渡邊雄太の千葉ジェッツ加入が持つ意味 「代表」「バスケ界」にも及ぶ大物帰国の影響

大島和人

8月27日に都内で渡邊雄太の千葉J加入会見が行われた 【撮影:大島和人】

 NBA通算で6シーズン、213試合のキャリアを持ち、しかもまだ29歳のプレイヤーがBリーグにやってくる。その選手は206センチ・98キロの体格を持ちつつアウトサイドからのシュート力、ガードにも対応できるフットワークと、献身性を併せ持つオールラウンダーだ。こうやって外国籍選手と同じ基準で評価しても、渡邊雄太はかなりの「大物」になる。

 獲得に成功したのは千葉ジェッツだ。2016年のBリーグ開幕以後にB1チャンピオンシップを1回、天皇杯を5回制しているBリーグ屈指の強豪で、昨シーズンは30億円を超える売上を挙げた人気クラブでもある。

 千葉Jは2024-25シーズンからホームをLaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)に移す。アリーナの収容人員が約2倍に増える中で、渡邊の加入には経営的なインパクトも見込める投資だ。田村征也社長は「オーセンティックユニフォームの売上は昨シーズンの倍近く」と明かしていた。

ジェッツの「熱量」が加入の決め手に

千葉Jは今季から「ららアリーナ東京ベイ」にホームを移す 【写真:つのだよしお/アフロ】

 8月27日、東京都内で渡邊の千葉ジェッツ加入会見が行われた。20チーム以上からオファーを受けたという渡邊だが、千葉J入りの決め手に「熱意」「メンタル問題への姿勢」を挙げる。

「皆さんはなぜ千葉ジェッツなのか、気になっていると思います。帰国したときの記者会見でも『一番僕に対して熱量を持ってくれるチームを優先したい』と話しました。どのチームも魅力的なオファーと熱量をくださったのですが、どこよりも千葉ジェッツは熱量があったと感じています」

 NBAで過酷なサバイバルを続けてきた彼は、精神的に疲弊をした状態だった。2023-24シーズンの2月にメンフィス・グリズリーズへ移籍したが、シーズンの終盤はコートに立てない時期が続いた。メンタル面の理由があったと後に渡邊は明かしている。千葉ジェッツは、その問題に正面からアプローチをした。

「日本に帰ってくる一番大きな理由として、メンタル的な問題がありました。NBA(2023-24シーズン)の終盤はプレーできない、大好きなバスケットができない苦しい時間を過ごしました。そこはセンシティブな問題なので、話しにくい、あまり話題にしたくないのが普通です。『そこを全力でサポートしたい』『十分にバスケットを楽しめる環境を作っていきたい』と強調してくださったのは千葉ジェッツだけでした。そこは(加入を決めた)何よりの理由です」

 繰り返しになるが千葉JはBリーグ屈指の実力と人気を持つクラブだ。渡邊の親友で、日本代表のチームメイトでもあるポイントガードの富樫勇樹もいる。これについて渡邊はこう口にする。

「ああいう大きなアリーナを使えて、沢山のお客さんの前でプレーできることも一つ(の理由)です。個人的に仲のいい富樫勇樹選手がいて、彼とは『いつか同じチームでやりたいね』と話していました。ただアリーナとか、勇樹との約束が仮になくても、ジェッツを選んでいただろうと思うくらい、ジェッツから熱量をいただきました」

GM、富樫のアプローチ

1歳上の富樫は「親友」と言える関係 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 池内勇太GMはこう振り返る。

「渡邊雄太選手の千葉ジェッツ加入は私にとっても念願で、毎年のように彼のエージェントを通して話をさせてもらっていました。スタイルも千葉ジェッツとフィットしますし、アメリカで培った経験も大変リスペクトしています。GMとしてというより、バスケットボールに関わる者として『バスケットに集中して、ストレスなくやってもらいたい』という願いが強くあります。我々がメンタル的なところからしっかりサポートして、競技に打ち込める環境を整えて、日本のバスケット界全体を盛り上げて欲しいという思いを込めて、プレゼンテーションをしました」

 池内GMと違う方法で「公開アタック」を仕掛けたのが富樫だった。渡邊が帰国を表明した約1カ月後の5月26日、富樫はX(旧Twitter)上で「誰がなんと言おうと俺はゆーたと同じチームでプレーしたいぞ!!!!!!」とメンションを飛ばし、千葉J加入を熱く呼びかけている。

 渡邊は微苦笑を浮かべながらこう述べる。

「ネット上で色々言われるなと思ったし、自分がちゃんとチームを決めるまで穏便に……というのもあったのですが、そう思っているのを分かっていて、彼は僕をおちょくってああいうことをやったのかなと思います(笑)。ただ『一緒にやりたい』と公言していたのは素直に嬉しかったです。改めて同じチームで、同じユニフォームを来てプレーさせてもらえることになったので、今まで以上により良い関係を築いていきたい」

 渡邊が明かしたところによると、彼はこれまでBリーグを3回「生観戦」していて、すべて千葉ジェッツ戦。そのうち2試合は船橋アリーナだった。

「レベルの高い、見ていて楽しいバスケットをやっているなと思っていました。そのチームに入って、ららアリーナという更に大きいアリーナでできることを楽しみにしています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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