“日本語ペラペラ”の千葉ジェッツ新指揮官  J・パトリックの知られざる経歴と縁

大島和人

日本と世界の架け橋となった人物

6日の就任会見に臨むジョン・パトリックHC(千葉J) 【大島和人】

 過去の日本バスケについて情報を集めていると、頻繁に名前を耳にする “謎の外国人”がいた。その名はジョン・パトリック。例えば松井啓十郎(富山)や伊藤拓摩(長崎GM)にアメリカ留学の経緯を尋ねたとき、二人は紹介者としてその名前を挙げていた。

 伊藤GMは21年春の取材でこう述べている。

「三重県にクリニックに来たとき、一緒に5対5をしました。ジョンさんがステュー・ベターというコーチを紹介してくれたんです」

 伊藤拓摩と大司(A東京アシスタントGM)の兄弟、松井啓十郎、そして富樫勇樹(千葉J)はモントロス・クリスチャン高でステュー・ベターの指導を受けた。富樫は別だが、伊藤兄弟と松井の留学はパトリックのつないだ縁だ。ドイツでコーチをしている時期には、石崎巧(元琉球)を選手として迎え入れ、また前田浩行(三遠AC)や宮崎哲郎(千葉AC)をコーチングスタッフに受け入れている。

 2006年以降はヨーロッパでキャリアを積んでいたパトリックだが、そうやって日本バスケと世界の架け橋となり、挑戦を後押ししてきた。国内のクリニック、キャンプを通じて“草の根”からの強化に関わった人物でもある。彼が「日本の父」として名前を挙げていた禿正信・近畿大監督を筆頭に、今なお日本国内に知己が多い。日本バスケットボール協会の東野智弥・技術委員長から世界のバスケについて話を聞いたときにも、やはりパトリックの名前は出てきていた。

質疑応答では流暢な日本語を披露

 2015年頃からバスケの取材を始めたライターとして、彼は“会ったことはないけれど気になる存在”だった。

 そんなレジェンドが、ついに我々の前に姿を現した。2022-23シーズンからB1の強豪・千葉ジェッツのヘッドコーチ(HC)へ就任することになり、6日に千葉県内で記者会見が開かれたからだ。

 ジェッツは6シーズンに渡って指揮を執り、チームを2020-21シーズンのB1制覇に導いた大野篤史HCが昨季限りで退任。コーチ、スタッフも大量にクラブを去った。そんな中で招かれた新指揮官がパトリックだ。

 会見でマイクを手にした彼は日本語で語り始めた。発音、文法、単語の選択のいずれをとってもほぼ完璧なレベルだった。「日本語がペラペラ」と聞いてはいたが、想像以上だった。

「皆さんこんにちは、ジョン・パトリックです。17年前にトヨタを見てから、ずっとヨーロッパ、ドイツの方でコーチをしていて、日本に戻ってきました。千葉ジェッツのチャレンジ、挑戦をすごい楽しみにしています。日本のバスケットはその間に大分変わって、面白いポイントが沢山あります。このオファーが来たときに、チームのメンバーを見て、あとクラブのストラクチャー(体制)、練習用の体育館、2024年に計画している新しいアリーナも考えて、とても面白いプロジェクトだと思いました。今からそのプロジェクトのヘッドコーチとして、頑張りたいと思います」

 男子日本代表のトム・ホーバスHCは通訳なしで試合中の指示を送ることでお馴染みだが、ジェッツの新HCはトムに比べても同等以上の日本語力を持っていた。そもそも彼はアメリカで名門・スタンフォード大でプレーを卒業したインテリでもある。オフコートの学習能力においても、優れた人材なのだろう。

ドイツでもコーチとして実績

 目指すチーム作りについては池内勇太GM、パトリックHCともに「ハードな守備」「速いテンポの試合運び」という“ジェッツのスタイル”の継続を強調している。新指揮官はこう述べていた。

「ドイツのチームでは、国際試合でもリーグでも成功を収めました。その理由はリーグ一の激しいディフェンス、フルコートのディフェンスを展開していたからです。相手にターンオーバーを強いて、イージーバスケット(相手の守備が間に合わっていない状況から放つ簡単なシュート)を増やし、そのスタイルを貫くことができました」

 パトリックは2006年からドイツのクラブで指揮を執り、世界屈指のリーグであるブンデスリーガで過去に3度「コーチ・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。13年からは「MHP Riesen Ludwigsburg(MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルク)」のHCを続けていた。そして息子のJohannes、Jacobは父が指揮するリーゼンでプレーしていた。つまり彼は日本と同じく、ドイツとも縁が深い。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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