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出場時間では測れない遠藤航の重要性 「勝利」だけを見つめる献身的なチーム愛

森昌利

出場機会に恵まれない遠藤だが、チーム内での信頼は揺らいでいない。スロット監督(左)も「本当に重要な選手」と強調する 【Photo by Chris Brunskill/Fantasista/Getty Images】

 リバプールの遠藤航が2つの国内カップで存在感を見せた。1月8日(現地時間、以下同)、トットナムとのリーグ杯準決勝第1レグでは前半30分から、4部のチームをホームに迎えた3日後のFA杯3回戦ではスタメン出場し、いずれもセンターバックとしてプレー。リーグ戦では相変わらず出番が少ないが、本人の言葉はあくまで前向きで、ピッチに立てば説得力のあるパフォーマンスを継続して披露している。

スロット監督は迷いなく遠藤をCBとして送り出した

 念願が叶い、やっと遠藤航と話をすることができた。

 先週はリバプールの国内カップ2試合を取材した。アウェーでトットナムと戦うリーグ杯準決勝第1レグと、FA杯3回戦のアクリントン戦に出かけて、アンフィールドでの後者の試合後にようやく遠藤に会えた。

 4部リーグ所属の格下を相手に当然のように4-0で勝った試合が終わってまず、2試合続いたセンターバック(CB)起用に対する質問をした。この起用が今後も定着するのかとズバリ聞いた。

「いや、そんなことはないと思います。今、故障者がCBに多い。イブ(イブライマ・コナテ)も戻ってきたばかりで、ジョーイ(ジョー・ゴメス)も怪我をしてる。それに今回(FA杯3回戦)メンバーを変えるってことで、キャプテン(フィルジル・ファン・ダイク)も使わない状況だった。単純にCBがいないというところが1番の理由だと思います」

 ゴメスは12月29日に行われたウェストハム戦でハムストリングを負傷して離脱。そして1月8日、トットナムとのリーグ杯準決勝第1レグでは、ジャレル・クアンサーが体調不良を訴えてわずか30分のプレーでピッチを去ってしまったが、フランス代表DFコナテは12月に膝を痛めてフルトレーニングに復帰したばかりだった。残り60分を任せることには不安がある。

 そんな状況で、アンジェ・ポステコグルー監督がベストメンバーを送り込んできたトットナムを相手に、アルネ・スロット監督は迷いなく遠藤をCBとして送り出した。

 CBでのプレーはリーグ杯準々決勝のサウサンプトン戦でも経験していた。しかしウェンブリーでの決勝進出をかけたトットナムとの対戦は、もうひとつ上のレベルの戦い。その舞台で遠藤は見事に主将ファン・ダイクのパートナーを務めて、最終ラインを守った。

守備に特化した遠藤は監督のなかでDFに近い認識か

リーグ杯のトットナム戦、クアンサーの体調不良により急きょ出場した遠藤は、本職でないCBで奮闘。チームは0-1で敗れたが、監督の起用に応えた 【Photo by Chris Brunskill/Fantasista/Getty Images】

 トットナム戦のハーフタイムに、英大衆紙『デイリー・ミラー』の主任フットボールライターで、英国フットボール記者協会の会長を務めるジョン・クロスが、筆者のところへ「質問がある」と言って寄ってきた。それは遠藤がCBの「経験があるか?」というものだった。

 筆者が「ある」と答えると、「もちろんそうだよな。そうじゃなければ、あれだけのプレーはできない」と言って、納得顔になった。

 強いトットナムが相手でも、スロット監督は遠藤を躊躇(ちゅうちょ)なく最終ラインの中央に送り出した。そこで遠藤本人に「監督は遠藤選手をCBで使うことに不安がないようだが」と聞いた。

「そうですね。まあ、その前に1回(リーグ杯準々決勝)、CBで出たことがありました。そういう新しい形をチームとして作ることは悪いことではないと思う。監督のやりたいサッカーは、やっぱり攻撃でどう違いを作るか、ボールを持ちながらどうやっていくかというところ。だから「6番」がちょっと後ろに落ちて、(CBとして)ビルドアップでもしっかり違いを作りながら守備でも貢献できるというものもあればいい。今は自分の特徴をうまく監督のために活かしながら、(チームに)はまってるという感じです。

 CBは昔からやっていたわけなんで、そんなに違和感なくやれている。そこからボランチに入ったりするオプションもありますし。僕だけじゃないですけど、他の選手も含めて、(そんなオプションを)持てればいいと思ってます」

 この発言は非常に興味深い。ここで遠藤はスロット監督が今季のリバプールに持ち込んだ“変化”を明確に語っている。

 まずスロット監督がやりたいフットボールは、「攻撃でどう違いを作るか、ボールを持ちながらどうやっていくか」と話している。つまりボールを支配しながら攻撃を組み立てるフットボールだ。

 すると昨季まで、過激なカウンタープレスの“ヘヴィメタル・フットボール”を展開していたユルゲン・クロップのチームで不可欠になっていた、中盤の底で最終ラインをプロテクトするアンカーの役割が希薄になった。

 意図的に混乱を生み出すドイツ人闘将のフットボールは、その過激さゆえ、相手の反撃を許すシーンも生んだ。カオスが生んだルーズボールを奪われてカウンターを食らった。そこで1対1のデュエルに強い遠藤がストッパーとして存在感を示す必要があった。遠藤もその期待に応えた。

 ところがスロット監督は、クロップ時代の運動量は保持したまま、予測が難しく、選手の反射神経に頼りがちなカウンタープレスを繰り出す機会を減らし、代わりにポゼッションを上げて、攻撃も守備もチーム全員で意識するオランダ人らしいトータルフットボールでチームの成績を安定させた。

 こうなると、守備に特化した中盤の選手である遠藤は、オランダ人知将のなかでDFに近い認識になっているのかもしれない。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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