陸上、競泳、バドミントン…28年ロサンゼルス五輪へ次代を担う新星は? 4年後の戦いはもう始まっている

折山淑美

パリ五輪では「競泳ニッポン」で唯一メダル(銀)を獲得した松下知之。ロス五輪は日本のエースとして期待される 【写真は共同】

 パリ五輪序盤、柔道の軽量クラスや男子体操、スケートボードの金メダル獲得で勢いに乗ったかと思えたが、東京五輪で量産した柔道の金メダルは男子2、女子1のみで終わりアウェイの厳しさを味わう結果に……。また競泳は銀1と惨敗し、サッカー、バスケ、バレーなど期待された団体球技も大会半ばには敗退と厳しさを見せつけられる大会になった。

 一方、フェンシングは団体出場4種目すべてでメダルを獲得し、個人と合わせると金2銀1銅2。総合馬術団体でも銅メダルを獲得。そして大会の終盤はレスリングが金メダルを量産、新種目ブレイキンでは初代女王が誕生するなど怒涛の金メダルラッシュに沸き、今大会で日本は金メダル、総獲得メダルの数ともに海外開催の五輪では最多記録を更新した。

 そんな熱気も冷めやらぬ状況だが、パリ五輪が終わった途端に次への戦いを始める選手たちがいる。ここでは4年後のロサンゼルス五輪を目指す、次代を担う若手の注目選手を紹介する。

田中希実のあとを追う陸上界期待のホープ

800mで日本女子初の1分台を記録した久保凛。陸上界に現れたニューヒロインはサッカー日本代表・久保建英のいとことしても知られる 【写真は共同】

 パリ五輪開幕を直前に控える7月中旬。日本陸上界には嬉しいニュースが飛び込んできた。女子800mで高校2年の久保凛(東大阪大敬愛高)がこれまでの日本記録を0秒52更新し、日本女子初の2分切りとなる1分59秒93を出したことだ。

 昨年のインターハイ800mを高校1年で制した久保の今年の躍進には目を見張るものがあった。4月13日の金栗記念では、2022年世界選手権出場の田中希実(New Balance)を抑えてセカンドベストの2分05秒35で優勝すると、5月3日の静岡国際では2分03秒57のU18日本記録を樹立。その翌週の木南記念でもシニアを抑えて優勝し、グランプリシリーズ3連勝を果たした。

 そして6月下旬の日本選手権決勝では、最初から先頭を走った予選とは違って前半は塩見綾乃(岩谷産業)が先頭に立って3番手だったが、その状況で「ラスト250mから仕掛けよう」と考えた通り、外側から前に出た田中と塩見の間を割って先頭に出ると、最後は後続を突き放して自己記録を更新する2分03秒13で初出場初優勝。

 その優勝を喜びながらも、「高校記録(2分02秒57)と、あわよくばパリ五輪の参加標準記録(1分59秒30)を切れたらと考えていたので、悔しい部分もある」と話していた。

 そして今後についてはこう話した。

「今年中に高校記録を切って、来年の試合では1分台を目指したいと考えています。世界には2分を切っている人たちが当たり前のようにたくさんいるのでまだ差はあると思うけど、その差を縮められるように……。自分は800mという種目が好きなので、800mで世界を目指し、世界大会の入賞も徐々に狙っていけるようにしたい。4年後の五輪もそうだけど、来年の世界選手権にも絶対に出場するという気持ちを今日から持って、日々練習に励んでいきたいと思います」

 なかなか高校記録の2分02秒台に突入できないとも口にしていた久保だが、7月13日にチームで挑戦して大幅な日本記録更新となった4×800mリレーではアンカーを務め、助走が付いたスタートながら前半の400mを56秒8で入り、2分01秒9のラップタイムで走った。そしてその2日後の記録会では最初から独走で前半を58秒2で通過すると、ラスト200mも30秒6でカバーし、日本女子初の1分台突入を果たしたのだ。

 五輪の女子800mは1928年アムステルダム大会で人見絹枝が銀メダルを獲得した歴史はあるが、その後は開催国枠出場だった1964年東京大会以外は、400mから転向して2分切りを目指した前日本記録保持者の杉森美保(京セラ)が、参加B標準記録を突破して2004年アテネ大会に出場しただけで世界には遠い種目だった。だが久保は2020年東京大会で日本勢初出場の女子1500mで8位入賞と歴史を切り開いた田中希実のあとを追い、次の歴史を作る大きな可能性を見せてくれた。

パリ五輪出場を逃した悔しさを胸に…

7月31日、インターハイ・男子800mで落合晃が1分44秒80の日本新記録をマークし2連覇を達成した(写真は昨年の優勝時) 【写真は共同】

 日本選手権では久保が初優勝したすぐあとの男子800mでも、高校3年の落合晃(滋賀学園高)が初出場で優勝した。

 昨年のインターハイ王者だが自己記録は1分47秒92で日本ランキングは11位だった。だが今年は4月のU20アジア選手権で優勝すると、5月3日の静岡国際ではシニア勢を抑えて1分46秒54の日本高校記録で優勝して周囲を驚かせた。そして日本選手権でも、予選は1周目を52秒で入る攻めのレースをし、日本記録に0秒07まで迫る1分45秒82の日本歴代3位(当時)の大会新で1位通過。決勝も最初からひとりで飛び出すレースをして2位に1秒以上の差をつける1分46秒56で圧勝した。

 だが落合はゴール後に涙を流して悔しがった。目標にしていたのは日本記録を1秒以上上回る1分44秒70のパリ五輪参加標準記録突破だったからだ。

「昨日の予選は、自分の中では気持ちよく走れて1分45秒8だったので、今日は前半の400mを51秒で入るつもりだったけど53秒かかってしまった。シニアの選手に勝ち切れたことは嬉しかったけれど、来年の世界選手権や4年後のロス五輪ではなくパリで戦うことを目標にしていたので、そこに行けなかったことが本当に悔しく思います」

 日本選手権へ向けては練習のタイム設定もあげて1分44秒台を出せる手応えも持っていたという落合は、出場選手の中で唯一パリを本気で目指す気迫のレースをした。「パリ五輪出場ではなく、この舞台で優勝という目標だけを掲げていたら絶対優勝もできてなかっただろうし、大会記録の1分45秒台も夢みたいな感じで終わっていたのかなと思います。でもパリ五輪出場のための1分44秒70切りを目標にしていたら日本選手権でも優勝できた。日本記録に近づくタイムを出せたことも、挑戦してきたからかなと思います」と話した。

 落合はその後、インターハイで1分44秒80の日本記録をマーク。男子800mも2012年ロンドン大会に横田真人が44年ぶりに出場し、2016年リオデジャネイロ大会には前日本記録保持者の川元奨(スズキ浜松AC)が続いたが、2020年東京大会は出場なしだった。その途切れた道をつなぐ存在として新たな日本記録保持者が名乗りをあげる。

 また、日本選手権初挑戦で7位という結果にも「不甲斐ない」と厳しい自己評価をした女子1500mのドルーリー朱瑛里(津山高2年)も、ロス五輪を狙う世代。まだ余裕を持たせた練習をしている段階だが、体もできてくるここからどう底力をあげていくかも注目。この3人は、8月27日からのU20世界選手権にも出場。そこで世界を相手にどう戦ってくるかも期待したい。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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