プロ野球ドラフト会議まであとわずか 異例の2020年、「進路」に見て取れる変化
選手に求められるキャリアデザイン力
プロ志望の高校生を対象に行われた合同練習会。プロスカウト、大学・社会人の関係者は視察ができず、苦労した 【写真は共同】
「例年は慶應の合否が出るまで、スポーツ推薦の枠を空けて待つ大学があったと聞いています。でも今年の場合、うちの入試が終わる頃には、他大学のスポーツ推薦の枠は埋まっているようです。例年なら、受験の準備のキツさで進路変更するという選択肢があったけれど、今年は『受ける以上は浪人も覚悟しないと』という傾向が、いつもより強くなったようです」
ちなみにAO入試では高校野球の実績も判断材料になるが、過去の栄光だけで合否が決まるわけではない。堀井監督が続ける。
「AO入試は、『あなたは高校時代に何をしてきて、大学でどう勉強するのか。それを将来にどうやってつなげるのか』という試験です。例えば『将来160キロを投げるために慶應でいろんなデータをとって勉強します。自分の夢は、大リーガーに負けないようなボールを第一人者として投げることです』という目標がストーリーとしてあれば、高校までの野球の実績はすごく大きい。でも、『自分は高校で何本ホームランを打ちました。慶應で野球をやりたいです』というのでは、教授は『君は慶應に何をしに来るのかな?』となるんです」
見極められるのは、野球を通じて何を身につけ、今後何を成し遂げていくのかだ。そうした道が明確に描け、かつ学業的にも一定レベルに達して初めて合格できる。
逆に言えば、選ばれし者だけが突破できる難関だからこそ、入学後に得られる価値も大きい。そうして今年のドラフト1位候補に成り上がったのが、最速155キロ右腕投手の木澤尚文だ。甲子園出場歴のない木澤が大学4年間でなぜ急成長できたのか、10月12日掲載予定の連載で詳述する。
大学で主体的にトレーニングできれば、その効果は計り知れない。慶應大・木澤はその一例だろう 【中島大輔】
「選手の採用は、2、3年後を見据えながら動くものです。大学生について言えば、どのチームも声かけは3年生までに終わっています。それが今のスタンダード。その中でどう結論を出していくのかは、3年の秋、冬から4年の春にかけてです」
落合監督の言葉を裏返せば、コロナの影響は来年以降に出ると予想される。
「今年に関しては、去年動けていた分があったから良かったんです。今年動けなかった影響は、2、3年後に出てくると思いますね。選手の採用は、会社の業績にもリンクしてくる話です。コロナの影響で、今の大学3年生はどこの企業も厳しめになってくると思います」
ホンダや社会人日本代表の監督を歴任し、現在は東海大を率いる安藤強監督も同意見だった。新型コロナウイルスの終息はなかなか見通せず、その影響は今後数年間続くと考えられる。
そうした先行きが読みにくい“Withコロナ”時代、選手たちに求められるのは自身のキャリアをデザインしていく力だ。どうすれば自分の潜在能力を開花させ、成長につなげることができるか。
コロナ禍で顕著になった変化
本稿の冒頭で紹介したスカウトの言葉は、近年の野球界で起こり始め、コロナ禍で顕著になった変化をまさに表しているように感じる。セイバーメトリクスやテクノロジーの導入、それらに伴う野球のビッグデータ化、そしてスポーツ科学の進化により、近年、選手の成長プロセスは明らかに変わってきた。練習量が盲目的に賛美される時代は終わり、合理性の追求者が“勝利”を収めるようになってきたのだ。
本連載で紹介した広島県の進学校、武田高校の取り組みが一例として挙げられる。平日の放課後は50分の練習時間に限られるなか、最新トレーニングやテクノロジーを取り入れながら選手たちは伸びている。今夏は広島大会でベスト4に進出した。
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本日から掲載する当連載の「進路」編では、野球界で新たな選択肢になってきた道や、近年実績を残しているチームの取り組みを紹介していく。また、個性豊かな3人のドラフト候補が下した決断や、成長の裏側にある要因、そして遠回りを強いられた“元目玉候補”を取り上げる。
いずれの姿にも、今後、野球界がさらなる発展を果たすためのヒントが隠されているはずだ。