柏の希望、パリ五輪の星 DF関根大輝が初めて背負う「代表選手3つの宿命」

川端暁彦

Jと代表のギャップ

代表と所属チームのギャップを乗り越えるのも「代表選手の宿命」 【AFC】

 FC東京に退場者が出て数的優位になっていた後半は一転して柏のペース。1-3のビハインドから追い付き、そして追い越すことを目指す流れに乗って、関根の仕事は自然と攻撃面での比重が増えた。

「後半は自分も高い位置でボールを受けることができたんですけど、そこからの精度はもっと上げないといけない。代表でクロスやそのアイデアに自信は付いたんですけど、そこへ持っていく形というのをレイソルでもっと作らないといけないと感じました」(関根)

 FC東京が割り切って守っていた時間帯も長く、関根の位置から決定機を作り出すのは難易度の高いミッションにも見えたが、それをやれる選手という期待感もある。187センチの大型DFながら技術や戦術眼に秀で、攻撃で違いを作り出せる選手だというのが関根のセールスポイントだからだ。

 ただ、「Jリーグとのちょっとしたギャップも今日また感じていた」と言うように、新しい感覚にも直面していたようだ。

「次はこっちにアジャストしないといけないというのは今日の試合で本当に教訓になった。代表で自信はついたんですけど、戦い方がまた代表とは違いますし、そういうところにもっと早く適応できるようにならないといけない」(関根)

 代表選手が抱えることになる「難しさ」は、単なる肉体的な消耗だけではない。代表チームと所属クラブが同じ戦術を採用しているというのはレアケース。振られるタスクも違えば、チームメイトのタイプも違うし、何よりチームとしてのスタイルや方向性も違ってくるのは当然のこと。その中で短い時間で「代表脳」から「レイソル脳」へと切り替えることが求められる。それもまた、「代表選手の宿命」だ。

「アジアでは日本が主導権を握って、自分たちからアクションを起こすというか攻めていける感じですけど、逆に(柏では)相手にボールを持たれる展開が長くなるという違いもあります。代表の戦い方というのが残っちゃっている部分は多少あって、ポジショニングとか守備の行き方も(代表とは)もちろん違うので、早くこっちに(頭を)戻さないといけない。今日の試合は本当に良い教訓になりました」

 代表で自信を付けてそのプレーをJリーグにつなげようとしているからこそギャップも感じるわけだが、そもそも柏のサッカーと代表のサッカーは大きく違う。短時間で頭の切り替えをやれなければいけない。代表経験の浅い関根にとって、これは乗り越えなければいけない「代表選手の宿命」とも言える。

 もっとも、柏でのプレーが代表につながらないということではない。「相手に主導権を握られた状態でのサッカー」を強いられたとしても、それもまた財産だ。「アジアでの日本」は確かにボールを持って優位に試合を運ぶ流れが多かっただろうが、パリ五輪で待っている相手のレベルは、アジアで当たったチームの比ではない。そして何より関根はDFだ。タフな劣勢下であっても、そこでできることを増やすことは、柏の勝利にも、代表でのプレーにもつながっていく。

「やっぱり(五輪の)本戦はもっと過酷な戦いになると思う。そういう意味で今日の前半はパリで想定されるような(押される)展開になっていたとも言えるので、ああいう中でもっと自分がサイドハーフとの連係を含めてやっていけるようになれればいい」(関根)

 このあとは横浜F・マリノスや川崎フロンターレといった強力な個のタレントがサイドにいるチームともぶつかることになる。あらためて関根の守備能力も問われることになるだろう。

「やっぱりサイドバックは失点しないことが大事。そういうチームの強力なアタッカーを1対1で抑えることが求められてくると思います」(関根)

最後の「宿命」

代表選手が背負う「注目度」は別格だ 【写真は共同】

 代表選手が背負う「宿命」とは何か。

 まずタフなスケジュールや時差のある地域への長期遠征を強いられることが一つ。そして、代表チームでのプレーと所属チームでのプレーのギャップを自分で埋めて、頭を切り替えることが求められるのがもう一つ。そして最後の一つは、代表選手の持つ「注目度」だろう。

「(自分に対する)注目度は本当に上がってるとは思うので、それに見合ったプレーもしないといけないと思います」(関根)

 実際、この日の記者席にも観客席にも「関根のプレーが楽しみだ」という人は大勢いたように思うし、映像で視聴した層にも、少なからず関根のプレーに注目していた人は多かったはずだ。その視線の多さもまた代表選手が乗り越えなければいけない材料の一つだ。

 ただ、今のところ関根は、そうした視線の多さを負担には感じていないという。

「変なプレッシャーっていうのを受けているわけでもなくて、本当に伸び伸びとプレーはできています。あとは本当にゴールだったりアシストだったり、そういう結果がついてくれば、もっと注目度も上げていけると思います。まだそういう結果が自分にはないので、そういうところを目指してやっていきたいと思っています」

 DFとしての本分を忘れるわけではないが、ゴールやアシストにこだわる関根らしさ。注目度はむしろ歓迎といったコメントが出てくるのは頼もしい。

 ここからコンディションは自ずと上がっていくだろうから、あとは頭を切り替えて柏のサッカーの中で輝いていく術を磨けるか。主導権を握る戦いが前提だったアジアとは選手選考も変わってくるのが当然なので、J1の名だたるアタッカーを封じられるかどうかは当然ながらパリへの生き残りをも左右することになる。

 拓殖大学の大学生としての最後の1年を諦め、早めのプロ入りを決断したのは「自分がもっと成長するため」。そのために踏み入れたJ1の舞台で、関根大輝はさらなる高みを目指していくこととなる。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント