初の大舞台で大谷翔平が見た景色 ドジャースが世界一を決めた「2つのターニングポイント」【PS総括】
爆笑ミーティングの真相
決戦の日。ドジャースは試合前にミーティングを行った。
そこで、デイブ・ロバーツ監督が、フレディ・フリーマンが、あるいは大谷が、選手を鼓舞するようなスピーチをしたのだろうか。だとしたら、どんな言葉が選手らを奮い立たせたのか。
第4戦を8対0で圧勝し、2勝2敗のタイに持ち込んだドジャース。試合後、ある選手が教えてくれた。
「多分、みんながイメージしているようなミーティングではない。いろんな人が面白い話をしたり、面白いことをしたり。腹が捩れるほど笑った」
日本風に言い換えるなら、みんながとっておきの「すべらない話」や宴会芸を披露したということのようだが、精神的には一番追い詰められていたあの日の試合前、クラブハウスでは爆笑ミーティングが行われていたのである。
第5戦はダルビッシュ有が立ちはだかったが、山本も5回2安打無失点の快投。ドジャースはソロ本塁打2発でケリをつけた。この試合ではキケ・ヘルナンデスが先制本塁打を放ったが、そんな脇役の登場もチームを支えた。
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地区シリーズ第5戦、パドレスのダルビッシュ有からソロ本塁打を放った、ドジャースのキケ・ヘルナンデス 【Photo by Harry How/Getty Images】
打者・大谷が負けを認めた大ベテラン
それよりもこの頃、ドジャースはシーズンでも稀に見る好調期に突入していた。打線がつながり、タイムリーが出る。不安だった投手陣が、先発もリリーフも安定。全ての歯車が噛み合った。むしろあのとき、話題になったのは、ワールドシリーズに行けるかどうかではなく、大谷の打撃だった。
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よって「どうアプローチが違うのか?」という質問が何度も繰り返されたが、その度に大谷は「特別に変えたことはない」と繰り返した。
「やることはずっと言っている通り、変わらない。多少状況によって変わることはありますけど、アプローチ自体を変えることはない。スモールサンプルの中の偶然起きた数字じゃないかなと思っています」
ただ、すでに触れたように、走者を塁に置いた場面、得点圏ではめっぽう強く、地区シリーズ第1戦では3点ビハインドの二回に同点3ランを放ち、メッツ戦では2戦連発の本塁打を放つなど、存在感は圧倒的だった。
ロバーツ監督が皮肉った。
「シーズン序盤、得点圏で打てないとき、あれだけ問題視したのに。走者がいなくても、問題になるのか? なんだか滑稽だ」
とはいえ、抑えられたことは事実。相手も手をかえ、品をかえ、大谷に挑んだ。
ワールドシリーズでは、第1戦と第5戦に先発したゲリット・コールに6打数無安打。優勝を決めた第5戦では、五回1死満塁のチャンスで打席に立ったが、空振り三振を喫した。
ワールドシリーズ第5戦に先発したヤンキースのゲリット・コール。7回2/3を投げ5失点(自責点0)、108球の熱投だった 【写真は共同】
コールの大谷に対する配球比率
(左:2018年~24年のレギュラーシーズン→右:ワールドシリーズ)
4シーム:56.7%→33.3 %
チェンジアアップ:18.6%→16.7%
ナックルカーブ:12.4%→25.0%
スライダー:11.3%→0%
シンカー:1.0%→16.7%
カッター:0%→8.3%
第1戦では、過去大谷に対して56.7%も投げていた4シームを1球しか投げなかった。一方で、レギュラーシーズンでは1球しか投げたことのない、シンカーやカッターを投げて翻弄した。あのコールが、代名詞でもある4シームを捨てでても、かわしにきたのである。
この攻略パターンは、ダルビッシュが地区シリーズで見せた攻めそのもの。ダルビッシュも大谷を6打数無安打に抑えたが、傾向が似ている。メッツのルイス・セベリーノは、リーグチャンピオンシップシリーズで大谷と対戦する前、「ダルビッシュを参考にする」と話したが、ダルビッシュの配球もまるでレギュラーシーズンとは異なるものだった。
ポストシーズンでは2試合に先発し、1勝1敗、防御率1.98の好成績をマークした、パドレスのダルビッシュ有 【写真は共同】
(左:2018年~24年のレギュラーシーズン→右:地区シリーズ)
スプリット:30.0%→28.6%
カッター:30.0%→14.3%
4シーム:30.0%→ 7.1%
スライダー:10.0%→ 28.6%
カーブ:0%→21.4%
4シームの比率を減らし、これまで大谷には投げたことのなかったカーブを21.4%も投げている。これを参考に、来季、他の投手もこれまでと異なる配球パターンで攻める可能性があるが、それはそれで大谷が適応するので、賞味期限はさほど長くないのではないか。短期決戦だからこその攻めである。
ちなみに、ダルビッシュとの対戦について大谷は「ダルビッシュさんとの対戦に関しては、自分の過去のイメージとのギャップであったりとかそういうところのズレが、打席の中でファウルになったりとかに出ていた」と負けを認め、こう続けている。
「1つの型に収まることなくというか、どういう状況でもうまく投げられるそういう強さがある」
そこにダルビッシュの凄みが透けた。
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