初の大舞台で大谷翔平が見た景色 ドジャースが世界一を決めた「2つのターニングポイント」【PS総括】
11月1日(現地時間)、ドジャースの優勝パレード後に行われたイベントで、スピーチを行う大谷翔平 【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】
ここまで長く家を空けるとは想像していなかった。出発前、荷造りをしていて、全部はキャリーケースに入りきらなかったので、何かを置いていく必要があった。迷った末に、ダウンベストをあきらめた。ハロウィーンをホテルで迎えることなど、地区シリーズの相手がパドレスと決まった段階では、イメージできなかった。
気がつけば、あれから1カ月が経った。
ポストシーズン中盤、大谷翔平はその時点でのプレーオフを振り返り、「楽しい」と口にした。
「負けた試合も含めて、素晴らしい緊張感の中でプレーできる喜びというか、この時期まで野球ができているという喜びをまず感じていますし、明日も試合ができる。きょうしっかりと調整して、健康な状態で野球ができるというところに、自分自身は喜びを感じています」
それは取材する側も同じ。日々、本当に刺激的だった。
他の選手も充実感を口にした。7月終わりのトレード期限で移籍してきたマイケル・コペックは、貴重な中継ぎのピースになった。メッツとの試合を終えたある夜「10月って、こんなに寒いんだ」と苦笑した。
「こんな時期まで野球をしているのは初めてだから、知らなかった」
やや自虐的だが、それはもちろん大谷同様、喜びを表現している。彼はワールドシリーズ第5戦の試合開始5時間前、一人でマウンドの後ろに立ち、投球のイメージをしていた。
同じくリリーフとして活躍したアンソニー・バンダは、「正直、シーズンの最後まで、プロでいられるかどうかわからなかった」と感慨深げだった。
「こんなに毎日のように投げたこともない。体はきついよ。でも毎日、球場に来るのが楽しくて仕方がない」
2017年にデビューしてから8球団を渡り歩き、シーズン中に何度も戦力外を経験している彼は、ドジャースとの再契約を望んでいる。
「そうしたら来年、日本に行けるから。ポケモンセンターに行きたいんだ」(※)
※来季のドジャースとカブスの開幕シリーズは、2025年3月18日、19日に東京ドームで行われる
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11月1日、ロサンゼルスで行われたドジャースの優勝パレード 【写真は共同】
先発投手が足りない
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9月半ば、アトランタでブレーブスとの4連戦があった。連敗スタートとなったが、第3戦の試合前、ロサンゼルス・タイムズ紙のジャック・ハリス記者と、オレンジカウンティ・レジスター紙のビル・プランケット記者とランチをとったときに、こんな話になった。
「このままでは、パドレスにまくられる」とハリス記者。
「確かにいま、チーム状態は決して良くない」とプランケット記者も同意し、プレーオフを見据えた展望でも一致した。
ハリス記者が顔を曇らせる。
「タイラー・グラスノーが、投げられなくなった。山本由伸、ウォーカー・ビューラーも不安定。プレーオフでは、ジャック・フラーティが先発の軸となる。これは決して望んだものではない」
プランケット記者も、「7月終わりにトレードで獲得したとき、彼がポストシーズンの第1戦で投げることになるかもしれないなんて、首脳陣も想定していなかったのではないか」と話した。
「3〜4番手で投げてくれれば、という感じだったのに」
そのフラーティはパドレスとの2戦目に先発し、六回途中4失点で降板。負け投手となった。そもそも山本に1戦目を譲った時点で誤算。その山本は大谷の3ランに救われたが、3回5失点。第3戦で先発したビューラーも、五回を投げて7安打6失点。懸念がことごとく現実となった。
ポストシーズンではチーム最多となる5試合に先発登板した、ドジャースのジャック・フラーティ(写真はワールドシリーズ第1戦) 【Harry How/Getty Images】
「もう2連勝したら勝ちという、そういうゲームだと思ってやればいいんじゃないかなと思うので、ここまで1勝2敗というのは別に考える必要はないですし、単純に2連勝するゲームだと思えばいいんじゃないかな」
よほど急かされて出てきたのか、額にも首にも汗がびっしょり。左の首には抜け毛が、張り付いたままだった。確かに連勝すればシリーズ突破だが、一つ負ければ終わり。ただ、彼には最善のシナリオしか見えてなかった。
後日、あの言葉を口にしたときの思いを尋ねると、こう明かしている。
「あのときはあのときで自分がそう思っていた。(意識的に)そう思わなければいけないということではなく、本当にそう思っていた」