日本がドイツやスペインに勝利した以上の意義 短期連載「異例づくめのW杯」をゆく

宇都宮徹壱

アジアサッカーのターニングポイント」となったカタール大会

韓国のラウンド16進出が決まった瞬間、チームやサポーターはもちろん記者たちも大喜びだった 【宇都宮徹壱】

 かくして、今大会のトーナメントに進出する16カ国が確定した。内訳は、欧州8、南米2、北中米カリブ1、アジア3、アフリカ2。この数字を前回大会と比較してみよう。ロシア大会では、欧州10、南米4、北中米カリブ1、アジア1、アフリカ0。欧州と南米が減った分、アジアとアフリカがしっかり食い込んだ形だ。

 とりわけ目を引くのは、アジア勢が3カ国もラウンド16に進出したことである。過去の大会で、アジアの複数の国がグループステージを突破したのは、過去に2回。2002年の日韓大会と10年の南アフリカ大会で、いずれも日本と韓国のみである。今回はこの両国に、オーストラリアが加わった。オーストラリアのラウンド16進出は、2006年のドイツ大会以来。ただしこの時は、アジアではなくオセアニアからの出場だった。

 アジア躍進の背景を考えた時、ヨーロッパ勢の不振を無視するわけにはいくまい。最も大きな理由は、11月開催による過密日程と準備不足、それらに起因する怪我人の多さであろう。加えてもうひとつ、個人的に指摘したいのが「UEFAネーションズリーグの弊害」。欧州55カ国の「内輪」でのマッチメークを4年間続けてきた結果、異文化サッカーとの真剣勝負の場がなくなり、ぶっつけ本番のW杯で対応しきれなかった側面も少なからずあったのではないか。

 いずれにせよ、今大会は「アジア勢の躍進」というトピックスが、後世に語り継がれることは間違いない。そして、アジアのトップランナーとなったのが、われらが日本__。実は前日のコラムで、きちんと言及しておきたかったのが、まさにこのことであった。

スペイン戦に勝利、2大会連続16強入りを果たした日本代表選手たち 【Getty Images】

 日本は7回の本大会出場で、4回目となるグループステージ突破(アジア最多の11回出場を誇る韓国は3回目。前回の2010年から3大会ぶりの快挙だった)。しかも日本は今回、初めて2大会連続でのラウンド16進出を果たしている。監督や主力メンバーが変わっても、開催国の環境や開催時期が変わっても、コンスタントにグループ突破できる代表チームとなったこと。それは、ドイツやスペインに勝利したこと以上に、重要な意義であると考える。

 12月3日から始まるラウンド16では、オーストラリアはアルゼンチンと、韓国はブラジルと、そして日本は前回準優勝のクロアチアと対戦する。元日本代表監督のイビチャ・オシムさんがご存命なら、どんな感想を漏らしただろうか。そして日本がベスト8の壁を打ち破った暁には、準々決勝が日韓戦となる可能性さえあるのだ。妄想だって? いやいや、これまでにも信じられない出来事が、何度も起こっているカタール大会。決してありえない話ではないと思う。

 そんな夢想を懐きながら、当連載は今回をもって終了となる。なぜなら本稿を入稿後、私は帰国の途につくからだ。猛暑のドーハから師走の東京に戻ったら、今度は皆さんと一緒に「いちファン」として、日本代表に声援を送ることにしたい。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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