早田ひな、卓球女子シングルスで悲願のメダル獲得 倉嶋洋介が脱帽「手負いでもフォアは健在」

C-NAPS編集部

中国人同士による頂上決戦を制した陳夢が連覇達成

前回王者の陳夢が史上最強の呼び声高かった孫穎莎を下して五輪連覇を成し遂げた。陳夢は孫穎莎の「無力化」に成功した 【写真は共同】

 決勝をご覧になった方は、卓球のすごさや面白さを実感していただけたと思います。それくらい試合のレベルが高かったですね。孫穎莎選手はここ2年、最強の名をほしいままにして世界ランキングもずっと1位でしたし、今大会の女子シングルスの優勝候補の筆頭でした。何がすごいかと言うと、男子顔負けのパワー系のボールが打てることです。早田選手のフォアの決定打もすごいのですが、孫穎莎選手は女子史上最強のフォアの威力を持っている選手と言っても差し支えないと思います。

 一方の陳夢選手は、ディフェンディングチャンピオンでありながら中国人選手の層が厚いため、孫穎莎選手に次ぐ2番目の枠を確保するだけでも大変だったようです。世界ランキングも4位で五輪を迎えました。もちろん、2位と3位の選手も中国人です。陳夢選手は対外的に強いのと、五輪という4年に一度しかない大舞台で勝っているという実績も踏まえて経験が豊富ですね。だからこそシングルスの中国女子の2番手として選ばれました。

 ただ、陳夢選手の試合展開はさすがでしたね。お手本のようなプレーぶりを見せました。孫穎莎選手が強いフォアを繰り出すには、ためる時間が必要なんですよね。時間を与えてしまうと孫穎莎選手にとんでもないスマッシュを打たれて、それがほぼ決定打になってしまいます。だからこそ陳夢選手は打球タイミングを早くして、相手に時間を与えさせないプレーを徹底していました。つまり、孫穎莎選手の得意なプレーを「無力化」させました。

 さらに陳夢選手は打球タイミングの早さに加えて、コース取りも上手です。相手が強く打てないところにコース取りを常にしていました。タイミングの早さでは陳夢選手に軍配が上がるので、孫穎莎選手に主導権を与えない試合巧者ぶりを発揮した展開がずっと続きましたね。

 タイミングの早さは女子のプレーにおいて非常に重要ですが、台の近くに立たないとそれを実現できません。台の近くにいる相手に対しては、体の真ん中であるミドルをつく戦法が有効です。台の近くにいると体の真ん中に近づいてくるボールは本当に打ちづらいんですよ。女子の場合はそうしたミドルを活用した戦術を立てるのが常套手段です。そんな中で陳夢選手はミドルでのボール処理においても、群を抜いてうまい選手になります。

 一方の孫穎莎選手は、ミドルを狙われると崩れてしまったり、ボールを強く打てなかったりします。陳夢選手は女子ならではの強さ、早さ、コース取り、ミドル処理が超一流でしたね。そうしたプレーの応酬によって孫穎莎選手の強さを「無力化」していましたし、素晴らしい戦い方だったと思います。こういったところのせめぎ合いが女子の卓球の魅力であり、最高峰のレベルだった決勝はその面白さが凝縮された試合でした。

倉嶋洋介(くらしま・ようすけ)

【本人提供】

名門・明治大学を卒業後、協和発酵に入団。全日本選手権では2001年大会で混合ダブルス優勝、02年、04年、05年大会では男子ダブルス優勝の実績を残す。現役引退後の07年から母校・明治大学のコーチに就任し、水谷隼選手らを指導。10年には卓球男子日本代表のコーチを務め、12年には監督に就任した。16年のリオデジャネイロ五輪では日本男子卓球界初の五輪銀メダルをもたらし、東京五輪でも団体銅メダルを獲得。現在はTリーグの強豪・木下マイスター東京の監督を務めている。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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