高校バスケ男子決勝は4年ぶりの「福岡対決」 福岡大大濠と福岡第一の注目選手、スタイルは?

大島和人

渡邉伶音(福岡大大濠/写真中央)は注目のビッグマン 【写真は共同】

 ウインターカップ2023 令和5年度第76回全国高等学校バスケットボール選手権大会は、29日の13時からいよいよ男子の決勝戦。決勝に進んだのは福岡大学附属大濠と福岡第一の両校で、決勝の「福岡対決」は4年ぶりだ。

 今大会の準々決勝は4試合すべてが一ケタ点差で決着している。昨年度の優勝校である開志国際(新潟)や今年夏の全国高校総体を制した日本航空(山梨)、夏の準優勝チームで瀬川琉久ら抜群の人材を擁していた東山(京都)はベスト4の壁に跳ね返された。両校はそのような混戦から抜け出し、準決勝は快勝で勝ち上がっている。

■福岡大学附属大濠の勝ち上がり
2回戦:71-52 vs.福島東稜
3回戦:91-62 vs.京都精華
準々決勝:81-77 vs.美濃加茂
準決勝:71-57 vs.土浦日大

 福岡大大濠は2021年の優勝校だが、昨年はベスト8で敗れている。ただ今年のチームは県大会の決勝リーグでライバル福岡第一を下し、福岡の「第1代表」となった。また1回戦はシードで、福岡第一より試合数が1つ少ない。

渡邉伶音は「飛び級」で世界大会に出場

 チームの大黒柱は206センチ・100キロの2年生センター・渡邉伶音。年上の世代とともにU19日本代表へ選出され、今夏のFIBA U19バスケットボールワールドカップ2023にも出場した注目株だ。

 渡邉は千葉ジェッツU15時代からシュート力を兼備していたが、高校入学後はフットワークのレベルも上がり、より万能なビッグマンに進化している。守備で留学生のビッグマンと渡り合いつつ、オフェンスも受け身でなく自ら仕掛ける場面が増えた。チーム構成的に3ポイント(3P)シュートを打つ場面は減っているが、それでも準決勝は22点、準々決勝は25点とチーム最多を記録した。

 今年度の福岡大大濠は渡邉以外も1、2年生の注目選手が多い。183センチの2年生ガード湧川裕斗はハンドラー、シューターとして「上」を狙える実力者。兄・颯斗は2年前の優勝に貢献し、現在はB2滋賀レイクスでプレーしている。2回戦・福島東稜戦は前半を1点差で終える難しい展開だったが、彼の35得点で最終的には快勝した。

 高田将吾も2年生で、190センチのスモールフォワード(SF)。ドライブ、シュート力などウイングとしてのスキルが高く、早生まれ(2007年1月生まれ)なためU16日本代表にも選出されている。八村塁、馬場雄大を輩出した富山市立奥田中の出身だ。

個人能力と判断を磨くスタイル

高田将吾(写真中央)はU16代表のSF 【写真は共同】

 福岡大大濠は伝統的に大型プレーヤーがスキルを身に着け、なおかつスマートにプレーするように育ててきたチーム。このチームも渡邉を筆頭にサイズもあるのだが、同時に「引き出し」が多く、相手に応じて違う攻め手を繰り出せる。

 片峯聡太監督はこう述べる。

「ウチは『あなたはこれだけやりなさい』でなく、ウインターカップの直前まで1年間かけて個を磨くことに励んできています。残り1カ月くらいで、ある程度やることを制限しながら、強い個を私が線でつないで強いチームにするやり方です」

 高田はこのように説明する。

「大濠は判断を磨く練習が多くて、どこまでディフェンスが寄ってきたらパスをさばくとか、自分が行けるとか、そういう判断能力が伸びたと思います」

1年生ガードも活躍

 ポイントガード(PG)を任されているのは1年生の榎木璃旺だ。鹿児島県出身の彼は三重の四日市メリノール中で3年間を過ごし、福岡大大濠の門を叩いた。170センチの小兵だがスキルが圧倒的に高く、同時にリーダーらしい利発さも兼ね備えた逸材だ。初戦の第1クォーターに左足首の捻挫を負うアクシデントに見舞われて3回戦は欠場した。しかし酸素カプセル、電気治療などのケアを受けて復帰し、準々決勝以後はメインのPGとして活躍している。

 片峯監督は1年生ガードをこう評価する。

「単純にミスをしなくなりました。中学校の頃はビュンビュン行ってシュートも打てましたけど、高校へのアジャストに半年くらいかかりました。でも一度感覚を覚えると、何か『遊ぶ』ような感じで、いなしながらやれています。ウチは湧川、渡邊と得点を取る能力のある選手がいるので、分配することも3年間で覚えてくれたら、彼の幅が広がってくると思います」

 準決勝の榎木は「0得点」だったが、そこには理由があった。

「先生は自分が点を取れることを知っているので、最初の1年で周りを生かすことを学べと言われています」(榎木)

片峯監督が評価する3年生の働き

 下級生の活躍が目立つ中で、35歳の指揮官はチームづくりにおける上級生の役割を強調する。

「よく下級生が主体と言われますけど、日頃の活動、練習を私が信用して任せているのは3年生です。今大会入っても3年生たちの伸び、成長はすごく感じています。20人いたけれど2人が引退して川島(悠翔)がいなくなって、17人ですけど、彼らがチームを循環させるために大事なことに気づいてくれて、エナジーにもなっています」

 先発唯一の3年生・広瀬孝一はパワーフォワード(PF)として高田とともにインサイドを制圧する働きを見せている。同じく3年生のスモールフォワード鈴木凰雅は準決勝で3Pシュートを勝負どころで2本決める活躍を見せた。主将の三輪大和はもちろん、Bチーム組も含めた3年生の働きがチームの勝負強さ、安定感を支えている。

 川島悠翔は1年生ながら21年度のウインターカップ制覇に貢献した200センチの逸材で、もし大濠に残っていたら大会のナンバーワンプレーヤーだったはずだ。オーストラリアのNBAアカデミーに転校した彼は現在一時帰国中で、控え部員とともに応援席からチームを盛り上げていた。片峯監督は準々決勝の直後には川島についてこう語っていた。

「ああやって『トロージャンズ(※福岡大大濠の愛称)』のユニフォームを着てくれているのをまともに見ちゃうと涙が出るので、(ベンチの後ろを)なかなかまともには見られないのだけど……。彼にそういう思いがあるのは嬉しいです。逆に我々からすると『川島が抜けたから』と言われるのがすごく悔しいし、モチベーションになっている部分でもある。彼が来ているからこそ、情けないところは僕も3年生も絶対見せられません」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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