MLBポストシーズンレポート2024

ファンを黙らせ、流れをつかんだ「大谷の球音」 2試合連続本塁打でWS進出へ王手【NLCS第4戦】

丹羽政善

10月17日(現地時間)に行われた、ドジャースとメッツによるナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)第4戦。ドジャースは、大谷翔平の先頭打者本塁打など計12安打を放ち、2-10で快勝。WS進出へ、王手をかけた 【写真は共同】

 八回、トミー・エドマンが左翼線に二塁打を放ち、この日4安打のムーキー・ベッツとテオスカー・ヘルナンデスの代走ケビン・キーアマイヤーを迎え入れると、多くのメッツファンは席を立った。その時点で2対9。その後、2対10となり、2死満塁で大谷翔平が打席に立ったとき、もう客席はガラガラ。その3時間前、血気盛んなメッツファンが大谷に強烈なブーイングを浴びせていたのとはあまりにも対照的だった。

 もっとも、そのメッツファンは、試合開始1分で静かになっている。
 
 1ボールからの2球目。大谷が、ほぼ真ん中のシンカーを捉えると、乾いた打球音が球場内に響いた。117.8マイルという打球初速を記録し、それは大谷の本塁打の中でも10番目という痛烈なもの。柵を越えるのに要した時間はわずか4.5秒。打球角度が22度と低かったため、ひょっとしたらフェンス直撃かと思われたが、まったく打球が落下する気配がなく、そのまま右中間のメッツブルペンへ飛び込んでいる。

 そのとき、シティ・フィールドは一瞬にして静まり返ったのだった。

NLCS第4戦は、大谷翔平の先頭打者本塁打で幕を開けた。強烈な一閃に、血気盛んなメッツファンも黙るしかなかった 【Photo by Sarah Stier/Getty Images】

 この日4番に入り、2安打3打点だったエドマンが、あの一発がもたらした意味をこう説明している。

「プレーオフでは、試合の流れが大きな意味を持つ。そこではファンの声援も大きな要素になるが、あそこで翔平がファンを黙らせたことで、こっちが逆に有利になった」

 ファンのため息が、メッツの選手に伝染した。

 なお、このポストシーズンにおいて、走者なしでの安打は、26打席目で初めてとなっている。

同僚が語る、大谷の打球音の凄まじさ

 それにしても凄まじい音がとどろいたが、奇しくも第4戦の試合前、会見に応じたエドマンは、前日の試合で大谷が放った右翼ポール際の本塁打を振り返って、「他の人とは音が違う」と口にした。

「飛距離もまるで違う。ゴルフボールのようだった」

 それを聞いて思い出したのが、ギャビン・ラックスの証言である。プレーオフが始まって間もない頃、内野の守備練習を終えたタイミングで話を聞くと、大谷の打球を「ショットガンのよう」と形容した。

「彼の打球音は、目をつぶっていてもわかる。室内ケージでも音が違うから、そこに向かっているとき、音だけで誰が打っているかわかる」

 それを聞いてまた思い出した。かつて、べーブ・ルースの孫にあたるトム・スティーブンスさんから、こんな話を聞いたことがあったのである。

「祖父が本塁打を打つと、球場の外にいても、『あぁ、ルースがホームランを放ったんだな』と分かったそうだ。打球音が、他の誰よりも凄まじかったから」

 それをラックスに伝えると、「大げさではないと思う」とうなずいた。

「そうであっても、不思議ではない」

 何気ないことだが、音だけでこれだけ話が広がるのも、大谷ぐらいではないか。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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