日本がドイツやスペインに勝利した以上の意義 短期連載「異例づくめのW杯」をゆく

宇都宮徹壱

ポルトガルに「勝利するしかない」韓国が起こした奇跡

アジア勢の躍進が目立ったカタール大会。韓国はラウンド16進出を懸けてポルトガルと対戦した 【宇都宮徹壱】

 12月2日、FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会13日目。グループステージもこの日の4試合を残すのみ、3日からはノックアウトステージが始まる。前夜の日本代表の激闘の余韻が冷めやらぬ中、この日は20時からエデュケーション・シティ・スタジアムで開催される、ポルトガルvs.韓国を取材することにした。

 両者が組み込まれたグループHは、2試合を終えての順位は以下のとおり(カッコ内は勝ち点/得失点差)。1位:ポルトガル(6/+3)、2位:ガーナ(3/±0)、3位:韓国(1/−1)、4位:ウルグアイ(1/−2)。W杯優勝国のウルグアイが最下位に甘んじているところに、今大会が「異例づくめ」だったことを痛感する。

 何とか日本に続いて、トーナメント進出を果たしたい韓国。初戦のウルグアイには0-0で引き分け、続くガーナとの第2戦では打ち合いの末に2-3で敗れてしまう。しかも試合終了間際には、パウロ・ベント監督が退場処分。すでにグループ突破を決めているポルトガルに対し、指揮官を欠いた状態で、絶対に勝たなければならない状況に追い込まれていた。

後半ATに飛び出したファン・ヒチャンの決勝弾に歓喜する韓国選手、サポーター 【Getty Images】

 先制したのはポルトガル。前半5分、自陣からのロングボールにジオゴ・ダロトが抜け出し、グラウンダーのクロスを入れると、ゴール前のリカルド・ホルタがニアから押し込んでネットを揺らす。しかし韓国も負けてはいない。前半27分、左CKがクリスティアーノ・ロナウドの背中に当たったところに、キム・ヨングォンが左足ダイレクトで突き刺す。前半は1-1で終了。

 後半は一転してジリジリした展開が続き、ポルトガルのベンチはロナウドらスタメン3人をさっさと下げてしまう。余裕を見せる相手に対し、次第に一本調子な攻撃になっていく韓国。裏の試合では、ウルグアイがガーナに2-0でリードしていた。このままウルグアイの2位通過か──。そう思われたアディショナルタイム、奇跡の瞬間が訪れる。

 後半45+1分、自陣のクリアボールをソン・フンミンが拾って、ドリブルで一気にアタッキングサードへ侵入。そしてペナルティーエリア前で急停止し、3人のDFを引きつけてからゴール前にラストパスを送る。すると後方から追いかけていた、背番号11がフレームイン。その選手、ファン・ヒチャンはGKの動きを見極めてから、落ち着いてゴール左隅に流し込む。次の瞬間、目の前の記者席に座っていた韓国人記者は、一斉に立ち上がってガッツポーズした。

 韓国の逆転勝利が確定しても、裏の試合はまだ続いていた。韓国の選手たちはセンターサークル付近で円陣を組み、サポーターたちはスマートフォンで速報を追っている。試合終了から5分くらい経過して、ようやく韓国のラウンド16進出が決定。エデュケーション・シティ・スタジアムは「テーハミング(大韓民国)!」の大合唱に包まれた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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