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代表ウイーク明けに命運をかけるテン・ハグ監督 “強いマンチェスター・U”はいつ蘇るのか…

森昌利

7試合を終えて2勝2分3敗の14位に沈む。テン・ハグ体制3年目の今季、マンチェスター・Uは極度の不振に喘いでいる 【写真:ロイター/アフロ】

 マンチェスター・ユナイテッドが危機的な状況にある。8位に終わった昨季も大きな失望を買ったが、続投したエリック・テン・ハグ監督の下で迎えた今季はそれに輪をかけてひどい有り様で、代表ウイーク前の第7節終了時点で14位……。イングランドきっての名門を立て直すどころか、屈辱的な低迷を招いているオランダ人指揮官の命運は、もはや風前の灯火だ。

悪魔的な強さを発揮して21年間で優勝13回

 渡英してイングリッシュの妻と結婚したのが1993年で、この前年に「プレミアリーグ」と名称が変わったイングランドの1部リーグで26年ぶりに優勝したのがマンチェスター・Uだった。

 その後のサクセスストーリーはご存知の通り。火の玉のような闘将アレックス・ファーガソン監督に率いられた“レッドデビルズ”は、この1992-93シーズンの優勝後、まさしく悪魔的な強さを発揮して、2012-13シーズンをもってスコットランド人名将が勇退するまで、プレミアリーグ初年度から数えてなんと13回もイングランドの頂点に立った。

 しかもプレミアリーグとなってから約20年間にわたって続いた黄金期の間、最悪だった順位は3位で、それが3回あった。ちなみに2位が5回。とにかく優勝戦線に顔を出さないシーズンは皆無だった。

 本当に毎年優勝しているイメージだった。第一次黄金期は、ライアン・ギグズ、ポール・スコールズ、デイビッド・ベッカム、ギャリーとフィルのネビル兄弟、そしてニッキー・バットという1992年のFAユースカップ優勝メンバーを中心とする6人の若い生え抜き選手を、鬼軍曹のロイ・キーンが主将として引っ張り、イングランドのクラブとして史上初となる栄光のトレブル(プレミアリーグ、欧州チャンピオンズリーグ、FAカップの3冠)を達成した1998-99シーズンに絶頂を極めた。

 第二次黄金期は、ベテランとなったG・ネビル、ギグズ、スコールズがウェイン・ルーニー、リオ・ファーディナンド、そしてクリスティアーノ・ロナウドらに栄光のユナイテッド魂を注入して、2007-08シーズンにプレミアリーグとロシアでの欧州チャンピオンズリーグのダブル優勝を果たして、翌シーズンには世界の頂点にも立った。

 奇しくもファーガソン監督の最終シーズンに日本代表MF香川真司がドルトムントから鳴物入りで移籍し、最後の強いユナイテッドをつぶさに目撃した。英国に移住して20年間、いやというほど見せつけられていた強さを実感した。前半に先制されて、今日はどうやっても勝てないだろうという出来だったのに、“ハーフタイムにいったい何が起こったのか?”と不思議に思うほど、後半にすごいチームが出てきて当たり前のように逆転勝ちした。

 翌シーズン、超攻撃的だった偉大な先代とは“スコットランドのグラスゴー出身”くらいしか共通点が見つからない、守備型のデイビッド・モイズが監督に就任した。トップ下で精密機械のようなパフォーマンスを見せた香川を中盤フラットの4-4-2の左サイドで起用し、「左サイドバックとの守備の連係に課題がある」と発言し、センスのなさを暴露。そしてあれほど強かった赤い悪魔をあっという間に弱体化させて、就任からわずか9カ月で解任された。

 以来、戦績でも資金的にも、レアル・マドリーやバルセロナと世界一を争うビッグクラブだったマンチェスター・Uの低迷が続いている。

“彼”にとっては幸運でもクラブとしては不運だった

昨季はプレミア創設以降ではクラブワーストの8位に終わったが、FAカップ優勝によりテン・ハグの首は辛うじてつながった 【写真:ロイター/アフロ】

 いったい、いつになったらあの強豪が復活するのだろうか?

 最近の英メディアの報道を追いかけている限りでは、21年の間に13回もイングランド王者となり、常に優勝争いをしていたマンチェスター・Uの強さはそう簡単に甦りそうもない。

「FAカップで優勝したことは彼にとっては幸運だったが、クラブとしては不運だった」

 ESPNでコメンテーターを務めるフットボール・ジャーナリストのマーク・オグデン氏に電話をかけて取材した。その開口一番の言葉がこれだった。

 マークとは、筆者が2001年にボルトンに移籍したFW西澤明訓の担当になって以来の付き合いである。当時のマークはイングランド北西部の地元通信社の駆け出し記者だったが、その後、高級紙『デイリー・テレグラフ』のマンチェスター・U番となり、2013年にファーガソン監督の勇退をスクープして、この年の英国最優秀記者賞を受賞した。現在ではサッカー発祥国を代表するフットボール・ジャーナリストであり、マンチェスター・Uとは現在も太いパイプがある。

 そのマークが「彼」と言ったのは無論、エリック・テン・ハグ監督のことだ。

 昨季は8位となって、プレミアリーグ創設以来、マンチェスター・Uとしての最低順位を記録した。シリーズ終盤には解任報道が相次ぎ、更迭が確実視されていた。ところが、同じ街の宿敵であり、近年ではイングランド王者の座を完全にユナイテッドから奪い取った形になっているマンチェスター・シティとの決勝で2-1の勝利を収め、FAカップ優勝を果たした。このトロフィー奪取で無冠を逃れ、首の皮一枚を残して、オランダ人指揮官の続投が決まったのである。

 しかし今季はすでに3敗。まだ序盤戦ではあるが、チームはなんと14位まで沈んでいる。これではマークが「彼にとっては幸運だったが、クラブとしては不運だった」と辛辣なコメントをしても仕方がない。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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