河村勇輝のNBA挑戦が持つ意味と可能性 壁に立ち向かう「過程」で成長してきた男が目指す次の高み
河村はパリ五輪に向けた日本代表の中心選手 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
7月8日に発表されたパリ五輪日本代表12名のリストを見ていて、ふと気づいたことがある。選手の「最終学歴」は8名がアメリカの学校だった。例えば八村塁はゴンザガ大、渡邊雄太はジョージ・ワシントン大の出身だ。
馬場雄大と比江島慎は最終学歴こそ日本の大学だが、それぞれ過去に海外のチームでプレーをしている。だからキャリアが国内で完結している選手は河村勇輝と吉井裕鷹の2人しかいない。それくらい日本のバスケ界は「国際化」していて、同時に日本と世界、特にアメリカは競技を取り巻く環境に差がある。
河村がグリズリーズと「エグジビット10」契約
東海大を2年で中退すると、正式にプロとして横浜ビー・コルセアーズと契約した2022-23シーズンには、MVPと新人王の二冠に輝く大活躍を見せている。2023年夏のW杯も25得点を挙げたフィンランド戦などインパクトのあるプレーを見せ、代表のメインPGに躍り出た。
その河村が海外、NBA挑戦を決めた。メンフィス・グリズリーズとの「エグジビット10契約」を結び、パリ五輪終了後に同チームへ合流する。
彼が「NBA入りの切符」を手にしたわけではない。今回のキャンプ参加の21名枠に入る保証は得たし、(NBAのファームリーグ、サテライトリーグに相当する)Gリーグ入りも濃厚だ。ただしトップチームとの契約は狭き門で、まずGリーグNBAを行き来する2WAY(ツーウェイ)契約が次のステップとなる。
渡邊雄太はエグジビット10から2WAY、本契約と成り上がったお手本だ。まず「入口」にたどり着いたことは素晴らしいが、先の道のりは極めて厳しい。9日の記者会見で、河村はこう語っていた。
「NBAのコートに立つことーー。これが一番の目標です。そのためには、まずキャンプでしっかりとアピールする(必要がある)。そのあと2WAY契約だったり、色々なことが想定されますけど無保証で、覚悟を持って戦い抜かなければいけない場所だというのは自分が一番分かっています」
グリズリーズから求められる「脇役」の働き
横浜BCを離れ、NBAグリズリーズとのキャンプに参加する 【提供:横浜ビー・コルセアーズ】
しかしNBAで求められるのは「脇役」のプレーで、得点ではなくゲームコントロールだ。
「グリズリーズから求められているのはプレーメイキング、パスのところです。アシストをより多く、それをメインとしたPGであってほしいと伝えられています。昔からアシストは僕の強みでもありましたし、そこの評価をしていただけてすごく嬉しいです」
昨季の河村は全体1位の8.1アシストも記録している。試合の中で相手の対応を見切り、布石を打ち、勝負どころで仕留める「冷静さ」「クレバーさ」は最大の持ち味だ。パスファーストのスタイルにも対応はできるだろう。
グリズリーズには昨年の途中までジェイコブ・ギルヤードというPGが在籍していて、2WAYでプレーをしていた。河村の2歳上で、5フィート8インチ(172.7cm)とほぼ同サイズだ。
「この話がある前からギルヤード選手はすごく注目していました。常に試合を見て、どうすればあのサイズでもNBAで活躍することができるか、見て研究してきたつもりです。プレーメイキング、アシストはギルヤード選手もすごく長けていたし、近しい部分があります。ギルヤード選手を目指すのもそうですけど、自分にしかできないことはあると信じているので、より最高の自分でいられるように、毎日ハードワークを続けたい」
田臥、富樫の背中を追って
富樫勇樹(右)は河村と同じ挑戦をした先輩だ 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
PGは司令塔で、コート上の監督だ。日本では年上の選手に対してもリーダーシップを発揮している彼だが、まず「アメリカでも人並み以上にできる」ところを見せなければ他の選手を引っ張れない。NBAにせよGリーグにせよ、172センチの「日本育ちの日本人」がコートに立つとなれば、極めてハードなチャレンジになる。
小柄なPGというくくりで見れば、過去に田臥勇太や富樫勇樹がアメリカでプレーをしていた。田臥は「日本人初のNBAプレイヤー」として4試合にプレーしている。たった4試合だが、それはとんでもない偉業だ。二人は河村にとってもロールモデルになっている。
「僕はチャレンジするだけで満足しているわけではないですし、まだスタートラインにも正直立ってないと思っています。ただこのサイズでもNBAに挑戦し、そのコートに立てると証明して、ひとりでも多くの子供たちがバスケットを始めるきっかけ、頑張れる原動力になりたい。この決断のきっかけは田臥勇太選手、富樫勇樹選手の背中を見たからこそです。歴史を紡いでいく1人として、頑張っていきたい」