92年ぶりの決勝進出に足りなかった「0.03」 サニブラウンがハイレベルなレースで犯したわずかな失敗とは?

大島和人

サニブラウンは惜しくも男子100メートルでの決勝進出を逃した 【写真は共同】

 日本人スプリンターとしては「92年ぶり」の決勝進出がかかったレースだった。サニブラウン・アブデル・ハキームはパリオリンピックの男子100メートル準決勝で、第3組に登場すると9秒96と自己ベストを更新する走りを見せた。日本記録(9秒95)にもあと0.01まで迫る抜群の内容だった。

 もっともこの記録は第3組の4位で、予選突破の条件となる「2位以内」には入れなかった。ワイルドカード2枠目で決勝に進んだ第2組ケネス・ベドナレク(アメリカ)のタイムも、9秒93とサニブラウンを0.03差で上回った。おおよそ「30センチ」の微差で、吉岡隆徳(1932年ロサンゼルスオリンピック)以来となる100メートルの決勝進出はかなわなかった。

80メートル以降の「まとめ」で小さなミス

最後の詰めが決勝進出を逃すポイントだった 【写真は共同】

 本人は世界中の選手、メディアが集まるミックスゾーンに登場すると、開口一番こう切り出した。

「いやあ足りないっすね……。マジで、マジで、足りないっす。本当に、もっといけたなと思います。走りの部分でしっかりまとめてこれなかったです」

 準決勝3組の第5レーンに入ったサニブラウンは、上々のスタートを切った。すぐ左のキシェーン・トンプソン(ジャマイカ)にはやや離されたが、しっかりついていっていた。しかし「ラスト」で伸びなかった。彼は自らのわずかなミスをこう振り返る。

「80(メートル)くらいまでの動きはよかったんですけど、そこから少しテンポが停滞してしまった。レースプラン通りに最後はいけていなかったです。70メートルくらいからやらなければいけないことは分かっていて、やろうとして体を動かしちゃうんですけど、うまく自分の思った動きができなかった。そこができなかったから、決勝にいけなかっただけなのかなと思います」

 ゴール間際の強い前傾姿勢に、このレースにかける思いが出ていた。

「本当に1ミリでも早くゴールに入らなきゃいけないと思いました。準決勝がいちばん切羽詰まるので、ここでしっかり決めなければいけないという走りでした」

 記者やファンが映像を見直しても「ここが足りなかった」と指摘できるような崩れはおそらく見つからないだろう。彼も「テンポの停滞」について記者から問われて、言語化に苦労していた。アスリートの繊細な感覚で、それを第三者に伝えることは容易でない。

 ただ彼は「そこがうまくいっていたら(9秒)91、2くらいで入れた」と悔いていて、微妙なポイントではあっても、今回の決勝進出を左右するには十分の崩れだった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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