井上尚弥が世界記録に迫る、KO必至のバンタム級日本人対決も 「1995世代」の競演にも注目【9月のボクシング注目試合①】

船橋真二郎

発表会見に臨んだ左から前田義晃・株式会社NTTドコモ社長、八重樫東トレーナー、武居由樹、井上尚弥、大橋秀行会長、井上真吾トレーナー(7月16日撮影) 【写真:船橋真二郎】

有明アリーナは全5カードがメインイベント級

 9月3日、東京・有明アリーナで開催される「NTTドコモ presents Lemino BOXING ダブル世界タイトルマッチ」は、3つのアンダーカードを含む全5カードがメインイベント級の豪華なラインアップとなった。

 メインにはWBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥(大橋/31歳、27勝24KO無敗)が登場。挑戦者に元IBF同級王者でWBO2位のTJ・ドヘニー(アイルランド/37歳、26勝20KO4敗)を迎え、4団体すべてのベルトをかけた2度目の防衛戦に臨む。

 セミでは元K-1王者からプロボクシングに転向後、9戦目にしてWBO世界バンタム級王者となった武居由樹(大橋/28歳、9勝8KO無敗)が初防衛戦。15連続KOの国内最多タイ記録を持つ強打の元WBC世界フライ級王者で同級1位の比嘉大吾(志成/29歳、21勝19KO2敗1分)と激突する。

 第3試合はWBA世界スーパーライト級挑戦者決定戦。元日本、WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王者でWBA6位の平岡アンディ(大橋/28歳、23勝18KO無敗)が、WBA暫定王者のイスマエル・バロッソ(ベネズエラ/41歳、25勝23KO4敗2分)とWBA正規王者への挑戦権を争う。

 第2試合は東洋太平洋、WBOアジアパシフィック・ウェルター級タイトルマッチ。2冠王者でWBO3位を筆頭に世界4団体で5位以内にランクされる佐々木尽(八王子中屋/23歳、17勝16KO1敗1分)が、カミル・バラ(豪/35歳、15勝8KO1敗1分)の挑戦を受ける。

 オープニングカードは日本スーパーバンタム級タイトルマッチ。世界3団体でランク入りする実力派王者の下町俊貴(グリーンツダ/27歳、18勝12KO1敗3分)が、6連続KO中と勢いに乗るホープ、日本3位の津川龍也(ミツキ/24歳、13勝9KO1敗)と3度目の防衛戦を行う。

 このビッグイベントはNTTドコモの動画配信サービス「Lemino」で第1試合から無料独占ライブ配信され、初の試みとしてダブル世界戦が全国47都道府県の100の映画館でライブビューイングされる。

井上尚弥の世界戦23連勝なるか

4団体統一世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥 【写真:船橋真二郎】

 まずは記録の話から始めたい。井上尚弥の世界戦通算戦績は驚異の22戦全勝20KO。今回、ドヘニーに勝てば、世界戦通算勝利数の国内最多記録で並走してきた井岡一翔(志成)を抜き、井上が単独トップに立つ。これを世界戦の連勝記録で見ると13連続防衛の国内記録を持つ具志堅用高(協栄)の14連勝が2位で、山中慎介(帝拳)の13連勝が3位。井上が圧倒的1位になる。

 世界を含めれば22連勝で5位タイのスベン・オットケ(ドイツ)、ジョー・カルザゲ(英)を抜き、井上の23連勝が単独5位に。世界戦連勝記録の歴代世界1位には伝説的ヘビー級王者のジョー・ルイス(米)、5階級制覇のフロイド・メイウェザー・ジュニア(米)の2人が26連勝で並ぶ。さらに3位タイの25連勝で3階級制覇のメキシコの英雄フリオ・セサール・チャベス、ダリウス・ミハエルゾウスキー(ポーランド)が続き、2人に次ぐ井上がまた一歩、世界記録に迫ることになる。

 現役では19連勝でテレンス・クロフォード(米)、15連勝でドミトリー・ビボル(ロシア)が継続中で井上が頭ひとつ抜けている。記録とは目的ではなく、あくまでも結果だが、4階級下のライトフライ級からスタートして、世界戦という大舞台でここまで10年以上、1戦ごとに大きくなる期待とプレッシャーの中で勝ち続けてきた足跡の偉大さをあらためて思わずにはいられない。

百戦錬磨だからこそ知る勝負の機微

大勢の報道陣が取り囲む中、公開練習でサンドバッグを叩く 【写真:船橋真二郎】

 下馬評では井上の圧倒的優位が大勢を占めるドヘニー戦。だが、百戦錬磨の井上だからこそ、勝負の機微を知る。

「周りの雰囲気は自分がいちばん感じますから。自分自身にそういう気持ちはなくても“ゆるみ”が必ず出てきてしまうことは、過去の経験で振り返っても、そういう瞬間はあったと思うので。だからこそ、気を抜かないために、言動だったり、練習内容だったりで、より心がけてきました」

 前戦の「ネリ戦以上」を基準に練習内容、ラウンド数を意識してきた結果、「(過去)いちばん練習したという自負があるぐらい追い込んだ」という。もちろん、抑えるべきところでは自分を抑え、「9月3日に最高の仕上がりを持っていくこと」を第一に抜かりなく調整してきた。

 もうひとつ、井上の挙げた言動で思い出したのが内山高志(ワタナベ)だ。毎回のようにKOを期待された強打の“KOダイナマイト”はKO宣言しないのが常だった。言葉にして外に発してしまうことで、試合に向けて張りつめていたものが“ゆるむ”のを恐れての細心の心構えだったが、井上も同じだろう。公開練習で発せられた言葉は、確かに抑制が効いていた。

「判定決着は許されない。その中で流れをしっかりつくって、仕留めるべき瞬間に仕留められるのがベストかなと思います」

 井上は「ドヘニーのやるべきことは分かっている」と言う。そして、「判定で勝とうなんていう気はさらさらないはずだからこそ、一発には気をつけながら、集中して試合を運んでいきたい」と続けた。

 同じサウスポーのルイス・ネリ(メキシコ)戦の初回にキャリア初となるダウンを喫しながら、以降はラウンドが進むに従い、井上が自身の間合いの中に完全にネリを取り込んでしまった試合展開を見ても、ドヘニーが早い段階から勝負をかけてくる可能性は高い。

 過去に10kg以上も増量して当日のリングに臨んだこともあり、今回も屈強な体とフィジカルの強さを前面に出してくると予想されるドヘニーに対し、「ボクシングは体のデカさ、パワーだけじゃない」「スピード勝負で触れさせない」という7月の発表会見時の自身の考えを突き詰めてきたはず。その中で仕留めるべき瞬間をいかにつくり出すのか。開始から目が離せない。

 30戦のキャリアでダウン経験は何度もあるものの、KO負けのないドヘニーを仕留めることができれば、世界戦9連続KOとなり、自身の国内最多タイ記録を更新。バンタム級からスーパーバンタム級にかけての井上尚弥が単独トップとなる。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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