プロ野球ドラフト会議まであとわずか 異例の2020年、「進路」に見て取れる変化
増える『野球と勉強の両立』希望者
新型コロナウイルスで主要アマチュア大会が中止になった異例の2020年。野球界では「進路」の決断に変化の兆しが出ているようだ 【写真は共同】
そんな2020年をよく象徴するのが、“目玉候補”が下そうとしている決断だ。中京大中京高校の最速154キロ右腕投手、高橋宏斗は10月12日が期限のプロ志望届を現時点で出しておらず、球界関係者たちは「慶應(大学)に行くみたいだね」と声をそろえている。
プロ入りを表明すれば1位での入札が相次ぐと見られるなか、名門大学に進む。その選択はまだ決定されたわけではないが、少なくとも両者を天秤にかけるという姿勢は、野球界に表れている変化の兆しと言えるだろう。
「最近、高偏差値の高校生がプロに入る割合が明らかに増えています」
5月下旬、オンラインでやりとりしていた某球団のスカウトが言った。ちょうど日本中に緊急事態宣言が発令されていた真っ最中だ。
突如到来した“Withコロナ”時代、日本中で社会のあり方がさまざまに見つめ直されている。
ただし、より正確に言えば、コロナによって世の中が一変したわけではない。もともと社会が抱えていた問題が顕在化し、今、変化が促されているのだ。
野球界で言えば、最も大きな影響は「進路」に見て取れる。プロを視野に入れる選手ばかりではない。むしろ、まだ10代でキャリアの途上にある者たちは、例年以上に熟考を迫られた。
「県内に限らず、『野球と勉強をしっかり両立させましょう』という高校に希望者が増えているという話をよく聞きます」
そう語ったのは、NPO法人前橋中央硬式野球倶楽部の春原太一代表理事だ。コロナ禍で社会全体が「不安」なムードに包まれるなか、中学生を送り出す立場の春原代表理事は、保護者も含めて敏感な心情をひしひしと感じさせられた。
「コロナの自粛期間中、2人の中学3年生部員が『辞めます』と言ってきました。『こういう時代になってくると、このまま野球を続けていられるような状況ではないんじゃないか』と。勉強に不安を抱えているという強い訴えでした。中学3年のその時期にチームを辞めるのは、今まで経験がないことです」
このまま野球優先の日々をすごし続けて、人生のプラスになるのか。そうした心配が、コロナ禍で抑え切れなくなったのかもしれない。
失われた視察の機会
育成に定評のある桐蔭横浜大も、今年は新入生の獲得が例年の1割ほどに激減。視察の機会が失われた影響だそうだ 【中島大輔】
「春の大会がなかったし、高校に視察へ出向くこともできず、非常に困りました」
神奈川大学リーグに所属し、2012年秋の明治神宮大会で大学日本一に輝いた桐蔭横浜大学の齊藤博久監督はそう吐露した。例年、約30人の新入部員を迎える桐蔭横浜大では、自ら声をかけて6〜7割の選手を獲得するが、今年は1割ほどに激減。視察の機会が失われた影響だ。
そこで入部を志望する約70人の高校生を対象に6月末から練習会を実施し、37人が合格した。例年より新入部員が増える見込みなのは、コロナの影響で進学を断念する一般学生も少なくないと予想され、大学と協議して野球部員を増やすことにした。それだけの人数を抱えれば、チーム力を維持できると齊藤監督は考えている。
「正直、東京六大学や東都リーグに行くような連中は、うちには来ません。言葉は悪いけど、1.5流の選手をいかに戦える集団に育てていくか。そういった意味では、例年と遜色ないと思います」
桐蔭横浜大は主体的に取り組ませる育成に定評があり、入学時は1.5流の選手たちをこれまでも順調に伸ばしてきた。今年は長距離砲の渡部健人がドラフトの指名待ちで、7選手がホンダやJR東北など社会人野球チームへの入社を決めている。