連載:【野球小説】栄冠は監督にも輝いてほしい

【野球小説】栄冠は監督にも輝いてほしい 第8回 オフシーズンの落とし穴

谷上史朗
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 高校野球のリアルな現場を描く連載小説。栄冠は監督にも輝くのか!?

写真はイメージです。本文とは関係ありません 【写真:アフロ】

 12月から3月上旬、冬場の高校野球界は、「アウト・オブ・シーズン」。俗に言う「オフシーズン」となり、雪で試合どころか外での活動が難しい寒冷地と、冬でも温暖な地域で条件に差が出ないよう、他校との練習試合も禁止になる。

 近年は全国的に温暖化が進み、冬場の練習風景も地区ごとに様変わりしているとは言われるが、それでもフィジカルトレーニングの比率が高くなるのはおそらく共通。冬場の練習は、選手たちにとって体的にはきついが、試合が迫る緊張感やメンバー争いの重圧はやや薄れるため、シーズン中に比べ練習中の空気も幾分緩やかになる。しかし、その空気が時として生活面の乱れなどにつながりやすくなるのが高校生でもある。

 11月末の日曜日にシーズン最後の練習試合を終えた翌日。部長の有本公寿が練習後の円陣で選手たちに“オフ”の時期の心構えについて話をした。

「これからはトレーニング中心の練習になっていくけど、オフという感覚で気が緩まないように。12月、1月は世間も浮かれた空気になりやすい。野球部員としてしっかり自覚を持ってルールを破るようなことは絶対にしないこと。1人の軽はずみな行動が野球部員全員に迷惑をかけることにもなるんやぞ、わかったな!」

 話し終えると有本は毎年作っているという、禁止事項や注意事項を書いたプリントを選手たちに配った。入学時にも似たプリントを配るが、飲酒、喫煙、SNSへの投稿の禁止、イベントに参加する際の注意点などが細かく記されている。都立の進学校で過ごした現役時代も含め、グラウンド外のトラブルに直面したことのない監督の佐伯大輔にとっては、このあたりの心配は正直ピンとこなかった。しかし、監督室に戻り、有本と話していると少しずつ、理解できるようになっていった。
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著者プロフィール

1969年生まれ、大阪府出身。高校時代を長崎で過ごした元球児。イベント会社勤務を経て30歳でライターに。『野球太郎』『ホームラン』(以上、廣済堂出版)「web Sportiva」(集英社)などに寄稿。著書に『マー君と7つの白球物語』(ぱる出版)、『崖っぷちからの甲子園—大阪偕成高の熱血ボスと個性派球児の格闘の日々』(ベースボールマガジン社)『一徹 智辯和歌山 高嶋仁 甲子園最多勝監督の葛藤と決断』(インプレス)。共著に『異能の球人』(日刊スポーツ出版社)ほか多数。

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