜け以外は確実に抜けられない仕組みもあり、毎大会有力国がこの“1次予選”で姿を消しているのが現実である。アウェイでのセントラル開催勝負という方式も、そうした番狂わせの発生を促しているとも言えるだろう。

 近年の日本は無事にこのステージを抜け続けているが、危ない橋を渡ったことがないわけではない。船越監督は以前「油断なんてできるはずもない」と強調していたが、実際に簡単な戦いにはならなそうだ。

 いわゆる“中央アジア”と呼ばれる国々でサッカーは人気競技であり、地域のアベレージのレベルとしてはアジアでも指折りのエリアだろう。最近ではウズベキスタンが世界大会でも結果を残すなど活躍が目覚ましい(前回2023年のU-20W杯は16強で惜敗)。

 タジキスタンやトルクメニスタン、そしてこのキルギスも年代別のアジアの大会で地力を見せることは珍しくなくなっている。日本が苦戦を強いられたのも1度や2度ではない。

 今回はトルクメニスタンとまず初戦で当たるが、船越監督は「フィジカル的に優れているし、強固なメンタリティも備えている」と警戒を深める。実際に映像も観た感触として「本当に良いチーム。アグレッシブで変に引いてべた引きすることなく奪いにくるスタイル」と分析する。

 中央アジア諸国の中でも特に闘争心旺盛で、悪く言えばけんかっ早い気風を持つのがトルクメニスタン。実際に現地で試合も見てきたスタッフは「いつも乱闘みたいになっていた」と苦笑いを浮かべる。日本では感じる機会がなかなかないようなガツガツとした戦いが待っていそうだ。

 もっとも、アウェイでそうしたタフな戦いを経験することは、今後世界各国と戦っていくであろう選手たちに体感させておきたいモノでもある。日本サッカー協会がリスクは承知の上で、U-17、U-20の予選の開催権を獲りにいかない理由も、この負荷をかけることでの成長を期待しているからなのだ。

 ミャンマーとの2戦目、そして地元キルギスとの3戦目と中1日の3連戦はきっとタフな戦いになるのだが、ここで打ち克てないようでは「世界を狙う」なんて言えるはずもない。

 シルクロードの旅を経て辿り着いたキルギスの地で、ロス五輪世代の日本代表が最初の戦いに挑む。「何が起きるかわからないのがアジアの戦い」とは、前回大会をコーチとして経験した船越監督の弁である。

 遠く中央アジアの地で味わう予想外の体験もまた、彼らの血となり、肉となることだろう。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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