現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

後半アディショナルタイムの天国と地獄 三笘が頭をかきむしって悔しがった悪夢のドロー

森昌利

三笘は前半だけで3本のシュートを放つなど存在感。だがブライトンは2点のリードを守り切れず、最下位ウルバーハンプトンを相手に勝ち点を取りこぼした 【写真:REX/アフロ】

 相性の良い相手であり、しかも最下位に沈むウルバーハンプトンをホームに迎えた10月26日(現地時間、以下同)のプレミアリーグ第9節。ブライトンは2点をリードしながら、後半43分、そしてその5分後に立て続けにゴールを許し、試合はまさかの引き分けに終わった。とりわけ敵の同点弾が生まれた場面は、天国から一気に地獄へ突き落とされたかのようで、すでにベンチに下がっていた三笘薫は頭をかきむしって悔しがった。

キックオフ直前にサポーターの間に緊張が走った

 前々回のコラムでマンチェスター・ユナイテッドのエリック・テン・ハグ監督の去就問題について記したが、電話取材した旧知のマーク・オグデン記者の予言通り、第9節ウェストハム戦の敗北により解任となった。

 解任報道があった翌日の10月29日には、早くもマンチェスター・Uは日本代表MF守田秀正が所属するスポルティングCPの39歳指揮官、ルベン・アモリムと交渉を始めたと報じられている。

 子ども時代からマンチェスター・Uをサポートする英実業家のジム・ラトクリフ氏が共同オーナーとなって、実質初めて新しい監督を招聘することになるが、方向性は間違っていないと思う。

 以前に有力候補として名前が挙がったトーマス・トゥヘルやマウリシオ・ポチェティーノにはチェルシーの色がついているし、イングランド代表前監督ガレス・サウスゲイトの守備的なアプローチはマンチェスター・Uに合わない。

 ともかくじっくりと腰を落ち着けて、若くて才能ある監督に全権を与え、少なくとも3年はチームを任せる覚悟が肝要だと思う。

 というわけで今週の本題に入る。

 21世紀に入って24年が経ち、給料が現金支給されることがなくなって久しい昨今、こうした表現はもう通用しないのかもしれないが、10月26日に本拠地ファルマー・スタジアム(アメックス・スタジアム)でウルバーハンプトン戦を観戦したブライトン・サポーターは“給料袋を丸ごとすられた気分”になったはずだ。

 試合前の現場は極めて楽観的だった。なぜなら相手はウルバーハンプトン。理由はウルバーハンプトンが最下位で苦しんでいることだけではない。相性が抜群なのだ。

 1年半前のホームでの対戦は6-0の大勝。これはプレミアリーグにおけるブライトンの最多得点の勝利であり、ウルバーハンプトンにとっては最多失点の負け。それに去年の8月19日に行われたアウェー戦では、我らが日本代表MF三笘薫が左サイドから5人抜きのゴールを決めて燦然と輝き、4-1勝利を飾った。そして今季の初対決、9月18日に行われたホームでのリーグ杯でもブライトンが3-2で勝利を飾っていた。

 しかしキックオフ直前にブライトン・サポーターに緊張が走った。それは先発と発表されていた主将のルイス・ダンクが両チームの整列から外れていたからだ。

 ダンクといえば、ブライトン生まれのブライトン育ちで、ブライトン一筋の文字通りの生え抜き選手だ。2016-17シーズンにチャンピオンシップ(英2部リーグ)2位となったプレミアリーグ昇格を支え、いまや厳しいイングランドのトップリーグの中堅に成長した地元クラブに選手生命のすべてを捧げている。

 そんな32歳DFは現在のプレミアリーグ全体を見渡しても「主将のなかの主将」と言える存在だ。イングランド代表にも招集されたセンターバックとしてのクオリティもさることながら、最終ラインで味方を叱咤激励するリーダーシップは強烈の一言である。

 そのダンクが試合直前のウォーミングアップで足の筋肉を負傷した。そこで急遽、主将のアームバンドは33歳となっても衰えを全く見せないベテランFWダニー・ウェルベックが巻いた。そして試合が開始されると、ホームチームが完全に試合を支配して、ダンクの欠場が気にならなくなった。

フットボールの怖さと残酷さを見せつけられた同点弾

ブライトンにとっては完全な勝ちゲームだった。後半40分に待望の追加点が生まれた時には、勝利は揺るぎないものと思われたが… 【Photo by Mike Hewitt/Getty Images】

 前半は完全にブライトンが優勢だった。ポゼッション60.6%とボールを支配し、ウルバーハンプトンの3本に対して13本のシュートを浴びせた。三笘も前半22分、32分、43分と3本のシュートを放って、相性の良いチームを相手に久々のゴールを期待させた。

 しかも代理主将となったウェルベックが前半終了間際の45分、スルーパスに鋭く反応して相手ペナルティエリア内に侵入し、右足を巻くように振り抜いて対角線上にボールを蹴り込み、先制点を奪取。攻めまくりながら0-0が続いた嫌な均衡を絶好の時間帯に破り、南イングランドの浜辺街が勝利の予感で湧いた。

 後半は1点を守る意識が働き、前にかける人数が減って、ウルバーハンプトンにボールを支配された。しかしブライトンはしぶとく守って、同点弾を許さない。そして後半40分、ウェルベックに代わってピッチに送り出されていたエバン・ファーガソンが待望の2点目を奪取した。この20歳アイルランド代表FWの今季初ゴールで、ブライトン・サポーターは勝利を完全に確信した。

 そんなホームサポーターの歓喜に反比例するかのように、イングランド中部最大の都市であるバーミンガムの北から南の果てまでやってきたウルバーハンプトンのサポーターは、ファーガソンの2点目が決まると観念したかのように、アウェー席から退却し始めた。

 ところが本当のドラマはこの後に起こった。

 ウルバーハンプトンがファーガソンの2点目のわずか3分後となる後半43分、コーナーキックからのスクランブルで1点差に詰め寄ると、確かにブライトンが一瞬浮き足だった。

 左ウイングバックのラヤン・アイト=ヌーリがこぼれ球に左足を合わせてゴールが生まれたが、敵味方の選手が入り乱れ、ブライトンGKバルト・フェルブルッヘンを含めると少なくとも5人の選手がアイト=ヌーリの前にいた。そんなゴール前のごちゃついていた状況をあざ笑うかのようにボールがゴールに吸い込まれてしまうと、「なぜだ!?」「ついてない」という嫌な感覚が選手とサポーターのなかで込み上げた。

 しかし試合は大詰めも大詰め。今季のブライトンは三笘が試合後によく語るように、31歳ドイツ人のファビアン・ヒュルツェラー監督が細かく守備の指示を出し、守りに厚みが加わっている。攻撃の要である日本代表MFも左サイドバックとの守備連携を「意識させられている」と常々話している。

 ところが5分と表示された後半アディショナルタイムの3分目、まさに悪夢のような同点弾が飛び出した。

 ブライトン・サポーターにとっては、フットボールの怖さと残酷さをまざまざと見せつけられた同点弾だった。

 これぞ、まさに天国から地獄というゴールだった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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