【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

三好康児が27歳にしてたどり着いた5大リーグ フィジカルコンタクトに負けなくなった“変化のワケ”

林遼平

川崎Fのアカデミー時代から注目されていた逸材が、27歳にして5大リーグにたどり着いた。ボーフム加入後は怪我もあったが、ここから出番を増やしていくはずだ 【Photo by Rene Nijhuis/MB Media/Getty Images】

 堂安律、板倉滉、伊藤洋輝ら日本代表の主力クラスを筆頭に、2024-25シーズンも多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。第2回の主人公は、10代の頃から将来を嘱望され、東京五輪にも出場したボーフムの三好康児。19年夏に欧州へと渡り、この夏ついに5大リーグの舞台にたどり着いた英才の今を、川崎フロンターレ時代から知る著者がレポートする。

英3部から独1部へのステップアップ

 初めて取材したのは2017年のことだ。当時、川崎フロンターレの番記者を始めたばかりだったが、そこにはユース史上最高傑作と呼ばれ、大きな期待を背負ってプレーする三好康児がいた。初のリーグ優勝を遂げた年、チームの調子が良かったこともあってなかなか出番に恵まれず、懸命にチャンスを得ようと奮闘していた姿を今でも覚えている。

 それからU-20ワールドカップを経て、東京五輪世代をけん引する1人として最前線で戦う男を近いところで見続けてきた。ベルギーへと旅立ってからアントワープ(ロイヤル・アントワープの本拠地)まで直撃インタビューをしに行ったことも懐かしい思い出だ。20代前半の頃から見ていた選手だけに、どんな成長曲線を描いていくのかが楽しみだった。

 しかし、東京五輪を終えて以降、めっきり取材をする機会が減ってしまった。もちろん欧州の地で戦っていたこともあるし、同世代の選手たちがA代表に呼ばれ始めるなか、三好には声がかからず代表戦で取材することがなくなってしまったのも影響している。さらに筆者がドイツに渡ったタイミングで、三好がイングランドのバーミンガム(チャンピオンシップ/2部相当)に移籍したこともあり、なかなか試合を見に行くチャンスがなかった。

「今シーズンこそはどこかで取材したい」と考えていた矢先、嬉しいニュースが飛び込んできた。三好のボーフム行きがこの夏の移籍市場が閉まる期限ギリギリに決まったのだ。バーミンガムが降格したこともあり、イングランド3部リーグ(EFLリーグワン)からブンデスリーガ1部へのステップアップ。驚きとともに再びプレーを見られることにワクワクしていた。

超ロングシュート以上に感心したのは

利き足ではない右足で放ったグラウンダーの超ロングシュートが話題をさらったフライブルクとのデビュー戦。試合には1-2で敗れたが、インパクトは十分だった 【Photo by Philipp von Ditfurth/picture alliance via Getty Images】

 迎えた9月14日の第3節。ブンデスリーガデビューとなった試合の対戦相手が、同じく東京五輪世代をけん引していた堂安律が所属するフライブルクとなったのは、なんの因果か。Jリーグ時代も含め、堂安とは一度も対戦経験がなかったが、「律はずっとドイツでやっていて、そういった意味では先輩。オレがどれだけできるかというのを試す良い機会」(三好)となった。

 事前の現地報道では、4-4-2のダイヤモンド型のトップ下に入ると予想されていた。イングランドでの戦いぶりはハイライト程度しか見ていなかったとはいえ、これまでの三好を想像するに高い技術力と巧みなポジショニングで前を向くことができ、前線で違いを作れる選手だからこそ、トップ下での起用は腑に落ちた。

 ところが、蓋を開けてみると4-3-3の左ウイング起用。もともとボーフムは前線からのマンツーマンディフェンスを志向しているため、広範囲に走り回ることが要求される。その上でワイドに置かれると、ボールに触る回数が少なくなり、彼の強みが消えてしまうのではないかと不安がよぎった。

 だが、ピッチ上でプレーする彼の姿を見て、その考えを改めることになる。

 この試合、日本で話題を集めたのは、およそ50メートルの超ロングシュートだろう。前半終了間際にハーフウエイラインを少し越えたあたりから放ったダイレクトシュートは、あと一歩のところでGKに阻まれたが、大きなインパクトを残している。現地メディアもそのシーンを取り上げ、三好への関心を強めるに至った。

 しかし、それ以上に感心したのは、豊富な運動量に支えられたハードワークとフィジカルコンタクトに臆さない姿だ。もともと体が大きくないため、フィジカルコンタクトをいかに避けるかにフォーカスする選手だった。ボールを受ける前にどう相手を出し抜くか。その思考は今も変わらないのだが、とはいえ少なからずフィジカルコンタクトはあるもの。そこで負けないために何をすればいいのか、という課題に向き合ってきた成果が、そこにはあった。変化の理由を聞いてみると、その答えも明確だった。

「フィジカルコンタクトの面で、どう戦うかはチャンピオンシップでも感じていたところ。トレーニングで取り組んでいる部分でもあるし、自分はそこで戦う選手じゃないけど、そこで勝つことでさらに選手としての価値も高くなると思う。戦ったら勝てるよ、みたいなのは常に持っておきたいなと思っています」

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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