レガネスの謙虚な姿勢と地道な戦略 “柴崎効果”にも色気や野心を見せない
柴崎岳がレガネスに加入した理由
柴崎岳がラ・リーガ2部レガネスに加入。レガネスというクラブを紐解き、日本マーケットでの戦略に迫る 【Getty Images】
昨季デポルティーボ・ラ・コルーニャ(ラ・リーガ2部)でプレーした柴崎だったが、チームは2部B(3部)への降格となってしまい、今夏は再びラ・リーガ2部のレガネスへと移籍。決め手となったのは、今季からレガネスの監督を務めるホセ・ルイス・マルティの存在で、柴崎が2017年1月に鹿島からテネリフェに移籍をしてからの半シーズン指導を受けた指導者でもある。
1部昇格は逃したものの、テネリフェでの活躍が認められる形で17-18シーズンからはラ・リーガ1部のヘタフェに在籍した。ヘタフェではボランチではなくサイドハーフとして使われることが多く、2年目にはケガもあって出場機会を減らすことになったが、個人的にはホセ・ボルダラス監督のサッカーと柴崎の選手としての特徴のミスマッチが徐々に出場機会を失うことになった直接的要因と分析している。
裏を返せば、柴崎はラ・リーガ1部で十分プレーできるレベルにある選手で、「あまり多くのオファーがあったわけではない」と明かしてはいたが、再びラ・リーガ2部の挑戦を続けることは驚きだった。日本代表のオランダ遠征中、柴崎には直接「個人的に茨の道に映るが、なぜまたラ・リーガ2部挑戦を続けたのか?」という質問をぶつけてみた。
柴崎は「日本に帰るという選択肢は全くなかった」とした上で、こう続けた。
「(日本)代表に入る、入らないということではなく、やはりこちら(欧州)の選手、環境、プレーに触れておくのは大事なこと。そんなに多くのオファーがあったわけではないが、レガネスに加入した理由としては監督もよく知ってくれている人物で、2部とはいえど非常に競争力のあるリーグ。僕の見てきた経験上、2部でもしっかりと結果を出して活躍し、存在感を発揮することができる選手は1部でも確実に通用するという見方をしている。2部リーグに所属しているということをどう見るかというのは個々人の自由だが、僕自身としてはそこをプラスに捉えて、日々研さんを積んでいきたい」
長年下部リーグを含めてスペインサッカーを取材してきたジャーナリストの立場からしても、ラ・リーガ2部のレベル、競争力は非常に高いと断言できる。そして、今回柴崎が選んだレガネスは昨季惜しくも1部昇格を逃したクラブながら、今季の2部では予算規模も含めて十分1部昇格を狙える立場で、柴崎以外にも今夏積極的な補強を敢行している。
現オーナーが深刻な経営難から救う
コミュニケーション・ディレクターのダニエル・アバンダ氏 【スポーツナビ】
登壇者はコミュニケーション・ディレクターのダニエル・アバンダ氏とマーケティング・ディレクターのビクトル・マリン氏の2人。冒頭でアバンダ氏は、「信じられない10年」というフレーズとハイライト動画を用いて近年レガネスが急成長を遂げた物語を説明した。1928年創立のレガネスはマドリード近郊のベッドタウンに位置付けられるレガネスに拠点を置くクラブで、16-17シーズンに初めて1部を経験するまでは2部B(3部)や4部のセミプロとアマチュアのリーグを行き来するローカルクラブだった。
08年にはリーマンショックの影響もあって深刻な経営難に陥り、選手への給料未払いが続く。当時2部Bに所属していた選手たちは、アトレティコ・マドリーBとの公式戦でキックオフ直後に膝を付き試合をボイコットしたことで大きな話題を呼んだ。クラブ消滅寸前の状態を救ったのが、現オーナーで地元出身の実業家であるフェリペ・モレノ氏で、会長には彼の妻であるヴィクトリア・パボン氏が就任した。2部B所属のセミプロチームを再生すべく、夫妻は素早くクラブの赤字返済を完結し、中長期スパンでの再建計画を立てた。オーナーであるモレノ氏自身が試合当日にチケット販売の張り紙を貼り、控え選手たちのベンチを用意する姿は全国ニュースでも取り上げられた。
健全経営をモットーに改革を進めたことで、パボン会長が就任して以降もしばらくは2部Bでの戦いが続くことになるも、転機となったのは13年夏のアシエル・ガリターノ監督の招聘(しょうへい)。1年目で2部昇格を果たすと、2部でも2年目に1部昇格を決め、前述の通り16-17シーズンはクラブ史上初となる1部挑戦を果たす。
マスコットは「スーパー・キュウリ」
レガネスはスペイン国内でも独特のマーケティング戦略で知られる。マスコットは「スーパー・キュウリ」 【Getty Images】
1部に4シーズン在籍したことで柴崎加入前から「レガネス」の名前を知っていたファンも多いはずだが、そもそもレガネスはスペイン国内でも独特のマーケティング戦略で有名なクラブだ。例えば、クラブのニックネームは「Pepinero(キュウリ栽培者)」で、「スーパー・キュウリ」という愛称のマスコットはその名前以上に見た目のインパクトがある。今でこそ首都マドリードのベッドタウンとして発展したレガネスだが、本来はマドリード市に野菜を供給する機能を担ってきた都市農業の街。田舎であることに誇りを持ってもらうための逆転の発想がキュウリを全面的に押し出すクラブのブランディングからもうかがえる。
また、1部昇格直後のシーズンはホームゲーム開催ごとのポスターに全国的注目が集まった。抜群のユーモアと独特のセンス、そして対戦相手へのリスペクトを反映させたポスターは毎回話題を呼び、メディアで大きく取り上げられた。登壇者でマーケティング担当のマリン氏からもメッシを擁するバルセロナ戦のポスターが紹介され、「メッシがディオス(神)と呼ばれていることをもじって、ブタルケ(スタジアム)の上にディオスの雲がかかっている様子を描いて、『神のお望み通りになるのかどうか』というタイトルを付けています」という説明があった。