高校サッカー選手権決勝を展望 7年前の"決勝"再び、駆け引き飛び交う至極のバトル

安藤隆人

7年ぶり2度目の優勝を狙う前橋育英(左)と、17年ぶり2度目の優勝を狙う流通経済大柏(右)の見どころを3つのバトルで紹介 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 第103回全国高校サッカー選手権大会の決勝カードは、7年前の決勝と同カードとなった。

 17年ぶり2度目の優勝を狙う流通経済大柏と、7年ぶり2度目の優勝を狙う前橋育英。埼玉スタジアムで行われた第96回大会決勝では、後半アディショナルタイムに前橋育英が決勝ゴールを決め、1-0で制している。

 共に高円宮杯プレミアリーグEASTに所属しており、今年は1勝1敗と五分。まさに実力伯仲、因縁もある伝統校同士の決勝戦を、注目すべき3つのバトルを挙げて展望していきたい。

① 3ラインが連動したハイプレスと可変するビルドアップのバトル

準決勝で前半42分にPKを決めた柚木は飛び上がって喜びを表現 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 流通経済大柏の布陣は【4-4-2】がベースで、粕谷悠と山野春太の2トップが相手DFラインに猛プレスを仕掛けるが、準決勝プレビューでも触れた通り、彼らはただ前から激しくプレッシングするのではない。2トップが前に行ったら亀田歩夢と和田哲平の両サイドハーフが中に絞りながら、サイドと中央のパスコースを遮断し、柚木創と飯浜空風(もしくは稲田斗毅)のダブルボランチが2人の立ち位置を見て、スペースを埋める動きをする。4バックもサイドバックの位置をコントロールしながら、佐藤夢真と奈須琉世の2CBが中央でブロックを作るなど、FW、MF、DFラインが連動してボール、コース、スペースを意識してはめてくるからこそ、多くのチームがこのプレスに苦しんできた。

 前橋育英がこのプレスを掻い潜るためには、石井陽と竹ノ谷優駕のダブルボランチが相手のFWとMFラインの間で顔を出して、DFラインからのパスを引き出せるか。そのパスを前向きにトラップして、両ワイドや最前線のオノノジュ慶吏と佐藤耕太の強烈な2トップにボールを供給することができるかがポイントとなる。

 石井も竹ノ谷も守備を得意とし、セカンドボール回収と展開力に長けるボランチだが、彼らがDFラインに飲み込まれたり、セカンドを拾った瞬間にプレスに合ってボールロストしたりすると、相手の波状攻撃を受ける危険性が高まる。

 ただ、彼らは準決勝の東福岡戦で高い対応力を見せつけている。東福岡がこれまでの【4-3-3】から前橋育英対策として【4-2-3-1】にフォーメーションを変え、前線の2枚が鈴木陽と久保遥夢の2CBに果敢にプレスをかけてきた。それに対し、後ろの陣形を石井か竹ノ谷のダブルボランチのうち1枚を最終ラインに落として3バックにしてプレスを回避しながら、ボールサイドのサイドバックがビルドアップの起点を作り出すなど、相手の守備の仕方を把握し組み立ての形を変化させてきた。

 当然、流通経済大柏はビルドアップのポイントとなるサイドバックを消しに来るだろうし、中盤に残ったボランチに対しても目を光らせてくるだろう。だからこそ、ここは前橋育英のワンタッチ、ツータッチを駆使したパスのスキルと、前線の2トップを軸に縦にスライドしていくショートカウンターの質の見せ所となる。

 ハイプレスが飲み込むのか、可変するビルドアップがかわしていくのか。ここがこの試合最大の見どころと言っていいだろう。

② 好調2トップと不動の2CBのバトル

佐藤耕太(左)は準決勝で後半に同点ゴールと逆転ゴールを決めて逆転勝利の立役者に 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 前橋育英の看板はやはりオノノジュ慶吏と佐藤耕太の2トップ。準々決勝まではオノノジュが目立っていたが、東福岡との準決勝では佐藤が爆発。佐藤は182cmと高身長で、かつアジリティーとターン技術が非常に高い。持ち前の懐の深いボールキープから周りを使うこともできれば、自ら突破してゴールをこじ開けられることは準決勝のプレビューでも触れたところだ。その技術がついに準決勝で火を吹いた形となった。

 さらに準々決勝までは佐藤がチャンスメークに回っていたが、準決勝ではオノノジュがサイドに流れてから突破を仕掛け2アシストをマークしたように、このコンビがそれぞれの局面でチャンスメークからフィニッシュまで関われるようになったことが大きい。

 流通経済大柏は佐藤と奈須の不動のCBコンビがどう彼らを封じるか。彼らが左右に流れた時にこれまでの試合通り、サイドバックとのマークの受け渡しをスムーズにして、中央にほころびを生ませないようにできるか。深追いしてもそこで前を向かせない、背後を取らせない守備ができるか。今大会、佐藤と奈須の空中戦を含めた対人の強さ、チャレンジ&カバーと強気かつ繊細なラインコントロールがあるからこそ、前からのハイプレスが実現しており、ロングボールでひっくり返されることも少ない。3回戦の大津戦、準決勝の東海大相模戦においてシュートブロックのうまさが一際光ったのは、彼らのポジショニングと距離感の良さがあったからこそだ。

 ポイント①のバトルの先にある好調2トップと不動の2CBのバトル。ここは最高のエンターテインメントになるだろう。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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