【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

“怒り”をあらわにするようになった板倉滉 あのアジアカップ以降、自らに課すテーマとは?

林遼平

ボルシアMGのキャプテングループから外れた板倉だが、むしろこれまで以上にピッチ上でキャプテンシーを発揮している。チームメイトを叱責する場面も増えた 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

 堂安律、板倉滉、伊藤洋輝ら日本代表の主力クラスを筆頭に、2024-25シーズンも多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。第3回の主人公は、今や日本代表の最終ラインの要となった板倉滉だ。普段は温厚な男が、入団3年目のボルシアMGで“怒り”をあらわにするようになった理由とは――。

過熱するPSV行きの報道に疑問を

 今夏の移籍市場、ボルシア・メンヘングラッドバッハ(以下ボルシアMG)を最後まで騒がせていたのは板倉滉だった。オランダの強豪PSVアイントホーフェンが獲得オファーを出したことで、多くのメディアが板倉の動向を注視。毎日のようにさまざまな情報が飛び交っていた。

 そのなかで気になっていたのが、板倉がキャプテングループを外れたという話だ。ジェラルド・セオアネ監督が、「選考はピッチ上でのパフォーマンスだけでなく、チームに求められるキャラクターを重視している。前線で走る選手、責任感がある選手、チームに尽くし、チームメイトにポジティブな影響を与える選手」と説明したことで、現地メディアが「指揮官は板倉らがこれらの資質を満たしていないと見ている」と伝えるに至った。

 以降、“板倉のPSV行きの可能性が高まっている”という報道が増えていくのだが、そこに疑問を持っていた。

 今シーズンが始まり、板倉は明らかにピッチ上でキャプテンシーを発揮していた。最終ラインで周りを鼓舞することはもちろん、積極的にコミュニケーションを取りながら、どうにかチームを良い方向に持っていこうとする姿が見られた。キャプテングループから除外された割には、誰よりもチームの中心となっている印象を受けたのだ。

 結局、板倉はボルシアMGに残留し、移籍の噂も沈静化していくのだが、そのことをふと思い出した試合がある。

普段は温厚な男がピッチ上で激怒

早々と数的優位に立ちながら、フランクフルトに敗れたDFBカップ2回戦。怒りと悔しさで試合終了後はなかなかピッチから立ち上がれなかった 【Photo by Thomas Frey/picture alliance via Getty Images】

 10月30日(現地時間、以下同)に行われたDFBカップ2回戦のフランクフルト戦で、普段は温厚な男がピッチ上で激怒していた。それも敵ではなく味方に。これまでも板倉が周りを鼓舞する姿勢はよく見られたが、ここまで気持ちをあらわにして怒るのは珍しかった。

 昔から板倉は仲間思いの男だと思っている。ピッチ内でチームメイトが削られたら誰よりも早く相手に詰め寄るし、直後、その選手に対して球際でガツンと厳しく行くこともある。うまくいっていない状況では周りに対して頭ごなしに怒るのではなく、円滑に進むようコミュニケーションを取ろうとする。もちろん、相手のタックルに対して怒りをあらわにすることもあれば、ときには苛立ちを隠せない試合もあるが、仲間にはガミガミと言わないのが板倉だった。

 ただ、この試合ではそんな彼が、何度もチームメイトを叱咤(しった)していた。前半15分でフランクフルトが退場者を出して数的優位を得たにも関わらず、チームは苦戦を強いられる。相手がブロックを作って守り、奪ってからの素早いカウンターに狙いを定めるなか、ボルシアMGはイージーなミスからピンチを招くシーンが散見された。加えて、中盤の選手のプレスバックが遅く、カウンターを浴びた際にはほとんどの場面でDFがマンツーマンのような形での対応を強いられていた。

 前半アディショナルタイムには敵陣でボールを奪われ、やはりカウンターを仕掛けられると、DF2枚に対して3人のアタッカーに攻め込まれて先制点を献上する。

「なんで1人多いはずなのに、こんなにカウンターを受けるのか」

 板倉は自分を含めたチームの状況に激怒していた。

 数的優位にあぐらをかいて、プレスバックやスペースケアを怠る選手が多かったことにフラストレーションを溜め込み、「勝利のためにできることをやろうよ」と周囲に言い続けた。先制点を献上する前の場面でも珍しく怒声を上げるシーンがあり、チームに対する思いが伝わってきた。

「途中から、“本当にオレらは1人多いのか?”みたいなサッカーをしていた。なんでこうなっちゃうのかなと。ああやってズルズルと間延びして、なおかつ球際で緩くなって、スプリントバックも遅くなると厳しい。でも、そこからどうにか修正しなくてはいけないし、自分もチームを立て直さなくてはいけないと感じながらやっていました」

 果たして、後半開始直後の47分に板倉が見事なボレーシュートを沈めて一度は試合を振り出しに戻したが、70分にゴール前の混戦から押し込まれて勝ち越しを許し、1-2で敗戦。ボルシアMGはDFBカップからの早期敗退を余儀なくされてしまった。

 試合終了後、ピッチに座り込んだ板倉は、仲間が手を貸して引き起こそうとするもそれを拒否。誰よりも悔しそうな表情を浮かべ、サポーターへの挨拶の際にも一番後ろを歩いていたのが印象的だった。

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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