柏の希望、パリ五輪の星 DF関根大輝が初めて背負う「代表選手3つの宿命」

川端暁彦

帰国してから1週間、U-23日本代表DF関根大輝(中央)は柏の戦線に復帰した 【写真は共同】

カタールから6時間の重さ

 頭がボーッとする。よくわからないタイミングで眠気が来る。夜に布団に入って眠ろうとしても寝付けず、寝たと思ったら、2時間ほどで目が覚めている。

 時差ボケである。

 AFC U23アジアカップを取材した時差6時間のカタールから帰ってきた後、筆者がずっと悩まされている症状である。「自分の『体内時計』というやつはこんなに仕事をしていたのか」と、それが狂ってしまうことで強制的に実感させられる。

 短期間の滞在であればまだいいのだが、1カ月近くになると完全にその国の「時間」に体が順応してしまうもので、これを治すのは容易ではない。「ボケ」という言葉の語感がその深刻さを軽く見せてしまう傾向があるのだが、決して軽んじられるべきものではない。

 体が資本、そのための睡眠が命であるアスリートの場合、このダメージはより深刻なものとなるからだ。

 5月11日に味の素スタジアムで行われたJ1リーグ第13節、FC東京と柏レイソルのゲームには、そんなカタールから帰国していたU-23日本代表の3選手が出場。そのうちの1人である柏のFW細谷真大に「時差ボケどう? 俺はまだキツいんだけど」と聞いてみたところ、「だいぶ(日本時間に)慣れてきたのかなとは思います」と苦笑いが返ってきた。

 疲れは、やはりあるのだ。

 ただ、細谷はこうも言う。「それは代表選手の宿命なので」と。長距離の移動とそれに伴う時差ボケ、連戦によって蓄積する疲労。それと戦って打ち克つことを求められるのが代表選手。長く日の丸を付けられるプレーヤーというのは、それができる選手ということでもある。

悪いなりのワンプレー

細谷は体の状態が悪いなりのプレーを見せ、相手GKを退場に追い込むなど活躍を見せた 【(C)J.LEAGUE】

 国際経験を豊富に持つ細谷ですらその影響から自由になれないのだから、経験の浅い選手はより難しくなるもの。柏のサイドバック関根大輝は「試合に出ている以上、言い訳はできない」としつつも、「コンディションは良くなかった」と認める。

 実際、この日のゲームの関根個人のパフォーマンスはAFC U23アジアカップで彼が示していたようなレベルにはなく、攻守両面で本来のキレが感じられなかった。

「全然よくなかったし、コンディションを言い訳にしないつもりで集中して試合に入ってはいましたが、シンプルに1対1で剥がされてしまうシーンもあって、後手に回ってしまっていた。前半は本当に良いところがなかったです」(関根)

 チーム全体が守勢だったことで攻撃面で関根の良さが引き出されなかったという面もあったが、守備でも脆さを見せるシーンがあり、前半途中で観戦していた別の記者から「関根くんは何かあったの?」と聞かれたほどだった。「単に時差ボケだと思います」と答えたのだが、実際にコンディションが悪かったことで、気持ちの部分でも“らしさ”が消えていたのかもしれない。

「(時差ボケは)段々治ってはきていて、試合に支障を来すほどではない」とは言うものの、体は嘘をつかないもので、心も体に連動するもの。難しさはあったのは否めなかった。

 ただ、コンディションが悪いなりのプレーをして貢献するのもプロフェッショナルとしての仕事。実際、細谷は自分のプレーが万全でなかったことは認めつつも、「最低限の仕事」と形容する前線からのタフで抜け目ない守備でFC東京のベテランDF森重真人からボールをもぎ取り、そのカバーに入ったGK波多野豪を退場に追い込む形で試合の流れを一変させてみせた。

 同じU-23代表のFC東京MF松木玖生にスーパーゴールを沈められて1-3とリードを広げられていた柏にとって、これは起死回生のワンプレーだった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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