17歳の銀メダルクライマー安楽宙斗が振り返るパリ五輪 今明かす成長プロセスと、広がる高校卒業後の夢

大島和人

安楽選手がスポーツナビの単独取材に応じてくれた 【撮影:大島和人】

 スポーツクライミングの複合は東京オリンピックから採用されている競技だ。パリ五輪では「ボルダー」「リード」の2種目に分かれ、その合計得点で競われる。能力のギリギリを引き出す意地悪なルートが設定され、競技中はリアルタイムで「その時点の獲得得点」が可視化される。数ある採点競技の中でも特にスリリングで、しかもクライマーが見せる超人的な動きは強烈なスペクタクルだ。

 安楽宙斗(あんらく・そらと)――そんな新しい五輪競技の、新しいスターだ。2023年に16歳で「IFSCクライミングワールドカップ」でデビューすると、初年度からボルダーとリードでそれぞれの年間王者になった。金メダル候補の筆頭として臨んだパリオリンピックは銀メダルにとどまったが、まだ「伸びしろ」を大きく残しつつ、貴重な経験を積んだ。

 今回は安楽選手がスポーツナビの単独インタビューに応じ、本人にとっては少し悔しい記憶であるパリ五輪や、ここまでのキャリアについて語ってもらった。彼は現在17歳で、千葉県内の公立校に在籍する高校3年生。学校生活のリアル、卒業後のビジョンについても触れてもらっている。(取材日:8月11日)

安楽選手が振り返るパリ五輪

スポーツクライミングは持久力、戦略と様々なものが問われる競技だ 【写真は共同】

――銀メダルの獲得から2日が経ちました。今あらためて感じていることはありますか?

安楽 「次はもっともっと勝ちたいな」という、前向きな気持ちになっています。

――気持ちはもう4年後のロサンゼルスに向かっていますか?

安楽 もちろんロサンゼルスオリンピックは出場したいですけど、4年後の目標に向けてやると失敗してしまうのではないかと思います。少しずつ、短い期間でやる気を出して、目標を決めて進んでいけば、ロスが近づいてきたとき、実力も身についていると思います。

――銀メダルを獲得した今回のルートを振り返っていただいていいですか? まずボルダーの4課題はどうでしょう?

安楽 第1課題は完登できて良かったです。第2課題は僕だけ完登したのですが、ただ多分ムーブ(体の動かし方)が少し違って(体力を消耗して)そこがすごく勿体なかったんです。3、4課題目はどちらも落ちてしまいました。第3課題はムーブがなかなか思いつかず、取れないムーブにいって終わってしまった。第4課題は全身の力を出して登る課題ですが、10点の段階で息が上がってきていました。最後が2本指(をピタリとハメる課題)で集中して挑んだのですが、精度も低くて、体力のなさが出てしまいました。

――リードはどうでしたか?

安楽 リードは上部の足(の置き場)がなくなるパートがあって、オブザベーション(下見)した段階で(カギになると)分かっていました。上部の壁から(手前に)出ているホールドがあって、少し傾斜は強いですけど、居やすいポジションなんです。止まってリラックスできるところですが、そこでうまくリラックスできなかったです。トビー(・ロバーツ)選手やベテラン勢は足でグッと耐えるのがうまかった。結果的に、その2つを取れたら96点まで行ったので(金メダルを取れていた)。

――リラックスをするには、何が大切なんですか?

安楽 「ゆっくりできるかどうか」ですね。僕はスッと動的な動きを選んだのに対して、あの選手たちは岩とかをたくさんやっているので「ゆっくり、ゆっくり」でした。腕を使い切ったら、今度は身体で、執念で登るのがすごいです。

安楽選手の英語力は?

国籍を超えて仲がいいクライマーたち 【写真は共同】

――オブザベーションは1課題2分ですが、どんなことを考えるのですか?

安楽 基本的に僕は「いろいろな選択肢」を出すようにしています。その場に行くと「これはないな」「こっちだったか」と(ルートの)分かる場合が多いですけど、最近は分からない課題も多いです。課題の全体が複雑でなくても、だいたい1カ所が分からなかったりして、そこはよく考えます。

――五輪ではオブザベーションをしながら選手同士が会話をしていました。お互いにアドバイスをし合うこともあるんですか?

安楽 それはもう、よくやり取りします。対人競技ではない感じがありますね。スポーツクライミングは人とバチバチに戦っているわけではなくて、「自分がどうするか」で順位が上がっていく競技です。「対人だけど個人」みたいなスポーツで「一緒にこの壁を攻略しよう」という団結感があります。

――スケートボードも他の選手が成功するとライバルが一緒に喜ぶ文化があると聞きますけど、スポーツクライミングは和気あいあいというか、良い雰囲気で競技が進んでいました。

安楽 仲は良いです。多分、単純にみんな性格が良いんだと思います。

――ミックスゾーンで私たち日本メディアとは別に英語のインタビューを受けていましたけど、英語も話せるのですか?

安楽 うーん、まあまあです。言えることは多くなりましたが「これを言いたいのに言えない」といったこともよくあります。

――インタビューはかなり頑張って答えていたんですね。

安楽 自分の考えがまず日本語に変換されるので、5から10秒後に英語を出す感じです。

――オブザベーションのときは、遠くから1人で見ている印象もありました。

安楽 みんな必死なので。英語が不自由な人とは、喋りにくいじゃないですか? なので、僕は(時間の制限がない)裏で話すようにしています。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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