初の大舞台で大谷翔平が見た景色 ドジャースが世界一を決めた「2つのターニングポイント」【PS総括】
ケン・グリフィーJr.の大谷評
ワールドシリーズ第5戦の前に取材に応じるケン・グリフィーJr. 【筆者撮影】
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「昨日(ワールドシリーズ第4戦、七回1死)もそうだった。見逃すことができればいいけど、時々捉えられると思ってしまう。でも、いまの肩の状態では打てない」
先日紹介したように、スイングスピードそのものは戻った。しかし、左腕が使えないため、どうしても押し込めない。また、脳がストップをかけるのか、インパクトの瞬間、左手が離れてしまう。
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「それだけ彼は、負けず嫌いなんじゃないかな」
その通りである。高校のとき、同級生と相撲をして負けると、勝つまで挑み続けた。
ちなみに、大谷とグリフィーJr.は、ある点で非常に似ている。
今回、彼グリフィーJr.にインタビューをお願いすると、「向こうで友達に挨拶をしなきゃいけないから、ちょっと待っててくれ」と言い残し、どこかへ消えた。
言われた通り待っていると、ちゃんと戻ってくる。そういうところは律儀だが、いざ質問を始めると、固まったまま動かない。
筆者の質問に固まったまま動かないケン・グリフィーJr. 【筆者撮影】
「ハハハハハ。からかっただけだ。焦っただろ?」
大谷にもそういうところがある。数年前のシーズン最終日、「1年間、ありがとうございました」と挨拶に行った。すると、こう言われた。
「えっ、辞めるんですか?」
そんなこと、一言も言っていない。あっけに取られていると、大谷は声をあげて笑い始めた。
現地記者も脱帽した大谷の“センス”
2020年に優勝したとき、コディ・ベリンジャー(現カブス)がナ・リーグのチャンピオンシップシリーズで右肩を脱臼した。大谷は「あのときも、脱臼をした人がいたけど優勝した。だから今回も――」というメッセージをチームメイトに送ったことはすでに紹介したが、その内容は米有線放送局「ESPN」のジェフ・パサン記者も掴んでいた。
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「全文を手に入れたのか?」と聞くと、「全部ではない」。「じゃあどこまで?」と探ると、「そんなこと言えるはずがないじゃないか(笑)。そっちはどうなんだ?」。「いや、それは言えない」。そんなやり取りを2〜3回繰り返していると、パサン記者が「一つだけ。2020年の話だ」と教えてくれたので、「あのベリンジャーの話か?」と返すと、「なんだ、知っていたのか」となった。
翌日、彼の原稿を確認すると、それ以上の話はなかったので、少しホッとした。
改めて彼と話をしたが、彼も感心していた。
「左肩を亜脱臼したあと、それをいい兆候だと自分で言ってしまうセンスがすごい。よく思いついたと思わないか?」
その通りである。
「チームメイトはクスッと笑って、安心できたんじゃないかな」
今回のポストシーズンにおいて、地区シリーズ第4戦前の爆笑ミーティングと、ワールドシリーズ第2戦終了後にチームメイトに送った大谷のメッセージは、間違いなくターニングポイントの一つとなった。
大谷が自分らしさを取り戻すのに要した球数
ドジャース移籍初年度に、ワールドシリーズ制覇と前人未踏の「50-50」を成し遂げた大谷翔平。二刀流の復活を目指す来季に期待が高まる 【Photo by Mike Lawrence/MLB Photos via Getty Images】
負けが決まった試合で長いイニングを投げ、勝ちパターンのリリーフ投手を翌日以降に温存できるよう体を張ったランドン・ナックとブレント・ハニーウェル。
ケガで途中交代を余儀なくされたことに涙したミゲル・ロハス。
山本、ビューラーの復活。
メッツとの第5戦で疑問視された大谷の走塁。
ワールドシリーズ第3戦で、ムーキー・ベッツの手首を掴んだファンの守備妨害。
ワールドシリーズ第5戦の八回表、大谷に対する打撃妨害。
ワールドシリーズ第5戦の八回裏、執念でピンチを凌いだブレーク・トライネン。
満身創痍の中、ワールドシリーズMVPに輝いたフリーマン。
まだ書きたいことはあるが、最後に、このポストシーズンで印象残った大谷の言葉を一つだけ紹介して終わりたい。
初めてのプレーオフ。それに向けての調整も手探り。不安もあった。「興奮するなかで自分のスイングができるのか。どれだけ冷静に自分プレーができるか」。しかし、杞憂に終わった。
地区シリーズ第1戦の初回、打席に入ったとき「どんな景色が見えたのか?」と聞くと、大谷はこう答えた。
「1球目にカーブが来たので、自分の中で気持ちがちょっと楽になったというか、カーブに対して1球目から反応できたなというので、落ち着きというか、自分の中でスッと(試合に)入れる感覚があった」
彼が初の大舞台で自分らしさを取り戻すのに要したのは、たった1球だった。
※連載「MLBポストシーズンレポート2024」は、今回をもちまして終了となります。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。