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英国人はフットボールを語りたくて仕方がない 噂の域を出ないゴシップ記事の存在意義

森昌利

タブロイド紙を食い入るように読む英国のファン。信憑性が低い記事も多いが、それをネタに語り合うのもこの国ではフットボール文化の一部だ 【写真:ロイター/アフロ】

 いわゆるタブロイド紙をはじめ、英メディアには選手の移籍や監督の進退にかかわる噂話の類があふれている。フットボールとともに生きる英国のファンは、そうした記事をネタに仲間とフットボールを熱く語り合う。書かれている内容の真偽はそれほど重要ではない。彼らはただただ、フットボールの話をしたいだけなのだ。

「現地メディア〇〇によると」というおなじみの記事は…

 2001-02シーズンにスポーツ新聞と通信員契約をかわしてから、ほぼ毎日と言っていいほどやり続けている日課がある。それが“新聞読み”だ。実はこれ、筆者の重要な飯の種のひとつなのだ。

 大まかに仕事の流れを紹介すると、まず現地新聞やネットメディアのフットボールニュースを毎朝チェックする。そこからめぼしい記事を見つけて、その見出しと簡単な内容を新聞社のデスクに伝える。しばらくすると先方から「これとこれを」という指示が返ってくる。そして筆者がその指定された記事を翻訳して送る。「現地メディアの〇〇によると」という記事はこうしてできあがる。フットボール・ファンの皆様にはおなじみのものだと思う。

 こうした形でこれまでにいったいどのくらいの記事を送ってきたことだろう。

 今、試しに現在使用しているパソコンに残っている原稿数をチェックしてみた。日付を見ると、2021年4月14日に今のパソコンに買い替えていた。そしてなんと1,316本の記事を送っていた。この間、3年7カ月。日数にするとだいたい1,300日であるから、本当にほぼ毎日と言っていいレベルだ。

 通信員になるまでは実感できるわけもなかったが、日刊紙というものはその名の通り、毎日紙面を作るわけである。もちろん休刊日もあるが、それは元日を含めて年に片手で数えるほど。しかも近年はネット配信もするので、実質その休刊日もなくなっている。

 冒頭で記したように、2001年の夏からこの仕事を始めている。自分が23年以上の長きにわたって、こうして何かひとつのことをやり続けられるとは思わなかった。自画自賛に聞こえるかもしれないが、本当にたいしたものだと思う。

 というわけで、稲本潤一、西澤明訓を皮切りに、日本人選手がイングランドに移籍した初年度からこうした記事を送り始めている筆者は、これはかなり自信を持って言えるが、きっとフットボール翻訳記事の最多執筆者である――はずだ。これは本当、嘘ではない。

ゴシップ記事の98%は実現しない

BBCウェブサイトのフットボール・ゴシップ欄。英国ではさまざまなメディアが、噂の域を出ないこうした記事を配信・掲載している 【提供:YOJI-GEN】

 もちろん重要なニュースも含まれるが、それは数えるほどで、筆者が送った記事のほとんどがいわゆるゴシップ記事である。

 そして、これまで大量にこうした記事を生み出しておきながらこういうことを言うのは少し気が引けるし、また体感でものを言ってしまって申し訳ないが、筆者の感覚だと、ゴシップ記事の98%くらいが噂の域を出ず、実現しない。

 それを「嘘」と呼ぶと、こうした記事自体の存在価値を全否定してしまうので、避けたいが、そう言われても仕方ないところはある。

 しかしそれがゴシップ、すなわち噂話なのである。

 きっとその源は現地記者が代理人やクラブ内ソースと交わす他愛もない雑談なのだろうが、こうしたゴシップ記事は連日、それも大量に現地の数ある英国メディアを賑わせる。

 試しにBBCの「フットボール・ゴシップ欄」を開いてみる。11月15日付(現地時間、以下同)のトップニュースは、リバプールのイングランド代表DFトレント・アレクサンダー=アーノルドが「リバプールからの契約延長オファーを拒否し続けている」というニュースだった。そしてお決まりの、来夏のレアル・マドリー移籍を示唆。これはスペイン・メディアの報道だった。

 続く16日付のゴシップ欄のトップは、ペップ・グアルディオラがマンチェスター・シティと1年の契約延長に「応じる構えを見せている」という英フットボール・サイトの記事。まあ正直、これまでに何度、ゴシップの世界でアレクサンダー=アーノルドのR・マドリー移籍が確定したかしれないし、ペップの去就も毎週のように残留と勇退の間で揺れ続けている。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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