ボクシング黄金の「1995世代」の活躍に注目 世代別の最多世界王者、パリ五輪金メダルに期待

船橋真二郎

2月24日、両国国技館で競演する田中恒成、井上拓真、中谷潤人、増田陸 【写真:船橋真二郎】

初競演が実現したボクシング界の有名なライバル

 高校時代にしのぎを削ったボクシング界の有名なライバルがプロのリングで初競演する。舞台は2月24日、東京・両国国技館で開催される『Prime Video Presents Live Boxing 7』。9連続防衛の元IBF世界スーパーフライ級王者でサウスポーのジェルウィン・アンカハス(フィリピン)を挑戦者に迎え、初防衛戦に臨むWBA世界バンタム級王者の井上拓真(大橋、18勝4KO1敗)、井岡一翔(志成)、井上尚弥(大橋)に次ぐ3人目の世界4階級制覇をかけ、“ロッキー”の異名をとるメキシカン、クリスチャン・バカセグアと空位のWBO世界スーパーフライ級王座を争う田中恒成(畑中、19勝11KO1敗)である。これに躍進を続ける26歳の元世界2階級制覇王者のサウスポー、中谷潤人(M.T)の3階級制覇をかけたWBC世界バンタム級タイトルマッチを加えた注目のイベントになる。

 昨年12月の発表会見の壇上、隣り合って座った2人に進行役のアナウンサーが話題を向けた。「並んで会見ということに思うところがあるファンも多いと思います」。井上が「高校生のときはよく戦ってたんで、間近で見て、懐かしい感じはあります。お互いにしっかり勝って、いい夜を迎えたいです」と照れくさそうに応じると、田中は「拓真との試合は畑中(清詞)会長に『(未来の)世界戦の練習だから』と言われて、高校時代に全国大会の決勝戦で何度も対戦しましたが、こうして2人で世界のトップの舞台で並んでいられることをうれしく思います」と感慨を込めた。

「黄金世代」を牽引する田中恒成と井上拓真の高校時代

井上拓真(左)と田中恒成 【写真は共同】

 1995年生まれの同い年の2人は高校1年の夏のインターハイ準々決勝で初対戦。大会直前にカザフスタンで開催された世界ジュニア選手権に日本代表として出場していた井上が競り勝ち、2学年上の兄・尚弥と兄弟ダブル優勝を飾ったのを皮切りに通算5度対戦することになる。

 再戦は2ヵ月後の国体決勝で実現。接戦の末に田中が雪辱し、今度はのちに東京五輪フライ級銅メダリストとなる2歳上の兄・亮明と兄弟制覇を果たす。続く翌年春の選抜準々決勝では井上が勝利するも最終3ラウンドに田中が猛追して2ポイント差の薄氷勝ち。当時の『ボクシング・ビート誌』には2勝1敗と勝ち越しながら「インターハイで、きっちり決着をつけたい」という悔しさをあらわにした井上のコメントが残っている。

 ライバル心がさらに熱を帯び、迎えた高校2年のインターハイ決勝は田中がシーソーゲームを制する。次の秋の国体は神奈川県が出場を逃し、井上不在のなかで行われた。順当に大会連覇を果たした田中は舞台を国際大会に移して躍動する。

 国体の1ヵ月後、アルメニアで行われた世界ユース選手権ではベスト8まで進出し、翌年3月にはフィリピン開催のアジアユース選手権で準優勝。昨年、田中にインタビューしたとき、井上の存在が支えになったと当時の心境を振り返ってくれた。

「相手は国の代表で強いやつらばかりだけど、『拓真のほうが絶対に強いよな』と思ったら、心が楽になって臨めました」

 2勝2敗の五分で迎えた決着戦は田中がアジアユース出場直後の選抜決勝。またしても2人は熱戦を繰り広げる。2ラウンドが終了した時点で7対6と井上がわずかにリード。最終ラウンドも激しいせめぎ合いが展開され、ポイントを挽回した田中が13対12の逆転勝利をつかみ取る。これが最後の直接対決となった。

 ともに3年時のインターハイ後にプロ転向を表明。それぞれの道を歩んできた2人が久しぶりに拳を交えるのは3年前の11月、田中が世界4階級制覇をかけて井岡一翔に挑戦する前のことだった。「世代交代」を掲げた大一番を間近に控え、オンラインで行われた公開練習後、ライバルとのスパーリングに触れた田中のコメントが印象に残る。

「普段は絶対に当たるパンチがよけられたり、当たらなかったりして、そのあとの展開のこと、いつもやってるレベルの、その先まで考えさせてくれたんで、いい練習になりました。いちばんは世代交代と言ってる、このタイミングで同世代とできたこと。“俺らの世代”は強えなと思ったし、(拓真と)スパーリングをして、あらためて『そういうときなんだな』と思いました」

 田中恒成と井上拓真に代表される1995年度生まれは逸材ぞろいのボクシング版の「黄金世代」として知られる。田中の言う「俺らの世代」が20代最後の年を迎える2024年、さらなる活躍でクローズアップされる予感がある。

世代別の最多世界王者記録に迫る

守安竜也会長とユーリ阿久井政悟。1月23日、大阪で世界初挑戦 【写真:船橋真二郎】

 世代別に見て、最も多くの日本人世界王者を輩出しているのは「1988世代」で、現役の井岡、小國以載(角海老宝石)のほか、亀田大毅、宮崎亮、木村翔の5人。これに続くのが鬼塚勝也、川島郭志、飯田覚士、星野敬太郎の「1969世代」と、高山勝成(石田)、佐藤洋太、五十嵐俊幸、木村悠の「1983世代」で、これから円熟期に入る「1995世代」がすでに田中、井上、比嘉大吾(志成、21勝19KO2敗2分)、山中竜也(真正、19勝6KO4敗)の4人で並ぶ。

 そして1月23日、エディオンアリーナ大阪で行われる『Prime Video Presents Live Boxing 6』にWBC・WBA世界ライトフライ級統一王者の寺地拳四朗(BMB)、那須川天心(帝拳)とともに参戦するユーリ阿久井政悟(倉敷守安、18勝11KO2敗1分)が5人目を狙う。高校時代には田中と2度、井上と1度対戦。世代トップの壁にはね返されている。

 世界初挑戦の阿久井が挑む王者は22戦全勝(15KO)を誇る36歳のWBA世界フライ級王者アルテム・ダラキアン(ウクライナ)。挑戦者が「向こうに自分が合わせるんじゃなく、こちらに合わせさせたい」と繰り返してきたとおりの試合巧者で、いかに自分のペースで戦い、「間合いに引き込めるか」が攻略のカギになる。

 11KO中9KOを1ラウンドで終わらせてきた点にフォーカスされがちな阿久井だが、決して速戦即決型のパワーヒッターではない。相手との駆け引きのなかで一瞬のタイミングを突く技巧のパンチャーで、得意の右の一撃で倒す、あるいは効かせてパンチをまとめてストップというのがKOパターンだ。

 その一方でブロッキングとボディワークを駆使した接近戦の攻防技術に長け、フルラウンドにわたるノンストップの戦いも日本タイトル戦で経験済み。スタミナも証明している。同世代で現・東洋太平洋フライ級王者の“スピードスター”桑原拓(大橋、13勝8KO1敗)との日本王座の2度目の防衛戦では、最終10回の最終盤に右のワンパンチで鮮烈に試合を決めた。

 戦禍のウクライナから来日する王者に対し、「来てくれること自体がありがたい。そういう思いを含め、こっちは全力でぶつかるだけ。いい試合をしたい」と敬意を表した阿久井。アマチュア経験も豊富な一筋縄ではいかない難敵を12ラウンドのなかで捕まえられるか。

 1月20日、フィリピンの元IBF世界ミニマム級王者レネ・マーク・クアルトを東京・後楽園ホールに迎え撃つ岩田翔吉(帝拳、11勝8KO1敗)も「1995世代」。高校3年のインターハイでは準決勝で田中を破り、決勝では高校1年の国体で敗れた井上に雪辱、高校チャンピオンの座を勝ち取っている。

 岩田は一昨年11月に世界にアタック。機動力のあるサウスポーのWBO世界ライトフライ級王者ジョナタン・ゴンザレス(プエルトリコ)を捉えきれなかった。アマチュアで培われた攻防技術をベースに、身体能力を生かしたダイナミックな攻め口も見せる。昨年はフィリピン選手と2戦して連続KO勝ち。いずれもフィニッシュブローは左ボディで、多彩な角度からのパンチと決定力に磨きをかけてきた。

 クアルトは昨年4月、IBF暫定王座決定戦で重岡銀次朗(ワタナベ)に王座奪還をかけて戦った。9回KOで討ち取られたものの、重岡の序盤の硬さを突いてダウンを取っている。岩田は現在、主要4団体で世界ランク入り。WBC、WBOでは1位、WBAは2位と3団体で上位につける。元世界王者との一戦は再挑戦への試金石になる。

2020年にはプロの舞台で拳を合わせた比嘉大吾と堤聖也も、今年注目のボクサーだ 【写真は共同】

 日本人の有力選手がひしめくバンタム級で、元WBC世界フライ級王者の比嘉、前日本王者の堤聖也(角海老宝石、10勝7KO無敗2分)も世界に接近している。2人は高校時代に九州大会で2度戦い、ともに堤が勝利。プロでは2020年10月にノンタイトル10回戦で引き分けている。

 デビューから15連続KO勝ち。日本人史上初の全勝全KO勝ちで世界王者となった比嘉だが、2階級上げたバンタム級では相手の耐久力が上がり、「階級の壁」に苦しんできた。ところが昨年は2戦して、いずれもタイの世界上位ランカーを4ラウンドで仕留め、フライ級時代以来の連続KO勝ちを飾った。

 もともと一撃で倒すのではなく、コンビネーションで攻めるタイプ。その一発一発のつなぎがスムーズになり、攻めにひところの迷いが感じられなくなってきた。比嘉が信頼を置く野木丈司トレーナーが「気持ちが入ったときのパンチは乗りが違う」と言うように精神的にも吹っ切れてきた印象で、この階級に適応してきた感もある。虎視眈々と2階級制覇の機会をうかがう。

 堤は比嘉戦以来、2年近く実戦から遠ざかった。相手のケガやコロナの影響などでことごとく試合が決まらず苦しい時期を過ごしたが、2022年6月に日本王座に就くと流れは好転。順調にキャリアを重ねてきた。昨夏に初のロサンゼルス合宿にも出かけ、「井上尚弥バンタム級4団体統一記念モンスタートーナメント」を制覇。経験を蓄え、存在感を増す1年になった。

 高校時代には田中、井上に1度ずつ敗戦。平成国際大を経てプロ入りした理由のひとつに現・WBA王者の井上へのリベンジを挙げている。スイッチを駆使して戦う強打者で、トーナメントではアマチュア出身のサウスポー、増田陸(帝拳)、穴口一輝(真正)との激闘を制し、勝負強さを証明した。試合後に右硬膜下血腫で緊急手術、現在も闘っている穴口の回復をSNSで祈るとともに「2024年、必ず獲る」と固い決意を示している。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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