「選手権制覇」の名将は千葉U-18を“県リーグ”からどう引き上げようとしているのか?

大島和人

クラブと高校、指導者の役割はどう違う?

2011年度の高校サッカー選手権では母校・市立船橋を優勝に導いた 【写真は共同】

「新しい刺激を欲していた」と2019年春の転身を振り返る朝岡は、クラブと部活の違いについてこう述べる。

「クラブと高体連はもう組織体が違うし、指導者の役割も変わってきます。(Jのアカデミーは)ある程度オーダーがあって、当然こちらは守りながらやっている。そこはやりがいを感じながらも、難しいなと思うところもあります」

 高校サッカーは“GM”や“スカウト”の役割を兼務する全権監督が大半だ。クラブは株主がいてトップチームがあって、アカデミーにもサッカーのプロフェッショナルが十人単位で関わっている。U-18の監督は重要な役割だが“ボス”ではない。

「市船のときは色々な決定権を持っていました。選手を見て、戦術も毎年変えながら、選手の個が生きるような戦術を作っていました。クラブはまずチームのコンセプトがあります。その育て方、やり方の違いは当然受け入れながらやってます。スカウトに協力はしていますけど、最終決定は上司が行います。ただ色んな人が選手関わるのは、クラブのポジティブな部分かなと思います」

 当然ながら市船の監督時代のように「校務」「教務」に時間を割く必要はない。サッカーの研究、チームの分析に時間を使えることもプロクラブの監督を務めるメリットだ。

U-15、U-12からの底上げも

 ただしリーグ戦のカテゴリーは前述のように「千葉県1部」で、しかも前期は2勝2分3敗と負け越している。そもそも千葉は県リーグのレベルが高く、そこから抜け出すことが容易でない。

「市船のときも感じましたけど、(どちらも全国制覇経験のある)八千代や習志野がいて、最近だと専大松戸、日体柏も強い。市船がやっても、苦しむと思うんですよ。ジェフだったら、そこはまだ厳しいです。一人一人のポテンシャルも、見てもらえば分かるように、強烈なタレントがいるわけではない。競争の部分もまだ甘くて、受身的な子が多い」

 “競争の活性化”は朝岡が意識している部分だ。今大会は複数の1年生が先発の機会を得ていた。1年生はBチームでしっかり試合に出す発想もあり得るが、朝岡は「チャンスがあったら引き上げる」方向性を強めている。

 昨年の千葉県1部は「後期に流通経済大柏Bに勝てば優勝だったが、直接対決で敗れて2位」という悔しい結果だった。リーグ戦のスロースタートという課題も、朝岡が今まさに取り組んでいる部分だ。

 一方で今後の収穫につながりそうな芽もある。矢口駿太郎は負傷で今大会に帯同こそしていないが、“飛び級”でJ2の6試合に出場している注目株。チームの背番号10を背負う新明龍太も、天皇杯でトップのピッチに立っている。その下の世代を見ればU-15が先日の関東クラブユース選手権で優勝を果たした。さらに現中2世代は「ジュニア1期生」で、2020年12月の第44回全日本U-12サッカー選手権大会で準優勝している世代。飛躍への足場固めは進みつつある。

トップとアカデミーの“ズレ”は?

 アカデミーのコンセプトについてはチームの試合を観察し、朝岡の話を聞けばよく分かる。しかし尹晶煥監督率いるトップチームは手堅くパワフルなスタイルに取り組んでいる。「トップとアカデミーのズレ」という少し意地悪な質問をぶつけると、朝岡はこう説明してくれた。

「後々合ってくると思います。当然ジェフはJ1に上がらなければいけないというところで、勝利が優先されます。トップでは勝利のために戦術的柔軟性を持つことは当たり前だと僕は考えているし、トップとアカデミーが共通のコンセプトを持つことは“理想”とも言えます。しかし、後にアカデミーとトップのコンセプトが統一されていくことに期待はしています」

 川崎フロンターレのアカデミーは千葉や東京ヴェルディ、横浜F・マリノスに比べて後発だった。しかしトップが強く大きくなるのと軌を一にして、アカデミーも才能が集まり始めて先行チームを追い越していった。今では板倉滉、田中碧、三笘薫といった人材を日本代表に送り込んでいる。トップが強くなればアカデミーは強くなり、アカデミーが強くなればトップも強くなるーー。そういうサイクルを作るには、トップの“結果”は決定的に大切だ。

「ジェフここにありと証明したい」

「育成のジェフ復活」について水を向けると、力強い答えが返ってきた。

「そのために僕はジェフに来たと思っています。『復活』という言い方は今いる選手、今まで取り組んでいた方に対して失礼になってしまうので難しいですけど……。ジェフここにありと証明したいという思いが、僕がここにお世話になっている一番の理由です。なかなか思い通りに進まないことはありますけど、僕も野心を持って取り組んでいます。微力ながらユース年代のトップを見てきたつもりではいるので、その基準に選手を早く引き上げたいなと考えています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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