レガネスの謙虚な姿勢と地道な戦略 “柴崎効果”にも色気や野心を見せない

小澤一郎

SNS、ユニホーム販売で早速“柴崎効果”

“柴崎効果”で日本でのレガネスの認知度は向上。それでもクラブはいたって冷静だ 【Getty Images】

 そうしたクラブだからこそ、柴崎の加入によって一気に視界が広がった日本のマーケットにおいても虎視眈々(たんたん)とスポンサーの獲得を狙っているのかと思いきや、幹部からは意外な言葉が返ってきた。

「われわれは、日本のマーケットにおいてまだ新参者です。国際化という側面でもまだクラブとして動き出したばかり。だからこそ、すでに日本人を獲得した経験のある他のクラブに問い合わせをして、日本という独特のマーケットについてのヒアリングを行っています。柴崎岳の加入によってチャンスは広がりましたが、われわれとしては日本人選手の存在の有無にかかわらず、長いスパンでの戦略を考えています。

 日本のマーケット戦略においても、クラブとして常に最終目標として掲げているのはファンを作ること。ファンの獲得を例えばスポンサーの獲得のための手段として使うつもりはなく、日本でファンを獲得することこそが最大の目標であり、われわれのゴールです。そのためにも日本でペーニャ(公式ファンクラブ)を作っていただきたいと考えています。日本の皆さんとの距離を縮める。レガネスは元々ファンと近い距離にあるクラブであり、ファンに優しいクラブです。だからこそ、今はまずレガネスというクラブを知ってもらうためのアクションを考えています」

 実際、柴崎加入の効果は如実に表れており、例えばユニホームではすでに柴崎の名前と背番号入りの注文数が最も多くなっているという。SNSでの数字も劇的に上がっており、フォロワー数の増加から早速クラブは日本語版の各SNSアカウントの開設を予定している。また、柴崎の入団発表会見やそのインサイド動画はYouTubeの公式チャンネルにおいて今季ここまで最も再生回数の多い動画になっている。こうした“柴崎効果”に味をしめて、早速「日本でのスポンサー獲得」を口に出すのかを思いきや、今回のカンファレンスからは一切そうした色気や野心は感じられず、地に足をつけた長いスパンでの地道なファン獲得のための戦略と気概が示された。

レガネスの姿勢はラ・リーガの成熟を表す

マーケティング・ディレクターのビクトル・マリン氏 【スポーツナビ】

 逆に言えば、レガネスのこうした姿勢からラ・リーガ自体の成熟も感じ取ることができた。過去に日本人選手を獲得したクラブの日本向けのマーケティング戦略は基本的には選手の存在に完全に依存する場当たり的な手法で、その日本人選手がいなくなればすぐ立ち消えとなっていた。しかし、今や1部に日本人が4選手も在籍することからも分かる通り、ラ・リーガにおける「日本人選手」は特段目新しい存在ではなくなり、各クラブは日本人選手の獲得=「スポンサーの獲得」とはならないことを、これまでの経験則からも十二分に理解している。

 今回のカンファレンスではラ・リーガのクラブ間での情報共有のみならず、レガネスと日本の両方でのプレー経験を持つセランテス(現アビスパ福岡)、マウロ・ドス・サントス(現アルビレックス新潟)から直接日本という国やファンの気質をヒアリングしているという話も出た。自分たちを知ってもらうためにもまずは自分たちが知ろうとする、知ること。レガネス幹部の2人からは雲をつかむような話は一切なく、謙虚な姿勢と地道な戦略にはとても好感が持てた。

 今は「柴崎のレガネス」と紹介されているが、最終的に柴崎の存在にかかわらず「レガネス」という名前が日本で確かな認知を取れるよう、微力ながら協力していきたいと思える素敵なクラブであり、中身の詰まったカンファレンスであった。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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