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代表2連戦+片道13時間半の移動はつらい!? 三笘が今季初めて先発落ちした明確な理由

森昌利

代表参戦で疲労が残る三笘は、第8節ニューカッスル戦で今季初めてスタメンから外れ、後半途中からの出場となった 【写真:REX/アフロ】

 10月19日(現地時間、以下同)のニューカッスル戦、ブライトンは厳しいアウェー戦を1-0でモノにし、6位から5位に浮上した。代表戦帰りの三笘薫は、この試合で今季プレミアでは初のベンチスタート。それでも後半15分からピッチに立ち、見せ場も作った。試合後には代表戦後の体調維持の難しさも吐露したが、「コンディションをここからもっともっと上げていきたい」と今後のさらなる活躍を誓った。

どうやって体調を維持すればいいのか…

 私事で恐縮だが、来月、5年ぶりに日本に一時帰国する。なぜ5年も帰っていなかったかというと、まずコロナ。2020年は夏、秋と2度も航空券を購入したが、両方ともキャンセルされた。飛行機が飛ばなかったのである。

 もちろん2年前からコロナの規制が緩和されて、英国と日本を自由に行き来できるようになっている。しかし実はもう1つ、帰国に積極的になれない理由がある。

 それは、最近の円安にもかかわらず英国を訪れた方ならご承知のはずだが、長い飛行時間だ。ついさっき、航空券の案内を見直したところ、ロンドン午前9時5分発の直行便が東京羽田に到着するのは翌日の午前7時35分。10月27日から英国は冬時間に突入するので、来月の時差は9時間。ということは22時間30分マイナス9時間となり、つまり13時間半も飛行機に乗っていなければならない。

 その理由はみなさんもご存知の通り、ロシアのウクライナ侵攻が長引いて、飛行機が最短距離となるロシア上空を飛べないからである。ただでさえ長い10時間半の飛行時間が3時間も延びた。これはきつい。

 1980年代の米ソ冷戦時代は、日本人が欧州に行こうと思ったら、途中で給油しなければならなかったため、アラスカのアンカレッジ経由で20時間以上もかかった。確かにそれに比べればダイレクトで行けるだけマシなのかもしれない。

 しかも、これは歳をとるたびにきつくなるが、時差ボケもある。特に英国から日本に帰ると、朝方に暴力的睡魔に襲われながらも、太陽の日差しで眠れず、夜、疲労困憊なのに目がらんらんと冴えてくる。最初の数日間はゾンビのようになる。

 だから、10月19日にブライトンからは一番遠いアウェー戦となるニューカッスルとの第8節の試合で三笘薫が今季初めて先発から外れ、試合後に「厳しいものがありましたけど、監督もそこ(代表戦の疲れ)を考慮してくれました。今日は特に何もしてないですけど、本当にチームとしてこの試合を勝ち切ったのは大きいです。僕もコンディションをここからもっともっと上げていかないといけないなと思います」と語ったのも無理はない。

サウジアラビアと日本でW杯予選を戦い、イングランドにとんぼ返り。試合での疲労はもとより、長時間の移動による体への負担も相当なものだ 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 欧州のクラブに主戦場を移した日本代表選手は本当に大変だと思う。

 しかも今回の三笘はまずサウジアラビアに飛び、ほぼフル出場となる88分を戦い、それから日本に飛んで、オーストラリアとのタフな試合でフル出場。それもウイングバックのポジションを務めて、1.5列目でプレーするブライトンの時より広範囲のエリアをカバーしなくてはならなかった。そして母国滞在を楽しむ間もなく、英国に帰るためにまたすかさず13時間半のフライト。いや、本当にどうやって体調を維持すればいいのか、見当がつかない。

 これは余談だが、2012年の夏にマンチェスター・ユナイテッドは香川真司(当時ドルトムント)かエデン・アザール(当時リール)のどちらかを獲得すると言われていて、香川を選択した。その際の移籍金が香川の1600万ユーロ(当時のレートで約22億円)に対し、最終的にチェルシーに移籍したアザールの金額は倍以上の3500万ユーロ(同約48億円)。かの名将アレックス・ファーガソン監督が実際ドイツに飛び、ドイツ杯(DFBカップ)決勝でバイエルン・ミュンヘンをコテンパンにやっつけたところを目撃して香川を選んだのだから、当時の香川とアザールの実力は遜色なかったはずだ。

 しかしこれだけ移籍金に開きが出た。その要因は、英国から最も近い欧州国ベルギーの代表だったアザールと、日本代表・香川の“移動距離”の差もあったと思う。とにかく、代表戦の度に強いられる長距離移動は、欧州で戦う日本代表選手にとって明確かつ大きなハンデであることは間違いない。

 日本との比較で時差は2時間ほど短いが、もちろん南米選手も同じハンデを背負っている。それはこのニューカッスル戦でエクアドル代表DFのペルビス・エストゥピニャンがベンチスタートとなったことでも分かるし、翌日のリバプール対チェルシー戦でも、今季は控えの遠藤航に加えて、アルゼンチン代表MFアレクシス・マック・アリスター、そしてコロンビア代表FWのルイス・ディアスが先発から外れたことでも明らかだ。

 もちろん三笘は現在の代表のエースであるし、遠藤は主将だ。冨安健洋は押しも押されもしないセンターバックの要であるし、鎌田大地、そして菅原由勢も重要なメンバーである。体調に問題がなければ、JFAが彼らを常に招集したいというのは分かる。けれどもできることなら、親善試合等ではなるべくメンバーから外して、貴重な休養を与えてくれればと心から願う。

三笘が悔いた左足シュートと終了間際の反則

2つのシュートのうち三笘が特に悔しがったのが、後半39分のドリブルシュート。左足の一撃はGKポープに弾かれてクロスバーの上へ 【写真:REX/アフロ】

「何もしてない」と語った三笘だが、それでも後半15分にチーム一番手のサブで登場すると、2度シュートを打って見せ場を作った。

 まずは1本目。後半39分に相手DFのトラップミスに付けこみ、ボールを奪うと、ドリブルでペナルティエリア内左サイドに侵入して左足を振り抜いた。しかしこのシュートに191センチのニューカッスルGKニック・ポープが鋭く反応。必死に伸ばした右手で微かにボールに触れ、枠外に弾いた。

 2本目は後半アディショナルタイム2分。フリオ・エンシソが相手DFと競り合いながらヘディングで流したボールに、ペナルティエリア内左寄りの位置で右足のボレーを合わせた。難しい浮き玉に右足を被せるようにうまく合わせて、対角線に低い弾道のシュートを飛ばしたが、惜しくもこのボールは右ポストの脇に外れた。

 試合後、「どちらのシュートが外れて悔しかったか?」と聞かれると、三笘は「1本目ですね。1本目のほうが絶対決めないといけないですね」とコメント。結果的にブライトンは1-0で逃げ切ったが、後半39分のタイミングで相手のミスに乗じた形で追加点を奪っていたら、完全に勝利が確定した。そんな状況で決められず、27歳日本代表MFは「ちょっと焦った。やっぱり踏み込みが弱かったですし、(背の)高いキーパーに対して低めで打たないといけないシーンだった。でも仕方ないですね。今の実力だと思います」と話して唇を噛んだ。

 また、試合終了間際も間際の後半アディショナルタイムの9分には、三笘がボックス外ギリギリの位置で反則を犯し、相手に絶好の位置でフリーキックを与えて同点の危機を招いてしまった。

 この時、右斜め前に座っていた三笘担当のブライトン広報官チャーリーが筆者のほうを振り向き、天を仰いで神に祈るポーズを取ったのが見えた。もちろん、筆者も“頼む、決まらないでくれ!”と心の中で叫んだのは言うまでもない。

 なので試合後、この場面について「ドキドキしたと思うが?」と聞いてみた。ニューカッスルFWアレクサンデル・イサクが蹴ったフリーキックは壁に直撃して難を逃れたが、三笘は「もちろんそうですね」と言って、やはり当人も気が気ではなかったことを素直に認めると、「こういうのは途中出場としてはやってはいけないプレーだと思います。教訓にはなります」と続けて胸を撫で下ろしていた。

 試合は終始ニューカッスルが優勢だったが、前半35分にベテランFWのダニー・ウェルベックがワンチャンスで奪った虎の子の1点を守り切って、ブライトンが今季4勝目を挙げた。これで勝ち点を15に伸ばし、順位は5位に浮上した。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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