張本智和の死闘に恩師・倉嶋洋介も感服「この一戦に勝てたら金メダルもあり得た」

C-NAPS編集部

卓球男子シングルス準々決勝に臨んだ張本は、中国の樊振東をあと一歩のところまで追いつめるもベスト8敗退となった 【写真は共同】

 現地時間8月1日、パリ五輪の卓球男女シングルスの各試合が行われた。男子の張本智和(智和企画)は、東京五輪銀メダルの樊振東(ファンジェンドン/中国)に3‐4で逆転負け。女子は平野美宇(木下グループ)が申裕斌(シンユンビン/韓国)に3-4のフルゲームの末に敗れ、早田ひな(日本生命)はピョンソンギョン(北朝鮮)を4-3で下して日本勢で唯一の4強入りを果たした。

 張本、平野はいずれも自身より格上の相手と対戦。あと一歩のところまで追いつめる熱戦を演じただけに、この経験は今後のさらなる成長の糧となるだろう。一方で準決勝に駒を進めた早田は2日(日本時間2日20時30分~)、決勝進出をかけて世界ランキング1位の孫穎莎(スンイーシャ/中国)と激突する。

 3人の日本人がいずれもフルゲームにまでもつれる白熱の試合を展開した。五輪の大舞台でここまでの試合を展開できるようになった背景には、どんな技術面、精神面の成長があったのだろうか。元卓球男子日本代表監督として16年のリオデジャネイロ五輪の男子団体で日本初となる銀メダルをもたらし、21年の東京五輪でも銅メダルを獲得した倉嶋洋介さんに3選手の戦いぶりについて聞いた。

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自身の卓球を貫ける成熟した選手になった張本

世界王者の樊振東をあと一歩のところまで追いつめた張本。そのプレースタイルは倉嶋さんが指導していた時より成熟している 【写真は共同】

 1ゲーム目からバックハンドの攻防に関しては張本選手のほうが上でした。バウンドしてすぐに打ち返すなど打球タイミングが早いので、樊振東選手としては間髪入れずにボールが返ってくる状況に苦しんでいました。その出来がよく、1、2ゲームは圧倒的でしたね。

 しかし、3ゲーム目からボールの外側を捉えるYGサーブ(逆横回転をかけるフォアサーブ)を繰り出されてから流れが変わりました。樊振東選手は展開が悪くなるとYGサーブを使うので、張本選手はその対策にいつも苦戦していました。ただ、3、4ゲームを連取されるところで踏みとどまることができたのは彼の成長ですね。

 YGサーブに対応したことで、今度は樊振東選手が張本選手のチキータレシーブを防ぎに低い縦回転サーブを多用してきました。張本選手はチキータが封じられると、今度は台の近くにボールを落とすストップレシーブで対策。連取されてそのままズルズルいかずに、5ゲーム目を取れたのは素晴らしかったです。

 ただ、樊振東選手は縦回転サーブに加え、横上回転サーブを出してストップレシーブをさせない展開を作ってきました。張本選手もチキータレシーブを復活させましたが、樊振東選手はラリーで負けないように台から少し距離を取って対応していましたね。その展開がずっとでした。2人の対応力の応酬で試合が拮抗していましたが、最後は樊振東選手が打ち切った形となりました。さすが世界王者です。

 中国勢は展開が悪くなると、すぐにサーブ、レシーブを変えるんですよね。並の選手だとそこまで戦術を変えられないんですが、中国勢は劣勢になると戦術の幅を見せてきます。今回は張本選手に作戦が対応されていたので、通用しないと感じてから戦い方を変えていました。高い対応力を示した点は、張本選手を評価したいです。以前よりもかなり選手として成熟した姿を見せてくれました。堂々と自分の戦い方で試合を組み立てることができます。3年間の積み上げを出し切れたと思いますし、この一戦に勝ち、今日のレベルのプレーを継続できたら、「張本選手の金メダルも全然あった」と思っています。

0‐3でも心折れずに気持ちの強さを見せた平野

後がない状況から盛り返してマッチポイントまで迫った平野は惜しくも力負け。気持ちの強さは見せられた 【写真は共同】

 国際大会では、平野選手は申裕斌選手に対して0勝2敗の戦績でした。つまり、勝ったことがありませんでした。平野選手の生命線とも言えるのがバックハンドの技術ですが、申裕斌選手もバックハンドがうまいんですよ。バック対バックでどういう展開になるのかが1ゲーム目の出だしの見どころでした。

 その展開で申裕斌選手が先に主導権を握りましたね。平野選手にとってはバック対バックで打ち負けるよくない展開でした。さらに申裕斌選手はフォアミドルのところをうまく狙うことで、バックの読みを外す戦い方もしてきました。その結果、1、2、3ゲームを連取されて0‐3の窮地に追いやられました。

 ただ、ここからがいつもの平野選手とは違いましたね。今大会は近年にないほど心技体智が充実していて、劣勢の展開に心が折れたり、大崩れしたりすることはありませんでした。この戦いでの心の強さは光っていました。珍しく一本一本声を出して自分を奮い立たせながら試合を進めていたのが、盛り返せた要因になったと思います。

 4、5、6ゲームを取り返して、7ゲーム目で2回ほどマッチポイントがあったので、レシーブをチキータではなく、ツッツキでいきたかったですね。申裕斌選手は、上回転からのラリーが得意なので、その展開は避けたかったところです。また、試合後半はお互いがゾーンに入っている状態でスーパーラリーの応酬が見られた点は素晴らしかったと思います。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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