アジアを制した大岩ジャパン、勝因は「選手+スタッフ全員の力」 裏MVPは日本代表DFの谷口彰悟

川端暁彦

優勝杯を掲げる主将の藤田譲瑠チマ(8)は大会MVPも獲得 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

「自信あり」決勝点、「自信なし」PK阻止

 感極まったGK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)の目には涙が浮かんでいた。

 アディショナルタイムの掲示は11分ながら、さらに追加タイムが加算されて結局17分余り。「延長戦をやったようなもの」と大岩剛監督も苦笑いとともに振り返った時間は、まるでジェットコースターのようだった。

 5月3日に行われたAFC U23アジアカップ決勝、日本とウズベキスタンの試合は0-0のまま時計の針が進んでいく展開だった。前半はウズベキスタンが圧倒するも、後半はガス欠となって徐々に日本ペースへ。日本は「勝負に出よう、と」決断した大岩監督が矢継ぎ早の選手交代で一刺しを狙う流れだった。

 そしてアディショナルタイムに突入早々、試合は動き出す。DF高井幸大(川崎F)のインターセプトから始まった、即興芸の連鎖した攻撃がここまで無失点のウズベキスタンを突き崩す。MF藤田譲瑠チマ(シントトロイデン)から交代出場のMF荒木遼太郎(FC東京)を経て、最後は同じく交代出場で右ウイングに入った山田楓喜(東京V)。

「自信はあった。試合を決める左足というのを自分が持っているのはわかっていたし、それを出すために準備してきた」(山田楓)

 黄金の左足が唸りをあげて、今大会初めてウズベキスタンのゴールネットが揺れる。歓喜の輪が広がり、勝負は決したかにも思えた。

 ただ、サッカーの神様は非常に悪戯好きなことで知られており、簡単にハッピーエンドにはしてくれない。長い長いアディショナルタイムの中、日本はDF関根大輝(柏)が痛恨のハンドの反則を取られてしまい、PKを献上してしまう。

 最後の砦としてこのPKと向かい会ったのは、GK小久保。「ぶっちゃけ、あんまり自信はなかった」と言うように、実はPKストップを得意とするGKではない。ただ、大会に入ってからもずっと、GKコーチ、そして他の2人のGKとともにPKの対策は練り続けてはいた。相手のデータも揃えてはいた。

「相手のキッカーの特徴などはキーパーミーティングでもやっていた。中国戦でもそうでしたけど(1人退場した後の戦いを準備していたこと)、本当に細かい積み重ねが結果に出る」(小久保)

 鋭い反応で横っ跳び。決して簡単なコースではなかったが、長い手を伸ばして止め切り、チームを救う。まさに守護神の仕事をやり切った。

 そのあともCKの連続などピンチがあり、小久保は感情を抑えるのに苦労したと笑うが、18分ものアディショナルタイムを乗り切り、1-0でタイムアップ。ベンチの選手も一斉に飛び出し、本当の歓喜の輪が生まれた。

「みんなを守りたいという気持ちが自分的にはすごくあった。アジアのチャンピオンになる、やっぱり日本のみんなが応援してくれている中で、自分的に感動でグッと来るものがあった」(小久保)

 日本にとっては、2016年大会以来となる2度目の優勝だった。

「決勝戦はこういうもの」

決勝ゴールを決める山田楓(右)。決勝点につながる流れは、理想とリアリティとのせめぎ合いの結果だった 【写真は共同】

 素晴らしいフィナーレを迎えた決勝戦だが、その過程は必ずしも狙いどおりではなく、むしろその逆だった。

「全く僕らの展開ではなかったですし、僕らが望むようなゲーム展開でもなかったので、正直悔しいです」

 そう振り返ったのは、インサイドハーフで先発したMF山本理仁(シントトロイデン)。タフに前からの守備で日本が狙いとするビルドアップをつぶしてきたウズベキスタンに対し、日本の攻撃は45分にわたって機能不全に陥っていた。

「やっぱり決勝という舞台もあって、みんな『ミスしちゃ駄目だ』という気持ちももちろんあって、プレー選択のところから難しくしてしまったのかなっていうのはあります」(山本)

 マンツーマン気味に日本の中盤中央を封殺してきた相手に対し、指揮官は「解決策というか出口は提示していたが、予想以上の圧力もあっただろうし、当然(連戦の)疲労もある中でうまくいかなかった」と振り返る。

 ここまで日本をリスペクトし、引いて固める布陣を採用するチームとの、ある意味でアジア予選らしい戦いが続いていたが、この試合では様相が一変してしまった。

 ただ、逆に思うようにいかない展開で我慢できるようになったのもチームの成長した部分である。そして後半からは戦い方のベクトルを修正。大岩監督はそれを「自分たちがやりたいこととリアリティーのせめぎ合い」と形容する。

「無理に下から(グラウンダーで)つながなくてもよかった。自分が入ったときには、もうロングボールを入れて、セカンドボールを拾ってからという形でいこうという話はしていた」(山田楓)

 日本人選手が陥りがちな傾向だが、練習からやろうとしてきたことを実践することに固執してしまい、かえって勝利を遠ざけてしまうことがある。ただ、このチームはその軌道修正もしっかりできていた。

 さらに時間の経過とともに日本の「貯金」も効いてきた。コンディショニングを徹底して重視し、大会中のトレーニングも時間も強度も抑えながら、さらに選手をローテーションさせて使いまわし、消耗を避けてきた日本に優位性が生まれていた。

 次々に足をつった選手の交代を余儀なくされていたウズベキスタンとは対照的に、やむを得ずの交代ではなく、能動的な交代で試合の流れを引き寄せることに成功し、アディショナルタイムの決勝点につなげた。

 最後はジェットコースター展開になってしまったとはいえ、日本が時間を味方に付けていたのは、決して偶発的なものでもなかった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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