早田ひな、卓球女子シングルスで悲願のメダル獲得 倉嶋洋介が脱帽「手負いでもフォアは健在」

C-NAPS編集部

卓球女子シングルス3位決定戦で、早田は韓国の申裕斌に勝利し銅メダルを手にした。今大会、日本勢で唯一のシングルスでのメダル獲得となった 【写真は共同】

 8月3日、パリ五輪の卓球女子シングルス決勝と3位決定戦が行われた。日本勢で唯一メダルマッチに進出した早田ひな(日本生命)は、3位決定戦で韓国のエース申裕斌(シンユンビン)を4-2で撃破。五輪初出場で悲願のシングルスのメダルを獲得した。

 その後に行われた決勝は、孫穎莎(スンイーシャ)と陳夢(チンム/いずれも中国)の東京五輪と同一カード。同国対決による卓球女子の頂上決戦は、前回王者の陳夢が史上最強と謳われた孫穎莎を4-2で下して連覇を成し遂げた。

 いずれも白熱の展開となった卓球女子シングルスの決勝と3位決定戦。左手の前腕を痛めていた早田の気迫溢れるプレーや世界トップレベルの中国勢による至高の戦いが見られた。元卓球男子日本代表監督として2016年のリオデジャネイロ五輪の男子団体で日本初となる銀メダルをもたらし、21年の東京五輪でも銅メダルを獲得した倉嶋洋介さんは両試合をどう捉えたのか。各選手の戦術や試合のポイントについて聞いた。

ケガの影響が少なめだったフォアハンドで攻めた早田

テーピングを巻いた早田の左腕がケガの壮絶さを物語る。ただ、その影響が少なかったのはバックよりフォアだった 【写真は共同】

 早田選手は左手の前腕を痛めていたため、直前に注射を打ったようですね。注射を打つレベルの痛みなら相当なはずです。僕が経験した中では、痛み止めは錠剤などで済ますことが大半でした。注射を打ってまで試合をするという状況は、ほとんど経験したことがありません。それくらい左腕は壮絶な状態だったのだと想像します。テーピングを巻いていましたが、その間から皮膚がかなり盛り上がっていたので、相当強く締めつけていたのでしょう。

 ケガの影響としては、サービスやバックハンド系の動きは前腕や手首を使うので、試合序盤はかなりやりづらさがあったように見受けられます。バックハンドのミスも多かったので、「やはり左腕がかなり痛いんだな」と思っていました。申裕斌選手も、バックハンドを執ように狙っていましたね。明らかにバックハンドやチキータレシーブは躊躇(ちゅうちょ)していました。なので、序盤は早田選手にとって少しまずい展開が続きましたね。

 申裕斌選手はバックハンドもチキータレシーブも得意な選手です。1ゲーム目は、申裕斌選手がチキータレシーブからラリー展開をしていき、早田選手のミドルをついて強打を抑えつつ、先取に成功した流れでした。2ゲーム目くらいから早田選手が狙われているバックハンドに関してブロック気味の対応をしましたね。あまり手首などを使わずに相手のボールに合わせる形でバックサイドをカバーしていました。

 幸いなことに早田選手の得意なフォアハンドは、バックに比べてケガの影響は大きくないように映りました。そのため、バック側は安全なプレーで収め、チャンスがあればフォアで決めるという形のプレースタイルで戦っていたと思います。序盤はかなり違和感や痛みと戦いながらプレーしていたと想像します。バックが難しいから、どうフォアで決めるかという戦術に切り替えていった流れでした。

 手負いの中での申裕斌選手対策としては、非常にうまくいっていたと思います。徐々に調子が上がってきた後は、もうアドレナリンが出ていたのでしょう。特に5、6ゲームは本来の早田選手のプレーぶりでした。注射の効きもそうですし、「メダルを持ち帰る」という気持ちもあり、いつものプレーが蘇っていましたね。早田選手はシングルスでのメダルに懸けてきましたから、決定力が高く得意な「フォアハンドで決めるんだ!」という魂がアタックに宿っていましたし、それで勝ち切れました。

 早田選手は左利きでフォアが強い選手で、申裕斌選手は右利きでバックの強い選手なので、左右のかみ合わせ的に早田選手がフォアを繰り出しやすい点は、両選手のスタイルの相性の様なところです。バックの強い右利きの選手に対して、左利きのほうがフォアを攻めやすい部分もあったかと思います。

石田コーチとの二人三脚でつかんだ栄光

ケガの影響で窮地に立たされていた早田だが、どんな時も一緒だった石田コーチの存在は心強かったはずだ 【写真は共同】

 早田選手は幼少期に石田卓球クラブに通っていたのですが、創設者である石田眞行さんの息子が石田大輔コーチです。元々、父である眞行さんが幼少の早田選手を育て、卓球選手としての礎を築きました。そして、石田大輔コーチがそのバトンを受け継ぎ、現在は専属コーチとして二人三脚で五輪までの道のりを歩んできました。もう身内というか、石田コーチの家族のようなサポートがあったからこそ早田選手との師弟関係もここまで長く続いているのだと思います。

 一方で、腕がいいから雇ったコーチの場合は、卓球という競技においてはその関係性が長く続かないことが多いですね。何もかもを分かっている石田コーチの存在があったからこそ、五輪でのメダル獲得につながったのかと。卓球の指導はいわずもがな、メンタル面のケア、食事による栄養面のサポートについても精力的に行い、トップ選手としての在り方をずっとすぐそばで指導してきました。そうした長年によって培われた信頼関係が、“チームひな”の結束力につながっているのだと思います。

 早田選手の銅メダル獲得の快挙は非常に喜ばしいのですが、今後の団体戦などに向けて左腕のケガが本当に心配です。痛み止めを注射して試合であれだけ腕を振っているので、状態が悪化していても不思議ではありませんし、団体戦を回避することもあり得ると思います。ただ、本人は絶対に出たいはずです。自分がエースとして日本を勝たせるという責任感が強いので、身を粉にして頑張るという気持ちはあるでしょうね。
 
 早田選手の今後もあるので、周囲がどこで止められるかが焦点です。出場するのであれば、早田選手が団体戦も全うすることになりますが、難しい場合はリザーブの木原美悠選手(木下グループ)と交代することになります。リザーブと交代してしまうと早田選手は団体戦には出られないので、そこまでに決断する必要があります。本人の意志だけでなく、チームとしての総合的な判断になるでしょう。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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