社長からチェアマンへ――。新リーダー・野々村芳和が見るJリーグの現在地

大島和人

今季からチェアマンに就任した野々村氏。新たなチャレンジをスタートさせた新リーダーは現状をどう見ているのだろうか 【写真:松岡健三郎】

 Jリーグの野々村芳和・新チェアマンは、プロとして7年間プレーした元Jリーガーで、さらにコンサドーレ札幌の社長を9年務めた経歴を持つ。引退後の“活躍”は現役時代と遜色なく、彼は古巣のJ1昇格と事業規模拡大を鮮やかに成功させている。元選手のクラブ経営者は増えつつあるが、先駆者と言い得る存在だ。

 そして49歳というチェアマン就任時の年齢は、6代目にしてもっとも若い。今回はそんな野々村がスポーツナビの単独インタビューに応じ、自身の考えを率直に包み隠さず語っている。その人物像が伝わる、サッカーへの思いがにじみ出る内容だ。

社長とチェアマン。2つの仕事の違いとは?

――9年間務めたコンサドーレ札幌の社長を退任して、Jリーグのチェアマンに就任しました。二つの仕事の違いをどう見ていますか?

 まだ1ヶ月も経っていませんが、まあ違いますよね。クラブのときは結果責任があるから、僕は自分のチームの試合が見られないくらいの状態になっていたんです。今は結果に対する責任はなくなったけれど、別の意味で色々な責任がある。例えば昨日もあったじゃないですか?(※このインタビューは4月4日に行われて、前日の山形×岡山戦で「競技規則の適応ミス」が発生していた) 違った意味でのプレッシャーがあるな……と感じ始めているところです。

――試合の勝ち負け、収入のようなはっきりした結果への責任はなくなったけれど、目に見えない、より大きな責任を背負っているという感覚ですか?

 より大きなモノとは思ってないし、どのクラブの社長も大変な仕事をしています。「どちらが重要」とは思わないけれど、まったく違う仕事ですね。ただ今までの感覚を持って仕事に当たることで、より良いジャッジができるとは考えています。

――忙しさはどうですか?

 最初だからなのかもしれないですけど、びっくりするな……って感じです(苦笑)。最初だけと信じたい!
 例えば今日だったら朝7時に家を出て、7時半からここ(JFAハウス)で何人かと打ち合わせをして、8時からNPBとのコロナ対策の事前会議があって、続く本会議があった。本会議の間に昨日起こった事案についてやり取りをして、さらに社内ミーティングが3つあって、14時からこの取材……みたいな流れです。この後も社内のミーティングがあって、夜も人と会う予定が入っている。そんな感じが毎日です。特に最初はパートナー様へのご挨拶回りがどんどん入ってきますね。ただ週末はゲームに行くようにしているので。

――視察も大切な仕事ですけれど、リフレッシュになりますね。

 ウィークデーにする仕事とは違うモチベーションで行けるから、それはいいですよ。先週も金曜に長野へ行って、ローカルメディアに出て、新聞社2社へ挨拶に行きました。土曜は松本で、日曜に長野の試合というスケジュールでしたね。サッカー専用スタジアムはいいな……という感覚を改めて持ちました。今まではスタジアムで、落ち着いて試合を見る機会がなかったんです。

――社長の仕事があって、試合を落ち着いて見られなかったのですか?

 いや、試合前はもちろんパートナーさんのところに行きますけれど、自分の試合を見るのが怖くなっていたんです。最初はずっと見ていたんですけれど、だんだんと……。やっぱり見ると「言いたくなる」じゃないですか。

――元プレーヤーだから、なおさら問題点が「見えて」しまいますね。

 ハーフタイムとか試合が終わってすぐ、選手と同じようなテンションで話をしてしまうのが果たして良いのか? という自問自答もありました。自分が何か言ったからって、結果が変わるわけでもない。「現場に任せなければいけないよね」という考えもあり、ならば「見て余計なことを言ってしまうなら見ないほうがいい」と思って、そうしたらだんだんと試合が見られなくなっていきました。

――コンサドーレ札幌は2016年にJ2を制して、17年はJ1で11位、18年は4位と右肩上がりでした。サポーターにとっては右肩上がりの楽しい時期だったはずですけれど、肝心の社長がご覧になっていなかったのですね。

 今のコンサドーレは9年前より良くなっているけれど、目標もどんどん高くなるじゃないですか。上に行けば行くほど、考えることも違ってくる。そうすると余計に見られなくなっていく感じが自分の中にありました。僕の仕事は試合前に終わっている。経営をしていい人材を揃えてチームを良くするのが仕事……と言い聞かせていた感じですね。

――サッカーの試合をご覧になるのは、何年ぶりだったんですか?

 5年ぶりくらいじゃないですか。サッカーを楽しめる状態にようやくなってきて、それが一番嬉しいところです。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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