日本代表から高校に異例の「1日限定逆レンタル」 福岡大大濠・渡邉伶音がU18リーグ制覇に貢献

大島和人

渡邉伶音は高校3年生にして、日本代表へ参加中 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 11月17日は「U18日清食品トップリーグ2024」の最終日で、男子の4試合が組まれていた。同リーグは全国のトップ8チームが参加する総当たりのリーグ戦で、9月から週末ごとに全国各地で開催されていた。夏の全国高校総体(インターハイ)、12月下旬に開催されるウインターカップとともに「三冠」に数えられる高校生年代のビッグタイトルだ。

 福岡大大濠は6勝1敗で、勝てば優勝の決まる藤枝明誠との大一番が組まれていた。しかしキーマンの渡邉伶音(れおん)はぶっつけ本番でチームに合流し、先発からも外れていた。渡邉は高校3年生だが、Bリーガーとともに11月下旬のFIBAアジアカップ2025予選2試合に向けた強化合宿へ招集されている。17日は代表合宿がオフで、しかも代表が滞在する施設と試合会場の代々木第二体育館は距離も近い。渡邉は日本代表から「逆レンタル」される形で、チームに合流していた。

 福岡大大濠は75-59で藤枝明誠を下し、大会初優勝を決めた。渡邉は18分07秒の出場にとどまったが、12得点7リバウンド3アシストを記録し、勝利にも貢献している。

代表からの「逆レンタル」で1日だけ合流

 渡邉は206センチのインサイドプレイヤーで、福岡大大濠ではセンター(5番)を任されている。ただし代表になるとパワーフォワード(4番)に上がる。彼はスキルが高く3ポイントシュートも得意な現代的ビッグマン。トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)のスタイルに「ハマりやすい」タイプでもある。

 ホーバスHCは13日の取材対応でこのようにコメントしていた。

「伶音はピック&ポップ(に期待している)。若いから、まだ強くはないけどシュートが打てる。リバウンドもまあまあできると思う」(※ピック&ポップ=相手にスクリーンをかけたあと、外のスペースに広がる動き)

 U18日清食品トップリーグが終わると、12月下旬にはウインターカップも控えている。渡邉の離脱は福岡大大濠にとっては痛手だったに違いない。それでも片峯聡太監督は教え子を快く代表に送り出した。

 渡邉は恩師のメッセージをこう振り返る。

「『選ばれる気持ちで本気で強くやってこい。ケガでウインターカップにもし出られなくなっても、別にそれは立派なこと』という言葉をいただきました』

 代表レベルに高校生が入るのだから、負傷のリスクは確かにある。ただそれは渡邉の未来を考えると「冒す価値のあるリスク」なのだろう。

 ただ片峯監督が渡邉に無理をさせたわけではない。藤枝明誠戦は第1クォーター途中からの起用で、プレータイムも制限付きだった。

 片峯監督は明かす。

「渡邉(の合流)は今日だけで、完全に助っ人選手でした。チームとはかみ合わないけど『それでいい』『自分の好きなようにやってこい』と伝えました。この1週間、代表で学んだことを出してみろと言ったら、スリーばかり打っていました。『それはそれでいいけど、ゲームの流れとか、相手がやられたら嫌なことを考えてやれよ』と言ったら、それをすぐ受け入れてやっていました」

代表と高校で変わる役割

高校ではインサイドでの貢献がより求められる 【写真提供:U18日清食品リーグ】

 藤枝明誠戦の渡邉は3Pシュートのアテンプト(試投)が7本で、成功は2本。特に前半は外に開いてシュートを打つ「代表仕様」のプレーが多かった。ただ監督が振り返るように、それでチームのバランスが崩れた部分もあった。

 しかし試合最終盤、勝負どころの渡邉はインサイドへのドライブを増やした。渡邉は3Pシュートに加えてボールを運ぶ、パスを捌くスキルも兼備している。渡邉は言う。

「高校では中にアタックしていく役割があります。(藤枝明誠のロード)プリンスがずっと下がって(ゴール下を固めて)いたので、そこへフィジカルに行っても相手の思うつぼではないかという迷いが少しありました。片峯先生からは第4クォーター前に『身体を全てぶつけるのでなく、フローターを打ったり、しっかり自分のやるべきことをやろう』と言われました」

 片峯監督は渡邉にドライブを求める背景をこう説明する。

「去年からずっと出ている選手が多いので(チームの)安定感はありますが、起爆剤のような存在が必要だと思っています。伶音がもっとドライブをするし、ファウルももらうし、3Pも打てる――。それが彼の将来のためにも、大濠が今年チャンピオンになるためにも必要だと思って、取り組んできました」

 福岡大大濠は全国の上位校の中でも珍しく留学生を起用しないチーム。藤枝明誠のボヌロードプリンス・チノンソは全国でもトップレベルのインサイドで、渡邉との1対1は試合の大きなカギだった。ウインターカップでも「対留学生」の攻守が渡邉の役割になる。

「中にどんどんアタックして、相手をファウルアウトさせるのも自分の役割です。それは以前から言われていますが、代表でシュートが入って自信になっている部分もあったので、そことの兼ね合いが難しかったです」(渡邉)

 ロードプリンスへの守備対応は、代表での経験も生きた部分だ。

「自分は4番なので、先輩の(井上)宗一郎さんとマッチアップが多いですけど、スイッチして(アレックス・)カークに付くこともあります。代表は本当に今まで感じたことのない力強さを感じています。今日は多少ファウルになってしまいましたけど、何とかひとりの力で守りきれたところもありました」(渡邉)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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