柴崎岳が中学・高校生たちに伝えたいこと コロナ禍でサッカーとどう向き合うか

安藤隆人

強豪・青森山田で中高6年間を過ごした柴崎岳。今、中学・高校のサッカー少年たちに伝えたいことを存分に語ってもらった 【スポーツナビ】

 2018年のロシアW杯で日本の司令塔として攻撃のタクトを握った柴崎岳。卓越した技術をベースに、ピッチを頭上から俯瞰(ふかん)しているかのような視野の広さと頭の回転の速さで、正確なパスを供給する姿は、まさにピッチ上の指揮官だった。

 彼は青森県出身、地元の強豪・青森山田で中高6年間を過ごし、2011年に鹿島アントラーズに加入。2016年には10番を託され、クラブW杯では決勝でレアル・マドリードを相手に2ゴールを挙げるなど、絶大なインパクトを残し、この年のオフにスペインへ。海外で躍動する柴崎にとって、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中学、高校生のサッカー少年たちが公式戦の機会を奪われてしまっている現状に心を痛めていた。

 今回、プロサッカー選手として、かつてのサッカー少年として、全国の中学・高校生たちに伝えたいこと、自身の考えや想いを語ってもらった。

チャンスを与えてあげたい気持ちがある

――新型コロナウイルス感染拡大の影響で中学生では全国中学サッカー大会、日本クラブユースサッカー選手権(U-15)が中止。高校生ではインターハイが中止、日本クラブユースサッカー選手権(U-18)が冬に延期となりました。リーグ戦も9月に期間とカテゴリーを変更して行うなど、多くの公式戦の場が失われています。この状況を柴崎選手はどう感じていますか?

 選手は純粋にプレーをしたいでしょうし、周りの環境を整える大人たちがなんとかしないといけない状況だと思っています。最大限の感染予防対策をした上で試合などを行うことは賛成します。この難しい状況の中で何ができるか考えて行動することは、子供以上に大人が努力すべき部分だと思います。

 もちろん感染リスクをゼロにすることは不可能だと思いますが、リスクを減らして大会を運営する努力を、子供たちの育成に関わっている人たちは考えて欲しいと思っています。なぜなら育成年代にとってこの時期というのは、人としても、選手としても経験や行動によっていろいろなものが身につき、磨かれる時期だと思うので、なるべくそういう舞台やチャンスを与えてあげたい気持ちがあります。

――もしこの状況で周りが何もしなかったら「なぜ大人たちは何もしてくれないんだ」という大人への不信感が生まれてしまう危険性があると思います。

 子供は大人のことを見ています。ただ、どういうプロセスを経て、この状況があるのかを深く理解するのは難しく、結果だけを見て良し悪しを判断する年頃でもあると思います。もちろん自分が置かれている環境や、一生懸命指導をしてくれる人たちへの感謝の気持ちは持っています。

 僕もそうですが、今こうやって年齢を重ねてきたことで、どういったプロセスを踏んで物事が成り立っていたのか、どれくらいの規模で行われていたかを理解するようになって、大人たちへの見方が形成されていく。それに気づくと、今度は自分が大人になった時に、困っている子たちがいたら助けたいという精神につながると思います。だからこそ、大人が環境や機会を作ろうとする姿を子供たちに見せていくということは物凄く大切だと思います。

――柴崎選手は中学時代から年上の人とコミュニケーションをとることに積極的でした。大人と話すというのはどういう意味を持っていたのでしょうか?

 同級生などとの会話は、たわいもない話やチームのことでした。指導者の方と話すことは、個人としてスキルアップしたいとか、プロに入った後に何が必要かを考えた時に、思考が洗練されていく部分があったので、非常に大切なコミュニケーションであったと、今となって思いますね。その当時は何かを意識していたわけではなく、ナチュラルに今の自分を、より向上させるために指導者の人たちと話をしていました。

 幸い、僕が所属していた青森山田には大人とコミュニケーションが取れるベースがあって、指導者の人たちが素晴らしい環境を作ってくれた。育成年代をより良くするには選手だけではなく、環境を作る側の指導者、メディアの人も含めて全員で考えるべきテーマであり、今まさにその時期だと思っています。もちろんこういうテーマは永久的にあるものなので、それをこのコロナ禍をきっかけにしてどう高めていけるかということですね。

青森山田高校では大人とコミュニケーションが取れるベースがあり、指導者の人たちが素晴らしい環境を作ってくれたという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――メディアの関わりも重要になりますよね。

 日本だと育成年代に対して、全員にインタビューをするような機会はなかなかなく、ライターさんの取材は別としてテレビなどに取り上げられる頻度や媒体も少ないと思っています。今はYouTubeがあるので映像として成り立つ部分は、昔より多くなっているとは思いますが、まだまだメディアと育成年代が触れるベースが乏しいと感じます。そこの規模をもっと大きくしつつ、コミュニケーションのクオリティーを高めていく機会を様々な選手に与えていく。海外ではその機会が多くて、育成年代で自然とコミュニケーションスキルを身につけているなと感じます。

――スペインやヨーロッパの強国は育成年代から主張を促すというか、子供同士だけでなく、大人に対してもコミュニケーションをとる土台ができている印象でしょうか?

 実際に昔からどうなのかはわかりませんが、僕が過ごしていて感じるのは、例えばキャリアがまだ形成されていない選手が、ある程度形成されている選手に対して自分の思っていることを言います。国民性もあるのかもしれませんが、スペインの選手の方が主張する自我を持っている印象を受けますし、育成年代を含めて言葉にする力があると思います。もちろんそれは言葉のうまい・下手ではなくて、シンプルに思ったことを言うという意味です。

――下部組織の様子もご覧になることは多いのですか?

 テレビを見ていると、クラブ専用チャンネルが流れていますね。ジュニア、ジュニアユース、ユースのカテゴリーを網羅していて、日本より映像を見る機会が多いと思います。それはサッカーが文化として根付いている部分が多いと思いますが、日本のメディア形態にも改善の余地はあると思っていますし、見習うべきところもあると思います。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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