2年4カ月ぶり無得点の森保ジャパンは本当に強いのか? 超守備的サウジの思惑から読み解く現在地
予想外の5バックを攻略できず…
3月26日にFIFAワールドカップ26(W杯)アジア最終予選の第8戦が行われ、日本代表とサウジアラビア代表は0-0で引き分けた。森保ジャパンが無得点に終わった試合は、2022年のカタールW杯グループステージ第2戦・コスタリカ戦が最後。90分間で一度もゴールネットを揺らせなかったのは約2年4カ月ぶりのことだった。
日本側はメンバー表を確認したうえで、ウォーミングアップ中にサウジアラビアが普段の4-2-3-1ではなく5-4-1で戦おうとしていることを把握。もともと4バックを想定して準備を進めてきたが、直前にゲームプランを微調整して試合開始を迎えた。
5日前のバーレーン戦から先発メンバー6人を入れ替えてサウジアラビアとの一戦に臨んだ日本は、もともと攻撃時に4バック、守備時に3バック(ないし5バック)となる可変システムを仕込んでいたようだった。具体的には守備時に左ウイングバックとなる中村敬斗が攻撃時には左ウイングとして振る舞い、伊藤洋輝が3バックの左から左サイドバックにスライドする左右非対称の陣形を準備していた。
ところが蓋を開けてみるとサウジアラビアが予想よりも守備的な姿勢を見せたため、右サイドバックの菅原由勢が「相手があまりにも引いてきていたので、僕があそこの位置に落ちる必要が全くなかった」と、常に高い位置を取るように。開始早々から可変を控えめにし、3-2-4-1とも言える前がかりな配置でサウジアラビアを押し込んでいく。
両ウイングバックがサイドで幅と高さを確保する分、やや内側でプレーできた久保建英と鎌田大地は積極的に下がり目でビルドアップにも関与。彼らはマークを剥がしながら相手のボランチやセンターバックを引き出して、何とかスペースを作ろうと試行錯誤を重ねた。
そうした努力の甲斐もあって日本のボール支配率は試合を通じて70%以上で推移し、ほぼハーフコートゲームと言える展開になった。ただ、チャンスを作りながらゴールだけが遠い。サウジアラビアの術中にハマり、徐々にスローテンポな展開にもなって攻撃は停滞していった。
日本の選手たちはもれなく「サウジアラビアがこんなに引いてくるのは初めて」と口をそろえる。鎌田が「サウジアラビアくらいの(強い)国がこれだけ引いてくるとは思ってもいなかった」と驚き、伊東純也は「サウジアラビアとやるときはどちらかと言ったらボール支配率で負けているくらいな試合が多いイメージでした」と語ったが、筆者の印象も彼らと全く同じだ。
例えば2019年のAFCアジアカップ・ラウンド16では最終的に日本が1-0で勝利したものの、ボール支配率ではスペイン人のピッツィ監督率いるサウジアラビアに76%と大きく上回られた。もちろん近年は日本がより長い時間ボールを握っていた試合もあるが、それでも伝統的にポゼッション志向の強いサウジアラビアに対しての警戒感は常にあった。
サウジが引き分けで「満足」なワケ
日本戦開始前の時点で、グループCで3位のサウジアラビアとW杯自動出場圏内の2位につけるオーストラリアとの勝ち点差はわずかに1ポイント。もし同時間帯に行われる試合でオーストラリアが中国に勝利しても、日本に引き分けて1ポイントを積むことができれば勝ち点差は3までしか広がらない。
6月シリーズでは1戦目でオーストラリアが日本と対戦するため、同じタイミングでサウジアラビアがバーレーンに勝利すれば勝ち点差はゼロになる可能性がある。さらに続くアジア最終予選のラストマッチではサウジアラビアのホームでオーストラリアとの直接対決が組まれており、そこで勝てば順位はひっくり返る。
W杯自動出場権獲得への道筋を残すため、何としても日本に負けるわけにはいかない。さまざまな困難が予想されるアウェイの地では過剰なリスクを避け、守備に軸足を置いた5バックを採用してゴールを死守するのが最善策だった。なおかつスコアレスドローこそが得点力不足に悩むサウジアラビアにとって最低限でありながら最高の結果でもあったと言える。
試合後、ミックスゾーンで言葉を交わした日刊紙『アル=シャルク・アル=アウサト』のナワフ・アル・アキール記者は「内容はともかく、結果には満足している。サウジアラビアにとっては1ポイントでも勝ち点を手にすることが何より重要だったんだから」と話していた。彼に言わせれば、5バックの採用も「驚きではあるけど、自然なこと」だ。
サウジアラビアを率いるエルヴェ・ルナール監督も「我々にとっていい結果が得られました」と満足げだった。前日の記者会見では「予選の過程がどうであれ、W杯出場が決まれば、それまでのことはみんな忘れます」と世界への切符をつかむために手段を選ばない考えを示していただけに、その時点で5バックを予想しておくべきだったかもしれない。これまでのチームづくりの方向性を無視してでも勝ち点をもぎ取るという意志の強さがゲームプランにそのまま反映されていた。
「日本で試合をする場合には、それほどオープンな試合をすることはできません。やはり相手は非常に優れたチームなので、注意深く臨まなければなりません。攻撃ではスペースの攻略がなかなかうまくいかなかったですが、守備に関してはプラン通りにいったと思います」
そう語ったフランス人指揮官は、試合中も全て守備の継続性を前提に采配を振るっていた。「中盤でのデュエル、特に右サイドが機能していなかった」と中村との1対1で後手を踏んでいた右サイドバックのムハンナド・アル・シャンキティは前半終了とともに交代させ、後半開始からアリ・マジュラシを投入。ハーフタイムのロッカールームでは選手たちに「とにかくファイトしろ! 戦え!」と指示を出し、空中戦やセカンドボールへの反応、ゴール前に侵入してくる相手FWに最後まで食らいついていくことの重要性を口酸っぱく伝えたという。