[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第10話 明かされた3つのミッション
これを記念して、4年前にスポーツナビアプリ限定で配信された前作をWEB版でも全話公開いたします(毎日1話ずつ公開予定)。
木崎f伸也、初のフィクション小説。
イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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「カツさんに会うと、代表に帰って来たって感じがするわぁ」
「他のお客さんに迷惑だから、はしゃぎすぎるなよ」
勝吉が、部屋のカードキーを差し出す。
入室に時間がかからないように、代表では常にスタッフがあらかじめチェックインを済ませてくれている。丈一は鍵を受け取り、代表で借り切っているフロアへエレベーターで上がった。
【(C)ツジトモ】
オラル時代にずっと2トップを組んできた2人は、すれ違いざま、互いに両手を出し合ってハイタッチをかわした。
「タイガー、W杯でもよろしく」
「おう」
松森はいつも通り素っ気ない。
丈一、松森、リゴプールの高木陽介の3人は、2001年生まれだ。2024年五輪で銅メダルを獲得し、さらに2026年W杯でベスト16進出。2022年W杯出場を逃して低迷していた日本サッカー界を、3人で復活させてきた。ただし、だからと言って仲がいいわけではなく、それぞれプライドが高いこともあって互いに一定の距離を置いていた。
選手に割り当てられるのは一人部屋だ。ドアを開けて入ると、ベッドの上にトレーニングウェア一式が並んでいた。代表活動中の練習着と移動着はすべて用意されるため、選手は下着だけ持ってくればいい。
ただ、裏を返せば、下着だけは私物ということである。そのため、かつては下着の洗濯は各自で行うというルールがあり、ホテルのクリーニングに出す選手もいれば、節約して自分で手洗いする選手もいた。しかし、代表選手が自分のパンツを手洗いするのはあまりにもみじめなので、選手が直訴し、今では代表側がクリーニング代を負担するようになった。
丈一は早速ジャージに着替えると、移動でこわばった体をほぐすために、部屋の床に座ってストレッチを始めた。
W杯に向けた代表の最初のプログラムは、チームミーティングだ。ホテルの多目的部屋に椅子が並べられ、前方にスクリーンが用意されている。
開始5分前にはほぼ全員が着席していたが、1人の選手が時間ぎりぎりに飛び込んできた。代表での出場数がわずか2試合の18歳、東京ヴァッカルの小高有芯だ。
「最年少が最後に来るとは、東京ヴァッカルは教育がなってないな」
最後尾に座っていた丈一がヤジを飛ばすと、仲がいいアヤッフスの今関隆史が「ジョーに言われたくないだろ」と返して、どっと場が沸いた。丈一も東京ヴァッカル出身だからだ。
有芯は丈一の横の席が空いているのを見つけ、滑り込んできた。
「ツッコミを入れてくれてありがとうございます。さすがキャプテン、場の雰囲気を和らげようとしてくれたんですよね」
「遅刻には気をつけろよ。監督が代わったら、チーム内の罰則も変わる。新監督、見た目から想像すると細かそうだからな。それにおまえ、VRでドログパに飛び蹴りを食らわしたらしいじゃないか」
「キャプテンって、そんなことまでチェックしてるんですか? まあ、今度ジョーさんも一緒にやりましょうよ。実際のゲームでできないことをやるのは、気持ちいいですよ」
「やっぱ東京ヴァッカルのやつは教育がなってない」