ウインターカップで輝いたスーパー1年生 有望株たちが味わった「魅力的な挫折」

大島和人

男子は明成の優勝で幕を閉じたウインターカップ2017。今大会は1年生の逸材が粒ぞろいだった 【加藤よしお】

 勝利は素晴らしい。才能に満ちた若者たちが悔しさを味わい、次のチャレンジに向けて拳を握る姿も美しい。2017年のウインターカップ(第70回全国高等学校バスケットボール選手権大会)を取材して、そんな「魅力的な挫折」が印象に残った。

 男子は明成の優勝で幕を閉じたが、敗れた49校にも人材はいる。今大会は特に1年生の逸材が粒ぞろいだった。

アクシデントを乗り越えた福岡大大濠の横地

準優勝に終わった福岡大大濠の横地(右)は、あごの骨折を乗り越え活躍を見せた 【加藤よしお】

 準優勝に終わった福岡大学附属大濠の横地聖真は中学時代から名を全国に轟かせていた選手だが、今大会も光るものを見せた。ガーナ人の父を持つ彼は、傑出したアスリート。16年夏の愛知県大会決勝では1試合で61点を記録し、全国中学生大会では春日井市立岩成台中を準優勝に導いた。

 NBAがオーストラリアで運営する「グローバルアカデミー」から勧誘も受けていた横地だが、技を磨く場として選択したのは福岡大大濠。入学直後から名門校の先発に定着し、今夏のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)でも優勝に貢献している。

 そんな彼だが、今回のウインターカップは大会直前に大きなアクシデントがあった。あごに黒い樹脂製のガードをしている理由を尋ねると、彼はこう語り始めた。「あごが折れているので、手術して中に(金属製の)プレートを入れています」

 横地は12月上旬の練習試合であごを骨折し、約1週間の入院生活を強いられていた。「最初はすごく痛くて、動ける状態じゃなかった」というのも当然の話で、全体練習に合流したのは上京の4、5日前。仮に同部位を再骨折すれば、今大会のプレーもそこで終わっていた。ただ、そんなコンディションでも、彼の闘志と体力に陰りは見えなかった。

 3回戦・北陸学院戦は厳しい展開が予想され、実際に76−70という僅差で決着した。そんな大一番で横地は40分間のフル出場を果たし、19得点、19リバウンドを稼いでいる。特に勝負どころの第4クォーターで彼は誰よりも跳び、走っていた。準決勝の福岡第一戦、決勝の明成戦を見ても「試合の終盤ほど目立つ」ことが横地の強みで、そのタフネスは圧巻だった。

見据えるNCAA行き

 彼がお手本とするプレイヤーはNBAのフィラデルフィア・76ersなどで活躍した往年の名選手アレン・アイバーソン。現在の位置はスモールフォワードなのでガードだった「本家」と違うが、アイバーソンと同じように横地も俊敏な突破、シュートスキルを持ち、得点に絡むプレーが持ち味だ。

 一方で今大会の横地は3回戦だけでなく準決勝、決勝でも2桁リバウンドを記録している。彼は191センチ・86キロの体格や跳躍力を持ち、加えて身長2メートルセンター井上宗一郎の身体を張ったプレーにも助けられていた。

 加えて本人はあの『名作』の影響を口にする。「入院中に『スラムダンク』を読んで、(主人公の)桜木花道がリバウンドを頑張っているのに感動したんです。ウインターカップはリバウンド重視で頑張りました」

 そんな彼も決勝に敗れた直後は涙していた。大会の感想について横地はこう述べる。「悔しかったです。けがをして1週間病院にいて、でも先輩たちは見捨てずにお見舞いに来てくれて、先生は手術のときもずっと見守ってくれていた。皆さんに恩返ししたかったし、3年生にチャンピオンTシャツを着させられなくて残念です」

 高校卒業後はNCAA(全米大学体育協会)への留学を志望している。ここ数年の間にも渡邊雄太、八村塁といった逸材が海を渡り、目覚ましい活躍を見せている。横地もそれに続くべき能力は持っている。ただNCAA入りには学業成績の基準があり、英語力も必須。今後はコート外での努力も重要になる。

 彼はこう述べる。「米国に行きたいと僕は言っていて、先生もそこは考えてくれている。今後の勉強で決まると思います」

今大会最高の「ファンタジスタ」

河村はベスト4入りを果たした福岡第一の司令塔だ 【加藤よしお】

 ベスト4入りを果たした福岡第一の司令塔も1年生だった。河村勇輝は169センチ・61キロの小兵だが、高速ドリブルやアクロバティックなパス、巧みなフックシュートで場内を沸かせた。「ファンタジスタ」という意味では、今大会最高のプレイヤーだったかもしれない。

 しかしディフェンディングチャンピオンとして臨んだ彼らにとって、準決勝、3位決定戦の敗戦は痛恨。大会を終えた彼にはやはり後悔の色がにじみ、課題をこう口にしていた。

「自分がポイントガード(PG)としての役割をしっかり果たせていない試合が多かった。アウトナンバー(数的有利)からの速攻などを、勢い任せでやることが多くて、それだとターンオーバーが増えてしまう。いくところといかないところを、しっかりと区別してやっていきたい」

 山口県の柳井市立柳井中時代はスコアラーだった彼は、今大会も全5試合で55得点を記録している。ただし準決勝の福岡大大濠戦は3ポイントシュートを10投してすべて失敗。高速ドライブで相手を抜き去りゴール下からレイアップを沈める形は魅力的だが、レベルが上がればそういうイージーショットは難しくなる。彼はミドル、スリーポイントといった中長距離のシュートを課題として挙げていた。

 河村は言う。「中学校の頃はこの身長でも大丈夫だった。留学生もいないし、大きくても180センチくらいだから、かわしてシュートを打てていた。でも高校になるとガードでも180センチある人がいて、いろいろなバリエーションを練習しないといけない」

 ちなみに彼がお手本とするBリーガーは、河村とほぼ同じ身長でもある富樫勇樹(千葉ジェッツ)と並里成(滋賀レイクスターズ)の2人。福岡第一の先輩・並里は特にお気に入りの選手で「並里さんのビデオは暇さえあればずっと見ている。確実なプレーも大事だけれど、レベルが高くなると見ている人がハッとするプレーをしないといけない」と並里を手本とする理由を述べていた。彼が口にする悔しさも、そのように上を見ているからだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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