“六車興國”初めての夏 伝統の静学スタイルに見いだした未来への収穫

川端暁彦

昨年6月から興國高校の指揮を執る六車拓也監督 【撮影:川端暁彦】

1回戦の最注目カードと見込んだのは…

 7月27日、全国高等学校総合体育大会(通称インターハイ)の男子サッカー競技が開幕を迎えた。

 1回戦の最注目カードと見込んだのは、大阪第1代表として初出場を果たした興國高校と、サッカー王国・静岡代表の看板を背負う静岡学園高校の一戦である。

 戦いの舞台は、福島県楢葉町・広野町にあるJヴィレッジ。日本初のナショナルトレーニングセンターとして1997年に開設され、東日本大震災の惨禍によって一時閉業に追い込まれつつも、復活を果たした施設だ。7面ある天然芝のグラウンドと、それとは別にあるスタジアムの施設が今大会ではフル活用されている。

 そんな試合を前に、興國のベンチを見ながら思ったのは、こんなことだった。

「京都のユニフォームを着た六車拓也のプレーを初めて見たのも、このJヴィレッジだったなあ」

 昨年6月から興國高校の指揮を執る六車監督は、かつて京都や新潟、徳島でプレーした元Jリーガー。技巧派の大型MFという当時は珍しいタイプの異能系で、U-21までの各年代別日本代表も経験。大きな期待をかけられたタレントだった。

 部活サッカー育ちではなく、京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)のジュニアユース、ユースの出身。当時Jヴィレッジで開催されていたクラブチームの全国大会、日本クラブユース選手権にも中学・高校年代ともに出場している。

 ちなみに、1999年には京都ジュニアユースの一員として、日本クラブユース選手権(U-15)の優勝メンバーにもなっているので、六車監督にとっては日本一を経験した場所でもあるわけだ。

 そんな場所で初めて「高校サッカーの監督」としての全国舞台に挑む。しかもその相手は高校サッカーの伝統の一角を担う名門・静岡学園高校である。注目しないではいられなかった。

「ユースと高校の差、自分の経験不足だった」(六車監督)

六車監督(右)は現役時代に京都、新潟、徳島でプレーし、2011年に27歳で現役を退いた 【写真は共同】

「あんなふうになるとは、ちょっと予想できていなかった……」

 試合後、開口一番に六車監督が漏らしたのは、そんな言葉だった。予想外だったのは、選手たちの緊張感。すっかり「よそ行き」の雰囲気をまとって試合に入ってしまった様子に「ビックリした」と振り返る。

「いつものプレーがまったく出せていなかった」と振り返る前半、「ラッキーな1点は取れたけど、それでかえって消極的になってしまったところもあった」と指揮官が言うように、静岡学園にボールを握られる展開を強いられた。

 結局、後半に逆転を許すと、「ボールを握られる展開になってしまったので、もう(体力が)残っていなかった」(六車監督)

 それでも、FW芋縄叶翔ら個性のあるアタッカー陣が意地を見せての決定機は作り、「本当に良いモノを持った選手はいるんです」と強調した指揮官の言葉を裏付けるような見せ場もあった。ただ、チームとして総合的に及ばなかったのは否めない。そんな印象を残すゲームでもあった。

 監督自身は全国大会だからといった気負いは「まったくなかった」と言うが、選手たちの感じ方は違っていた。六車監督は「そこに自分の経験不足が出てしまったと思います」と率直に振り返る。

「高校サッカーの経験がない部分が出てしまったのは確かだと思います。(ユースの全国大会で)ああいう感じになることはなかった。でも選手たちは思ったよりプレッシャーを感じていたみたいでした」

 プリンスリーグ関西1部では現在無敗。激戦区の大阪府予選も首位で突破しており、自信は十分に蓄えてきていた。メンタル面で試合へ持っていく部分については「選手たちに任せてきたし、これまではそれで何か問題になったこともなかった」とも振り返る。

 ただ、選手たちが初めて臨む「高校サッカーの全国大会」はまた違うのだと痛感させられた。

「もっと自分が働き掛けて、この試合への持っていき方を考えないといけなかった。選手もそうだし、自分自身もこの経験を活かさなアカンと思っています」

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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