オーストラリア代表選手たちが見た日本代表の強さ 三笘薫は「世界最高のドリブラーだ」

舩木渉

三笘薫(右)とマッチアップしたルイス・ミラーはスピードとテクニックに翻弄されながらも奮闘した 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

ポポヴィッチ監督が語った手応え

「もちろん我々にとってはいい結果だ」

 記者会見でそう語ったオーストラリア代表を率いるトニー・ポポヴィッチ監督は満足げだった。10月15日に行われた北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の日本代表戦は1-1のドロー。アウェイに乗り込んでの勝ち点1獲得には、監督だけでなく選手たちも手応えを感じているようだった。

 オーストラリア代表は準備段階から逆境に晒された。宿泊していたホテルから試合会場へ向かう途中、チームバスが高速道路の事故渋滞に巻き込まれてしまったのだ。最大90分と言われていた移動は2時間以上となり、スタジアム入りした時には試合開始まで1時間を切っていた。

 しかし、アジアサッカー連盟(AFC)は予定通りに試合を始めることを決定。十分なウォーミングアップ時間を確保できずキックオフを迎えることになってしまった。

「理想的とは言えずとも、それを言い訳にするつもりはない。10分ほどで準備しなければならなかったが、あの状況に素早く対処した選手やスタッフのパフォーマンスは素晴らしかった」

 オーストラリア代表には理不尽な状況に追い込まれても崩れない組織力があった。互いに3-4-2-1を採用したミラーゲームは、前半からボール支配率70%を記録した日本代表が押し込む展開。それに対しオーストラリア代表は5-4-1のブロックを組み、徹底的に中央を締めてサイドからのクロスを跳ね返し続ける。

 10月10日の中国代表戦ではディフェンスラインから丁寧にパスをつないで攻撃を組み立てる姿勢を見せたが、日本代表に対しては割り切った戦い方を選択した。ポポヴィッチ監督にとっては狙い通りのゲーム展開だっただろう。

「選手たちは守備面で非常に毅然としたプレーを見せてくれた。相手はこれまでの3試合で14得点しているチームで、スタメンの11人はみんなヨーロッパのトップリーグでプレーする選手だった。そんな彼らの攻撃を最小限で食い止めなければならなかった。もちろん日本代表には高いクオリティがあり、相手にチャンスを作られる瞬間もあったが、我々はチームとして組織的にうまく守れていたと思う」

三笘薫封じを託されて…

先発メンバー11人全員がヨーロッパ組だった日本と対戦し、オーストラリアの選手たちは何を思ったのだろうか 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】

 指揮官が高く評価した守備面において中心を担ったのは、ディフェンスラインの中央に陣取ったハリー・スーターだった。一方、日本代表のキーマンを抑えるという意味で極めて重要な役割を任されたのは、右ウイングバックのルイス・ミラーだ。スコットランドのハイバーニアンでプレーする若きDFは、三笘薫と対峙して何を感じたのだろうか。

「彼が世界最高のドリブラーだということは誰の目にも明らかだよね」

 そう語ったミラーは「三笘がプレーしている映像をこれでもかというほど見た」といい、プレミアリーグで活躍するウィンガーを抑え込むべく入念な準備をしてきたという。だが、実際の三笘は映像を確認して描いていたイメージを超えてきた。

「三笘は急激に方向を変えるし、0から100までの加速がめちゃくちゃ速かった。だからついていくのは本当に大変だった。しかも、僕は彼よりも身長が高いので、いつもより低く構えて対処しなければならなかった。そうするとドリブルを始動した時に一瞬反応が遅れて、彼に少しだけ時間を与えることになってしまうんだ。でも、代表戦という特別な場だからこそワールドクラスの彼と対戦できるわけだし、学ぶことはすごく多かった。この試合をあらためて分析して、自分が次のレベルに到達することへつなげていきたい」

 一方、ミラーの「高さ」が対三笘において効果を発揮した側面もあった。これまで日本代表はサイドチェンジのロングパスを攻撃のスイッチにすることがあり、三笘はそのターゲットになっていた。だが、今回に限ってはミラーが身長で大きなアドバンテージを持っており、競り合いで不利になると見た日本代表はサイドチェンジを封印することに。

 三笘も「(同じ左サイドの)町田(浩樹)選手からの低いボールが多かったですけど、対角のロングボールは少なかった。もちろんそこは警戒されていたのもありますけど、もう1個飛ばすパスや、相手の目線を変えるプレーといったサウジアラビア代表戦戦の得点シーンなどで出せたところを今日はあまり出せなかったので、もっと揺さぶることが必要だった」と、チームの武器である攻撃パターンを活かせなかったことを悔やんでいた。

 技術や個人戦術では後手を踏んだミラーだったが、攻撃面では高い身体能力を惜しみなく発揮し、58分に果敢な攻め上がりからの高速クロスで谷口彰悟のオウンゴールを誘発した。

「あのゴールは僕のものだと主張したいね(笑)。タイミングよく攻め上がって、危険なエリアにクロスを入れられたのには満足している。この体格だと『DF』として見られがちだけど、自分のフィジカルと前進するスピードが相手を苦しめる可能性があることはわかっているから、ゴールに貢献できたことは嬉しいし、できればもっとゴールに関わっていきたい」

 10日の中国代表戦では187センチの長身を生かした打点の高いヘディングシュートでゴールを挙げて勝利に貢献。そして日本代表戦でも先制点を演出するなど、ポポヴィッチ新体制での改革を象徴するような活躍を披露しているミラーは、現時点での日本代表との実力差を認めつつ、今後への希望を抱いているようだった。

「日本のような高いクオリティを持った選手たちが揃うチームから先制できた。そのリードを維持できればよかったけど、終盤にかけて相手がいい形でプレッシャーをかけてきて、何度もチャンスを作られてしまい、最終的に失点した。

 とはいえ引き分けは妥当な結果だったと思う。そもそも僕たちは9月の2試合で1ポイントしか取れていなかったし、今回のシリーズでは6ポイントのうち4ポイントを確保できたのは上出来だ。日本のサポーターが信じられないほど素晴らしいホームの雰囲気を作っていて、やっぱりアウェイで戦うのはどんな時であれ簡単ではないと思ったよ」

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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