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三笘の満面の笑み、ペップの和やかな笑顔 勝者と敗者が見せた意外な表情

森昌利

4連覇中の王者を相手に堂々戦い、逆転勝利に貢献した三笘。彼にとっては初めて経験するマンチェスター・C戦の勝利だ 【写真:REX/アフロ】

 三笘薫のブライトンが、11月9日(現地時間、以下同)のプレミアリーグでマンチェスター・シティを下した。前半に先制点を許したものの、終盤に立て続けにゴールを奪って2-1の逆転勝ち。リーグ5連覇を目指す王者を相手に会心の勝利を収め、いつもはクールな三笘も飛びきりの笑顔を見せたが、一方で敗れた敵将ジョゼップ・グアルディオラも試合後に穏やかな笑みを浮かべていた。

クロップと同じくブライトン戦の敗北がペップ終焉の始まり?

 近年のプレミアリーグは、昨季限りでリバプール監督を勇退したユルゲン・クロップと、マンチェスター・シティを常勝チームにしたペップ・グアルディオラの対決を中心に回っていた。しかしクロップが去って2大監督の構図が崩れると、群雄割拠の新たな時代に突入した感がある。

 これは“今思えば”という話になる。

 突如として勇退を決めた印象のクロップではあるが、彼がリバプールの監督を「これ以上続けられない」と感じ始めた試合は、2023年1月14日にアウェーで行われたブライトン戦ではなかったかと思う。

 この試合直後の監督会見で見たクロップの様子はそれほど衝撃的だった。それまでのクロップはどんな敗戦の後でも胸を張っていた。たとえそれが悲痛にまみれた欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝の敗戦であっても、顔を上げて、嘆く選手やサポーターを1人で慰めたものだ。

 ところがブライトンに0-3で完敗した直後の大きなドイツ人は憔悴(しょうすい)しきっていた。こんなに小さくなるものかというほど、声が小さく、本当に“疲れ果ててしまっている”という様子だった。会見の後、顔見知りの英国人記者が、「今季いっぱいで辞めるかもしれないな」と言った言葉をよく覚えている。

 この前シーズン、クロップは奇跡の4冠を追って、国内カップのリーグ杯とFA杯の2冠を達成した。しかしプレミアリーグでは2018-19シーズンに続いてまたしても1ポイント差でマンチェスター・Cの後塵を拝し、欧州CL決勝では試合直前にリバプール・サポーターが不当に扱われた揚げ句、キックオフが遅れるという事態が発生して、レアル・マドリーに0-1で惜敗した。すると結局は2冠を勝ち取ったというより、2匹の大魚を逃したというシーズンになってしまった。

 そんなギリギリの戦いに敗れた直後のシーズンだったこともあるだろう。このブライトン戦後、クロップのリバプールはあの時の監督の憔悴を反映するかのようにじりじりと後退し、欧州CL出場権を逃してシーズンを終えた。

 ひょっとしたら、ライバルのクロップと同じく、奇しくもブライトンとのアウェー戦が、ペップ・グアルディオラの終焉の始まりになったのかもしれない。

4連敗の影を吹き飛ばすような先制弾だったが…

ハーランドがブライトン守備陣を蹴散らして先制点をゲット。まさに怪物のゴールだった 【Photo by Crystal Pix/MB Media/Getty Images】

 土曜日の3時キックオフは英国リーグ戦の伝統的な試合開始時間だが、11月9日土曜日のブライトン対マンチェスター・C戦は2時間半遅れの5時半に始まった。

 これも、昨季にイングランド史上初となる1部リーグ4連覇を達成した王者マンチェスター・Cの試合をテレビ中継したいがための配慮である。英国では土曜日午後3時キックオフの試合はテレビの生中継が認められていない。これはテレビ放映権料が微々たるものだった遠い過去に、生中継をすると観客動員の妨げになると考えられたことに起因している。そして英国人は今もその決まりをきっちりと守っている。

 この試合まで、王者マンチェスター・Cは、トットナムと当たった10月30日のリーグ杯4回戦から11月2日のボーンマス戦、5日のスポルティングCPとの欧州CLと、公式戦3連敗を記録していた。

 ブライトン戦で負ければ、グアルディオラ監督になってから初の公式戦4連敗となる。しかもこの試合は火曜日にポルトガルでのアウェー戦を戦った直後のリーグのアウェー戦。さらに言えば、ブライトンはマンチェスターからボーンマス、サウサンプトンに次いで遠い。

 それに今季のブライトンは好調だ。前節のリバプール戦も、アウェーでの戦いながら前半は完全に試合を支配した。後半、アルネ・スロット監督が立て続けに交代のカードを切り、運動量を上げたリバプールが逆転勝利に成功したが、この試合はリバプールのホーム。敵地で戦うマンチェスター・Cにとっては非常に厄介な相手だった。王者に4連敗の影が忍び寄っていたのである。

 ところが前半23分、アーリング・ハーランドが4連敗の予感を吹っ飛ばすような先制点を決めた。

 マテオ・コバチッチのスルーパスを受けた時、ハーランドは右にイゴール、左にヤン・ポール・ファン・ヘッケと、ブライトンのセンターバックコンビに挟まれていた。しかしその2人を振り切って左足を一閃。このシュートはノルウェー代表FWの足元に飛び込んだGKバルト・フェルブルッヘンにセーブされたが、195センチFWは金髪を振り乱しながらそのまま突進。後方からスライディングタックルで食らいついてきたファン・ヘッケの左足より一瞬早くこぼれ球に右足を当てて、先制点を奪った。

 ゴールに向かうその推進力。挟んでくる2人のセンターバックと前から距離を詰めてきたGKの3人をものともしない、というより蹴散らしたという印象のゴール。まさに怪物のゴールだった。

 しかしブライトンの31歳指揮官、ファビアン・ヒュルツェラー監督は、前週にリバプールにやられたお返しを4連覇中の王者を相手にしてのけた。

 後半に投入した交代選手が目覚ましい働きをして、なんとマンチェスター・Cを相手に2-1での逆転勝利という結果を収めたのである。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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