連載:【野球小説】栄冠は監督にも輝いてほしい

【野球小説】栄冠は監督にも輝いてほしい 最終回 春、また新たな選手がやってくる

谷上史朗
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 高校野球のリアルな現場を描く連載小説。栄冠は監督にも輝くのか!?

写真はイメージです。本文とは関係ありません 【写真:アフロ】

「こんなにしっかりオフの時期に練習をやりきったのは久しぶりですよ。シーズンが楽しみになってきました」

 3月となり、初めての火曜日の放課後。ネット裏のプレハブ小屋で練習着に着替えていたところ、部長の有本公寿が言った何気ない一言に、大阪天栄・野球部監督の佐伯大輔はこの1年を思い返していた。

 1年前の春。始業式の朝に突然、理事長の南田泰から監督就任の命を受けた。指導者になる夢を持って教員になったものの、まずはコーチから高校野球の世界になじみ、いずれは……という青写真を描いていた。ところが、その人生プランは一気に早まった。しかも、右も左もわからない中、近年低迷中とはいえ、野球どころ大阪の私学、それも一昔前には甲子園常連校だった大阪天栄の監督を任されたのだ。

 ただ、監督生活をスタートさせた佐伯を悩ませたのは、重圧より先に人間関係だった。次期監督に欲を持っていた有本とは、初めの1カ月余り、必要最低限の会話しかしなかった。いや、してくれなかった。有本の指導を受けてきた3年生も心を開いてくれず、佐伯は野球以前のところで大きな壁にぶつかった。

 しかし、夏が近づく中で、有本も3年生も、野球部にとって何がいいのか、自分たちはどうすべきか、と考えたのだろう。様々な思い、欲をいったん抑え、自分の役割を果たすようになり、空気は一転。チームはまとまっていった。今ではすっかり有本は新卒監督を支える右腕として力を発揮している。

<あのスタートから1年でよくここまで……>

 佐伯は感慨にふけりそうになりながら、着替えを終えると、横の有本に宣言するようにつぶやいた。
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著者プロフィール

1969年生まれ、大阪府出身。高校時代を長崎で過ごした元球児。イベント会社勤務を経て30歳でライターに。『野球太郎』『ホームラン』(以上、廣済堂出版)「web Sportiva」(集英社)などに寄稿。著書に『マー君と7つの白球物語』(ぱる出版)、『崖っぷちからの甲子園—大阪偕成高の熱血ボスと個性派球児の格闘の日々』(ベースボールマガジン社)『一徹 智辯和歌山 高嶋仁 甲子園最多勝監督の葛藤と決断』(インプレス)。共著に『異能の球人』(日刊スポーツ出版社)ほか多数。

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